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弁護士コラム
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公開日:2025.7.9
企業法務労働契約の審査ポイント
弁護士法人PROの弁護士 沢津橋信二です。
従業員を雇う際に、口頭で済ませてしまっている企業も多いかと思います。
しかし、そんな企業ほど、労務トラブルの火種を抱えています。
労働契約書は、労働者との権利義務関係を明確にし、トラブルを未然に防ぐための“
最低限のルールブック”です。
今回は、使用者(企業)側から見た、労働契約書の作成と見直しにおける重要ポイントを紹介します。
雇用リスクを管理し、将来の紛争を避けるために欠かせない観点ばかりです。
1.契約書に「網羅性」があるか
労働契約書は、労働条件通知書の内容を内包しつつ、企業と従業員の“合意”として署名されるものです。
よって、次のような最低限の情報は必ず盛り込みましょう。
注意点:就業規則に委ねる部分が多い場合でも、契約書には「就業規則に準拠する」旨を記載し、その内容を労働者が確認できる体制を整えておく必要があります。
2.雇用形態ごとの設計ができているか
正社員、契約社員、パート、業務委託など、雇用形態ごとに契約書の記載内容やリスクは異なります。
特に重要なのは、有期雇用労働者には更新条件・上限回数・雇止めの方針を明記することが大切です。
また、試用期間については、期間だけでなく、本採用拒否の可能性と評価基準を記載することが大切です。
さらに、短時間労働者や有期雇用労働者の場合には、昇級の有無、退職手当の有無、賞与の有無、短時間労働者の雇用管理の改善等の事項に係る相談窓口に関する事項についても定めなくてはなりません(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律6条1項、同規則2条1項)。
中途半端なテンプレートで全雇用形態をカバーしようとすると、契約内容が曖昧になり、労使間の認識にズレが生じやすくなりますので、面倒がらずに雇用形態ごとに作成することが大切です。
3.固定残業代(みなし残業)を適正に運用しているか
特に中小企業で多いのが、固定残業代制度をめぐる紛争です。
運用の仕方を間違えると、未払残業代が請求されるリスクがあります。
このようなリスクを軽減するため、以下を必ず記載することが重要です。
例:「月額30時間分の時間外手当として50,000円を支給し、30時間を超える時間外労働があった場合は別途支給する」
また、固定残業代の金額が職種や等級と整合しているかも確認が必要です。
4.就業規則との整合性を確認する
労働契約において、労働条件は個別の労働契約書のみで決定するわけではなく、企業側が就業規則を定めている場合は、その内容が、労働契約となる場合もあります。
実際にも、労働契約書には詳細を記載せず、「詳細は就業規則による」と記載されていることも多いです。
したがって、就業規則でも、上記のような労働条件を詳細に定めることが肝要です。
このとき、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分の限りにおいて無効となり、無効となった場合は就業規則で定めた基準によることとなります(労働基準法93条、労働契約法12条)。
ただし、労働契約において、就業規則で定める基準よりも労働者にとって有利な労働条件を定めることは可能です(労働契約法7条但書、労働契約法12条)。
また、そもそもの話になるのですが、就業規則が労働条件として効力を有するには、労働者に周知させていることが必要なことを忘れてはいけません。
ここでいう「周知」とは、実質的に当該事業場の労働者が就業規則の内容知り得る状態に置くことを言います。
5.書面の管理・交付体制は整っているか
実務上ありがちな落とし穴として、「契約書は取り交わしたが、控えを渡していない」「紙で交付していない」といったミスがあります。
このようなことがないように、双方署名済みの契約書の控えを必ず従業員に渡しましょう。
また、電子契約の場合も、出力可能な状態での保存と提供をしましょう。
労基署からの調査や、退職時の紛争で「契約書が存在しない・交付していない」と指摘されると、企業側の不利な事情にもなりえますので、この点を見落とさないでください。
労働契約書は、「入社時の儀式」ではなく、法的リスクをコントロールする文書です。
労働基準法その他の法律等に準拠しつつ、誤解や抜け漏れのないものを作成しましょう。
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