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公開日:2025.11.17
企業法務プロ野球選手とスポンサー契約の基本と注意点
弁護士法人PROの弁護士 沢津橋信二です。
プロ野球選手の活躍は、グラウンドの内外に広がりを見せています。
その影響力は、
企業の広告やブランド戦略にも大きく関わり、選手と企業の関係性は年々多様化しています。
今回は、企業が選手の活動を金銭的・物的に支援し、その見返りとして広告効果を得る「スポンサー契約」について取り上げます。
本コラムでは、プロ野球選手とスポンサー企業の双方が安心して契約を結ぶための基本と留意点を整理します。
1.はじめに
前回はプロ野球選手のエンドースメント契約について説明してきましたが、今回はスポンサー契約について説明していきます。
エンドースメント契約とスポンサー契約は何が違うのかと思うかもしれませんが、エンドースメント契約は、主にプロ野球選手が商品・サービスを推薦・使用することを前提とした契約であり、企業側は、プロ野球選手のイメージ・信頼性・影響力 を活用して、商品のブランド価値を高めることができます。
一方で、スポンサー契約は、企業がプロ野球選手に金銭的・物的支援を行い、その見返りとして広告効果を得る契約であり、企業側は、プロ野球選手の活動自体に資金提供するため、広告だけでなく活動の継続を支援する社会的側面も有するため、企業イメージの向上に寄与する利点があります。
このように、スポンサー契約は、ある程度、長期的・広範囲なブランド露出が念頭にあるので、契約上もこの特徴に沿った注意点が必要です。
2.スポンサー契約の主な条項とチェックポイント
(1)契約目的条項
内容:スポンサー(企業)がプロ野球選手に資金や物品を提供し、その見返りとして広告・広報効果を得る契約の趣旨を定める。
チェックポイント
◆契約の目的(広告目的か社会貢献目的か)を明確にしているか。
◆どの活動(大会・シーズン・イベント等)を対象としているか特定されているか。
上述のように、スポンサー契約は、ある程度長期間定められることが多いですが、
大会やイベントだけのスポットに焦点を当てたものもあります。
この場合には、どの活動を対象にしているかを特定する必要があります。
(2)提供内容(スポンサー側の義務)
内容:スポンサーが提供する資金・物品・サービスなどの内容。
チェックポイント
◆金銭支援・物品提供の内容、金額、支払時期が明示されているか。
◆物品提供の場合、品質・納期・補償責任などを定めているか。
プロ野球選手側としては、 企業からの金銭支援や物品提供が得られることを主な理由としてスポンサー契約を結ぶのですから、この点が最も重要な点であることは疑いがありません。
金銭の場合は、金額や支払時期が明確であれば、そこまで大きな問題は生じませんが、金額に条件がある場合には要注意です。
例えば、企業側も野球選手が自社製品を使用することによりブランド認知・向上を目的に売上アップを期待しているため、 売上毎に金額が定められていたり、一定数の売上があった際にボーナスがある場合には、そのような条件を認めてよいのか、その売り上げは達成可能なものなのか、金額は妥当なのかといった点に注意する必要があります。
物品についても、期待していたものと異なる場合が往々にしてあるケースなので、この点にも注意しましょう。
特に、提供を受ける物品については、選手のパフォーマンスに関連するものが多いので、可能であれば提供を受けるサンプルを送ってもらい、使用してみて納得する物を詳細に契約書に盛り込みましょう。
(3)権利の付与(広告・ロゴ使用権等)
内容:スポンサーが得る広告露出の権利や、名称・ロゴの使用範囲を定める。
チェックポイント
◆スポンサー名・ロゴをどの媒体に、どのように掲出できるか(道具、看板、Webサイト、放送等)を具体的に記載しているか。
◆第三者が権利侵害を起こした際の対応責任を明確にしているか。
・主催者や他スポンサーとの整合性(優先順位やサイズ規定など)が取れているか。
スポンサー契約をするプロ野球選手というのは、基本的に人気も高く、他の企業ともスポンサー契約をしている可能性が高いです。
スポンサーにはヒエラルキーが存在します。
例えば、タイトルスポンサー(最上位)/プラチナ/ゴールド/シルバー/サプライヤーなどです。
上位ほど露出が多く、掲出面の面積・掲載位置・露出回数・指名権で優遇されます。
そのため、契約書には契約相手の階層名や、それに紐づく具体的権利(例:バックボード最上段左から2番目、道具の中のロゴ幅○mm以上、試合前アナウンスで社名読み上げ 等)が記載されているかを確認しておき、他の契約と矛盾がないか注意する必要があります。
(4)肖像・商標・ロゴ使用に関する条項
内容:スポンサーが選手の肖像・ロゴ・名称を使用できる範囲を定める。
チェックポイント
◆使用可能な範囲(SNS投稿、広告キャンペーン、販売促進物など)を限定しているか。
◆使用期間、使用地域、媒体を具体的に特定しているか。
◆契約終了後の利用禁止や削除義務を明記しているか。
前回のエンドースメント契約の回でも説明しましたが、プロ野球選手は球団との契約により、肖像の使用を球団やNPBに許諾しているケースが一般的です。
したがって、
選手が個人として企業と契約するスポンサー契約の場合、球団との契約に抵触しないようにする必要があります。
(5)イベント・活動協力義務
内容:支援対象がスポンサーのプロモーションに協力する範囲を定める。
チェックポイント
◆出演回数や時間など、協力義務の内容が明確か。
◆スケジュール調整に関する事前協議条項があるか。
◆スポンサー側が不当な要求をしないよう、協力範囲を限定しているか。
(6)独占権・競合スポンサー条項
内容:スポンサーに独占的な広告権を付与するか、または競合スポンサーを制限する条項。
チェックポイント
◆「競合」となる範囲(業種・製品カテゴリー)を具体的に定義しているか。
◆主催者が他のスポンサー契約を結ぶ余地があるのかどうか。
◆過度に排他的でないか(公正取引法上の配慮)。
(7)契約期間・更新・中途解除
内容:契約の有効期間、更新方法、解除条件。
チェックポイント
◆契約期間と対象イベントの開催期間が一致しているか。
◆不可抗力(大会中止・自然災害など)の場合の対応を定めているか。
◆一方的な中途解除を防ぐため、合理的な事由を限定しているか。
(8)報酬・支払方法
内容:スポンサー料の金額、支払方法、支払期日。
チェックポイント
◆支払条件(前払い・分割・後払い)が明示されているか。
◆消費税の取扱い、請求書の発行方法など実務面が整理されているか。
◆イベント中止時の返金・減額ルールが規定されているか。
(9)道徳条項
内容:選手・イベント主催者の不祥事によるイメージ毀損時の対応。
チェックポイント
◆社会的信用を損なう行為の定義が明確か。
◆SNS上の発言など軽微な行為まで解除理由となっていないか。
これらの点もエンドースメント契約と大要同じです。
すなわち、「不祥事」の定義が漠然としていないか(例:刑事事件に限るのか、SNSでの不適切発言も含むのか)、成績の低下を含むのか(成績の低下とはいかなる場合を指すのかの基準が明確か、成績の低下が一度でも満たせば解除できるのか等)、解除権行使の条件が一方的に企業有利になりすぎていないかといった点に注意する必要があります。
解除されたこと自体が世に報道されると、それ自体で選手のイメージが低下するので、
その点の選手のプライバシー権保護の配慮はされているのか等に注意しましょう。
3.まとめ
スポンサー契約は、前回のエンドースメント契約と共に、プロ野球選手にとって競技外の第2の収入源であると同時に、イメージ形成やブランディングに大きく関わる契約でもあります。
企業にとっても、選手との契約はブランド戦略の一部です。
だからこそ、双方にとって納得のいく内容で契約を結ぶことが、長期的な信頼関係につながります。
契約書を読み解く力は個人選手だけでは限界があります。
弁護士や専門家のアドバイスを受けながら、自らの価値を適切に守る契約を目指しましょう。
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