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公開日:2024.7.1
企業法務【名古屋/知的財産】ドメイン名の保護(不正競争防止法)について
弁護士法人PROの松永圭太です。
今回は、「ドメイン名の保護(不正競争防止法)」について取り上げます。
1.不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」法律です。
不正競争防止法では、不正競争行為として以下の10の類型を規定し、不正競争行為を行った者に対しては、差止めの請求や損害賠償の請求、信用回復の措置を求めることができ、不正競争行為の内容によっては刑事罰(ドメイン名については刑事罰の定めはありません)も科されます。
<不正競争行為の類型>
①周知な商品等表示の混同惹起
(弁護士コラム「周知又は著名な商品等表示への規制」(不正競争防止法)」を参照ください)
②著名な商品等表示の冒用
(弁護士コラム「周知又は著名な商品等表示への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
③他人の商品形態を模倣した商品の提供
(弁護士コラム「商品形態の模倣への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
④営業秘密の侵害
(弁護士コラム「営業秘密の保護(不正競争防止法)」を参照ください)
⑤限定提供データの不正取得等
(弁護士コラム「限定データの保護(不正競争防止法)」を参照ください)
⑥技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供
(弁護士コラム「技術的制限手段無効化等の提供行為への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
⑦ドメイン名の不正取得等
⑧商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示
(弁護士コラム「誤認惹起表示への規制」を参照ください)
⑨信用毀損行為
⑩代理人等の商標冒用
今回は、「⑦ドメイン名の不正取得等」に焦点を当ててみます。
2.ドメイン名とは
ドメイン名とは、不正競争防止法で、「インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号、記号又は文字の組合せに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合」と定義されています。
簡単に言うと、インターネット上の住所に当たる情報です。
具体的には、以下の下線部分を指します。
URLの場合:https://www.xxx.co.jp
ドメイン名
メールアドレスの場合:xxxx@xxx.co.jp
ドメイン名
インターネット上の住所としてIPアドレスが使用されていますが、IPアドレスは最大12桁の数字の羅列であるため、人にとっては分かりづらいことから、この数字を人が認識しやすい文字列に変換したものがドメイン名です。
例えば、裁判所のウェブサイトのIPアドレスは数字の羅列ですが、そのURLは、https://www.courts.go.jpとなっています。
ドメイン名に「courts」(裁判所)が用いられていますので、人にとって認識しやすくなっています。
3.ドメイン名の不正取得等の行為
不正競争防止法では、
①図利加害目的で、②他人の特定商品等表示と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有、又はそのドメイン名を使用する行為
を不正競争として規制しています。
(1)図利加害目的
図利加害目的とは、不正の利益を得る目的(図利目的)又は他人に損害を加える目的(加害目的)のことを言います。
図利目的とは、公序良俗、信義則に反する態様で自己の利益を不当に図る目的を言います。
例えば、
◆有名な企業の顧客誘引力を利用するために、当該企業の名称と同一・類似のドメイン名を使用する場合
◆有名な企業に不当に高額な値段で売りつけるために、当該企業の名称と同一・類似のドメイン名を使用する場合
が図利目的に当たります。
加害目的とは、他人に対して財産上の損害や信用失墜などの有形無形の損害を加える目的を言います。
例えば、
◆有名な企業の信用を落とすために、当該企業の名称と同一・類似のドメイン名を使用してアダルトサイトを開設する場合
が加害目的に当たります。
(2)特定商品等表示
特定商品等表示とは、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、その他の商品又は役務(サービス)を表示するものを言います。
例えば、「マリオカート」「MARIO KART」「マリカー」は、任天堂株式会社のゲームソフト(商品)を表示するもので、特定商品等表示に当たります。
(3)同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有、又はドメイン名を使用する行為
特定商品等表示と同一・類似するドメイン名を使用する権利を取得・保有、又はドメイン名を使用する行為が、不正競争となります。
当該ドメイン名が、特定商品等表示と類似するドメイン名かどうかは、「両者の外観、呼称、又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるかどうか」という基準で判断されます。
これは、弁護士コラム「商標の類似性判断について」で記載した商標の類似性判断基準とほぼ同じです。
裁判例では、マリオカートに登場するキャラクターのコスチュームを貸し出した上で、公道上を走行することができるカートを貸し出すという事業を行っていた会社が使用していた「maricar」や「fuji-maricar」のドメイン名について、任天堂株式会社の特定商品等表示である「MARIO KART」(外観が類似)「マリカー」(呼称が類似)と類似すると判断されています。
「ドメイン名を使用する権利」とは、ドメイン名登録機関に対してドメイン名の使用を請求できる権利のことを言います。
ドメイン名を使用する権利の「取得」には、
◆ドメイン名登録機関に対する登録申請によってドメイン名を使用する権利を自己のものとする場合
◆登録機関からドメイン名の登録を認められた第三者から移転を受けることによってドメイン名を使用する権利を自己のものとする場合
◆登録機関からドメイン名の登録を認められた第三者からドメイン名の使用許諾を受ける場合
が含まれます。
ドメイン名を使用する権利の「保有」とは、ドメイン名を使用する権利を継続して有することを指します。
「保有」も規制対象とされているのは、ドメイン名を使用する権利の「取得」の時点で図利加害目的がなかった場合、「取得」を不正競争とすることはできませんが、その後、「保有」の最中に図利加害目的があれば、「保有」を不正競争とすることができるためです。
ドメイン名の「使用」とは、ドメイン名をウェブサイトの開設等の目的で用いる行為を指します。
4.おわりに
ドメイン名の登録は、原則として誰もが先着順に登録することできる制度になっていますが、ドメイン名を使用する権利の取得、保有、ドメイン名の使用行為が不正競争に該当する場合があります。
ドメイン名に関する不正競争は、刑事罰の対象にはなっていませんが、差止め(取得したドメイン名の使用の禁止等)や損害賠償請求の対象となります。
判断に迷う場合は、弁護士にご相談ください。
以上
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