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公開日:2021.5.31
企業法務営業秘密の保護(不正競争防止法)について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は「営業秘密の保護(不正競争防止法)」について取り上げます。
1.不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」法律です。
不正競争防止法では、不正競争行為として以下の10の類型を規定し、不正競争行為を行った者に対しては、差止めの請求や損害賠償の請求、信用回復の措置を求めることができ、不正競争行為の内容によっては刑事罰(営業秘密侵害罪等)も科されます。
<不正競争行為の類型>
①周知な商品等表示の混同惹起
②著名な商品等表示の冒用
③他人の商品形態を模倣した商品の提供
④営業秘密の侵害
⑤限定提供データの不正取得等
⑥技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供
⑦ドメイン名の不正取得等
⑧商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示
⑨信用棄損行為
⑩代理人等の商標冒用
今回は、企業において重要性が増している「営業秘密」について焦点を当ててみます。
2.営業秘密とは
不正競争防止法では、営業秘密は、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。
したがって、営業秘密に該当するためには、①秘密管理性(秘密として管理されていること)、②有用性(生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること)、③非公知性(公然と知られていないこと)という3つの要件を満たすことが必要です。
なお、この3つの要件に関しては、経済産業省が公表している「営業秘密管理指針」(最終改訂:平成31年1月23日)が参考になります。ただし、これは、不正競争防止法による法的保護を受けるための最低限の水準の対策を示すのみですので、情報漏えい防止や情報漏えい時に推奨される(高度なものを含めた)包括的対策については、経済産業省が公表している「秘密情報の保護ハンドブック」(平成28年2月発行)が参考になります。
(1) 秘密管理性
営業秘密を保有する企業の秘密管理意思(※1)が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性(※2)が確保される必要があります。
つまり、営業秘密を保有する企業が、ある情報を秘密であると主観的に認識しているだけでは不十分で、秘密管理意思が、具体的な状況に応じた経済合理的な秘密管理措置によって、従業員等に明確に示されていなければなりません。
ア 秘密管理措置
秘密管理措置は、①対象情報(営業秘密)の一般情報(営業秘密ではない情報)からの合理的区分と②当該対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置とで構成されます。
①合理的区分とは、企業の秘密管理意思の対象(従業員にとっての認識の対象)を従業員に対して相当程度明確にする観点から、営業秘密が、情報の性質、円卓された媒体、機密性の高低、情報量等に応じて、一般情報と合理的に区分されることを指します。
例えば、紙であればファイル、電子媒体であれば社内LAN上のフォルダなどアクセス権の同一性に着目した管理がなされることが典型的ですが、業態によっては、書庫に社外秘文書(アクセス権は文書によって異なる)が一括して保存されるケースもあり、そのような管理も合理的区分として許容されています。また、特許出願を行う部署などの一部署を入室制限付きの執務室として、当該執務室内の情報は全て営業秘密とすることも許容されています。
②当該対象情報について営業秘密であることを明らかにする措置とは、秘密管理措置の対象者である従業員において当該情報が秘密であって、一般情報とは取扱いが異なるべきという規範意識が生じる程度の取り組みであることを指します。
主として、媒体の選択や当該媒体への表示(マル秘、社外秘のスタンプ)、当該媒体に接触する者の限定、ないし、営業秘密たる情報の種類・類型のリスト化、秘密保持契約(あるいは誓約書)等において守秘義務を明らかにすること等が想定されています。
例えば、営業秘密に合法的かつ現実的に接しうる従業員が少数である場合には、状況によっては当該従業員間で口頭により「秘密情報であること」の確認をしている等の措置で足りる場合もあります。
イ 秘密管理措置の一例
① 紙媒体の場合
・ファイルの利用等により一般情報からの合理的区分を行った上で、基本的には、当該文書に「マル秘」など秘密であることを表示する方法。
・個別の文書やファイルに秘密表示をする代わりに、施錠可能なキャビネットや金庫等に保管する方法。
② 電子媒体の場合
・データ等の電子媒体で保管している場合も基本的には紙媒体と同様ですが、電子情報の場合は、通常、次のような方法のいずれかによって、秘密管理性の観点から充分な秘密管理措置となり得ます。
・外部のクラウドを利用して営業秘密を保管・管理する場合も、営業秘密として管理されていれば、秘密管理性が失われるわけではなく、階層制限に基づくアクセス制御等の措置が取られていればよいとされています。
③ 物体に営業秘密が化体している場合
・製造機械や金型、高機能微生物、新製品の試作品等、物件に営業秘密情報が化体しており、物理的にマル秘表示の貼付や金庫等への保管に適さないものについては、次のような方法のいずれかによって、秘密管理性の観点から秘密管理措置となり得ます。
④ 媒体が利用されない場合
・例えば、技能・設計に関するもの等従業員が体得した無形のノウハウや従業員が職務として記憶した顧客情報等については、従業員の予見可能性を確保し、職業選択の自由にも配慮する観点から、原則として、次のような形で、その内容を紙その他の媒体に可視化した上で、上記①~③の方法で媒体を管理する必要があります。
・例えば、未出願の発明や特定の反応温度、反応時間、微量成分、複数の物質の混合比率が営業秘密になっている場合(化学産業等で多く見られます)等で、その情報量、情報の性質、当該営業秘密を知りうる従業員の多寡等を勘案して、その営業秘密の範囲が従業員にとって明らかな場合には、必ずしも内容そのものが可視化されていなくとも、当該情報の範囲・カテゴリーを口頭ないし書面で伝達することによって、従業員の認識可能性を確保できると考えられます。
⑤ 複数の媒体で同一の営業秘密を管理する場合
・同一の情報を紙及び電子媒体で管理することが企業実務で多く見られますが、複数の媒体で同一の営業秘密を管理する場合には、原則として、それぞれの媒体について秘密管理措置が講じられる必要があります。
※1 秘密管理意思とは、特定の情報を秘密として管理しようとする意思のことを指します。
※2 認識可能性とは、情報にアクセスした者が秘密であると認識できることを指します。
(2) 有用性
当該情報が客観的に見て、事業活動にとって有用であることが必要です。ただし、企業の反社会的行為等の公序良俗に反する内容の情報には「有用性」は認められません。
当該情報が現に事業活動に使用・利用されている必要はなく、また、経費の節約、経営効率の改善等に役立つものも含まれます。
例えば、設計図、製法、製造ノウハウ、顧客名簿、仕入先リスト、販売マニュアル、過去に失敗した研究データ、製品の欠陥情報には有用性が認められます。
(3) 非公知性
当該営業秘密が一般的には知られておらず、又は容易に知ることができない状態にあることが必要です。
第三者が偶然同じ情報を開発して保有していた場合でも、当該第三者も当該情報を秘密として管理していれば、非公知性を満たします。
3.営業秘密の侵害
営業秘密の侵害に関する不正競争行為は、①不正取得、②不正使用・開示、③営業秘密侵害品譲渡等の3つの類型に分けられます。
(1) 不正取得類型
・正当な情報取得権限がない者が、窃取、詐欺、強迫その他の不正な手段により営業秘密を取得する行為(不正取得行為)は、不正競争となります。
営業秘密
⇩
不正な手段を用いて取得する行為
・不正取得行為によって取得した営業秘密を使用し、又は開示したりする行為も不正競争となります。
不正取得によって取得された営業秘密
⇩
使用、開示する行為
・営業秘密の不正取得行為が介在したことを知りながら(悪意)、又は重大な過失により知らないで(善意重過失)、営業秘密を取得する行為は、不正競争となります。
不正取得によって取得された営業秘密
⇩
不正取得について悪意又は善意重過失での取得行為
・営業秘密の不正取得行為が介在したことを知りながら(悪意)、又は重大な過失により知らないで(善意重過失)取得した営業秘密を、使用し、又は開示する行為は、不正競争となります。
不正取得について悪意又は善意重過失で取得した営業秘密
⇩
使用、開示する行為
・営業秘密の不正取得行為が介在したことについて、重大な過失なく知らなかった場合であっても、取得後、悪意又は善意重過失となった場合において、営業秘密を使用し、又は開示する行為は、不正競争となります。
不正取得の介在によって取得された営業秘密
⇩
取得後、不正取得の介在について悪意又は善意重過失での
使用、開示行為
(2) 不正使用・開示類型
・営業秘密を保有する事業者(保有者)からその営業秘密を示された者が、不正の利益を得る目的(図利目的)又はその保有者に損害を加える目的(加害目的)で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為は、不正競争となります。
保有者
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営業秘密
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図利、加害目的で使用、開示する行為
・その営業秘密について不正開示行為(図利、加害目的での開示行為)であること、若しくはその営業秘密の不正開示行為が介在したことを知りながら(悪意)、若しくは重大な過失により知らないで(善意重過失)、営業秘密を取得する行為は、不正競争となります。
不正開示行為によって取得された営業秘密
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不正開示行為について悪意又は善意重過失での取得行為
・不正開示行為によって取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為は、不正競争となります。
不正開示行為について悪意又は善意重過失で取得した営業秘密
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使用、開示する行為
・営業秘密の不正開示行為があったこと若しくは不正開示行為が介在したことについて、重大な過失なく知らなかった場合であっても、取得後、悪意又は善意重過失となった場合において、営業秘密を使用し、又は開示する行為は、不正競争となります。
不正開示行為で取得した営業秘密
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取得後、不正開示行為又はその介在について
悪意又は善意無重過失での使用、開示する行為
(3) 営業秘密侵害品譲渡等
・上記(1)~(2)の類型に当たる行為(技術上の秘密を使用する行為に限ります)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為は不正競争となります(※)。
※ ただし、当該物を譲り受けた者が、その譲り受け時当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者による行為を除きます。
営業秘密は、企業の競争力の源泉として、その重要性が年々増しております。この機会に、自社の営業秘密の管理について見直してみてはいかがでしょうか。
以上
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