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公開日:2021.6.16
企業法務「事故物件」の告知ルールに関するガイドライン案について
弁護士法人PROの伊藤崇です。
入居者が亡くなったいわゆる「事故物件」について、宅地建物取引業者が売買や賃貸をする際の告知事項をまとめたガイドライン案(「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)」以下「ガイドライン案」と言います)が国交省から公表されました。
居室内で自殺や殺人等が起きた事故物件については、心理的瑕疵があるものとされ、事故物件を売買や賃貸する場合に買主・賃借人に告知する義務が課されます。
しかし、告知すべき対象事項や告知すべき期間等について明確なルールがなく、具体的な取り扱いが宅地建物取引業者の判断に委ねられていました。
そのため、契約締結後に訴訟等のトラブルに発展したり、逆にそうしたトラブル回避のために告知が過剰になり負担が大きくなる、単身高齢者の入居自体が敬遠される場合がある、といった弊害が生じていました。
今回、国が示す初めてのガイドライン案が公表されました。
そこで本稿では事故物件に関するガイドライン案について取り上げています。
ガイドラインは本年6月18日まで一般から意見を募った上で最終決定されます。
ガイドライン案のポイント
ガイドライン案のポイントをまとめると下記の通りとなります。
1.ガイドライン案の適用対象
・ガイドライン案の適用対象は、居住用不動産です。
・居室内だけでなく、ベランダ、共用玄関、エレベーター、廊下、階段等も範囲に含みます。従って、集合住宅の共用玄関やエレベーターで他殺等が生じた場合にはそのことも告知対象に含みます。
・隣接住戸や前面道路で発生した事案の取扱いについてはガイドライン案の対象外とされました。
2.事案ごとの告知の要否
【原則告知不要】
・自然死
・日常生活の中での不慮の事故死(転落・転倒・誤嚥など)
※但し、例えば買主や賃借人が自然死であっても契約を拒否するといった特別の意思表示を事前に示していた場合には告知が必要な場合も想定されます。
【告知必要】
・他殺
・自死
・【原則告知不要】の事故死以外の事故死(例:火災、ガス漏れ)
・原因が明らかでない死が生じた場合
・【原則告知不要】の死亡事案について、長期間の放置等により臭気・害虫が発生し特殊清掃等が行われた場合
3.告知の内容
・死亡事案の発生時期、場所及び死因を告知します。
自然死等であるが長期間の放置等により臭気・害虫が発生した事案にあっては、これに加えて、発見時期及び臭気・害虫が発生した旨も告知の必要があります。
・「死因」とは、他殺・自死・事故死の区別をいいます。
・亡くなった方の氏名、年齢、家族構成や具体的な死亡原因、発見状況の告知は不要です。遺族等のプライバシーへの配慮の必要性からです。
・宅地建物取引業者が媒介を行う際には、売主・貸主・管理業者に照会した内容をそのまま告げることが推奨されています。
4.告知の範囲
【賃貸借契約の場合】
・事案発生から概ね3年以内は告知が必要とされています。
従って、賃貸借契約においては事案発生から3年経過後は原則告知が不要になります。
・賃貸借契約においては、事案発生後に別の賃借人が居住すれば、事後は告知不要とする運用も一部で行われているところですが、ガイドライン案ではこのことについて言及はあるものの告知の範囲を制限する事由には盛り込まれませんでした。
【売買契約の場合】
・当面の間、賃貸借契約のような期間制限は設けず、無期限で告知を要する、とされています。
5.宅地建物取引業者による調査の範囲
・宅地建物取引業者は、売主・貸主に対して物件状況等報告書その他の書面に、過去に生じた事案についての記載を求めることにより、必要な調査義務を果たしたものとされます。
・上記照会先の売主・貸主あるいは管理業者から、不明と回答された場合や回答がなかった場合でも、宅地建物取引業者としては照会したこと自体により必要な調査をしたものとされます。
・例えば周辺住民への聞き込みやインターネットサイトの調査といった自発的な調査は原則として不要です。
・宅地建物取引業者は、契約締結後、引き渡しまでに告知を要する死亡事案について知った場合についても告知義務があることに注意を要します。
6.ガイドライン案の位置づけ
【宅地建物取引業者の責務の判断基準としての位置づけ】
ガイドライン案に違反したこと自体で直ちに宅建業法違反になるわけではありません。
とはいえ、ガイドライン案に反する対応をしたことにより顧客とトラブルになった場合には行政庁における監督に当たってガイドラインが考慮されることになる、とされていますので、事実上の強制力を持っていると考えるのが無難です。
【民事上の責任の位置づけ】
個別の不動産取引における事故物件の告知に関する民事上の責任は、依頼内容や締結される契約内容等によって個別に判断されるものであり、宅地建物取引業者がガイドライン案に基づく対応を行っていればどのようなケースであったとしても民事上の責任を回避できる、という強い免責効までは本ガイドラインは持っていません。
結局は、ケースバイケースの判断ということになります。
とはいえ、例えば賃貸借契約の仲介において、死亡事案発生後3年以上が経過した物件につき、入居交渉時点において賃借人が死亡事案の有無について仲介業者に確認をしてこなかったような場合には、ガイドライン案に沿った対応をしていたことが仲介業者の責任を否定する大きな根拠になるものと思われます。
7.まとめ
ガイドライン案の内容はこれまでの仲介業務の運用から乖離したものではなく、そうした意味では目新しさはありません。
ただ、国がルールを定め公表したことの意義はたいへん大きく、ガイドラインが最終決定されれば、宅地建物取引業者としては以後はガイドラインに沿った運用を行う必要があります。
以上
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