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弁護士コラム
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公開日:2025.6.24
企業法務【M&A】クロージング条件の定め方
弁護士法人PRO 弁護士の柏木太郎です。
М&Aは、企業を成長させるための有効な手段であり、昨今は中小企業でも盛んに行われています。
しかし、どのスキームであれ、M&Aの最終契約を締結し、それに基づく実行や決済(クロージング)を行うことになります。
クロージング条件は、譲渡対象の会社・事業や譲渡対価である金銭等が移動するための前提条件や方法を定める非常に重要なものです。
クロージング条件が適切に定められていないと、想定外の損害を被るリスクがあります。
今回は、クロージング条件の基本的な定め方をご紹介します。
М&Aでお悩みであれば、弊所へお気軽にご相談ください。
1.クロージング条件の典型例
(1)株主総会・取締役会等の承認取得
クロージングの実行にあたって、株主総会や取締役会の決議等が必要な場合に、きちんと承認決議が為されていることを条件にするものです。
クロージング条件の最も基本的な条件です。
(2)表明保証の正確性・真実性が保たれている
クロージングの前段階において、法令遵守や簿外債務の不存在などを表明保証している場合に、当該表明保証の正確性と真実性がクロージング時も保たれていることを条件とするものです。
表明保証をしてからクロージングまでの間に問題が発生することも珍しくありませんので、これをカバーするための条件です。
(3)クロージング時に重大な支障が発生していないこと(MAC条項)
表明保証の正確性・真実性と似ていますが、クロージング時に、買手が事業を継続していくにあたって重大な支障や悪影響を及ぼす事象が発生していないことを条件とするものです。
例えば、売手の財務状態が著しく悪化した場合が想定されます。
買手にとっては想定外のリスクからの保護を実現できますので、重要な条件となります。
(4)小見出し
上場会社や大企業に特有ですが、独禁法や外為法に基づく手続きが必要となる場合はこれらもクロージング条件に含む必要があります。
2.事案に応じて盛り込むべき条件
(1)キーパーソンとの雇用維持
買収対象企業に特定のキーパーソンがおり、そのキーパーソンが退職してしまうとM&Aやその後の事業に支障を生じさせる場合は、キーパーソンとの雇用が維持されることを条件とすることがあります。
特に中小企業やベンチャー企業が買収対象であるM&Aでは必要性が高い条件です。
どうしてもキーパーソンの退職が避けられない場合は、キーパーソンに競業避止義務を課す等の代替措置が考えられます。
キーパーソンへの依存度があまりに高い場合は、M&A自体からの撤退もありえるでしょう。
(2)重要取引先との関係性維持
買収対象企業の売上の大きな割合を占める等、重要取引先が存在する場合に、その取引先との契約更新やM&Aの承諾を得ることを条件とするものです。
(3)債務の返済・消滅・軽減
高額な借金や未払給与などがある場合に、このような債務の返済や軽減を条件とするものです。
株式譲渡や合併等、買収対象の権利義務を包括的に譲り受けるスキームでは特に重要な条件です。
簿外債務も視野に入れて条件を定める必要があります。
(4)許認可の手続の履行
飲食業や建設業など、事業を営むうえで許認可が必要な業種を買収する場合、許認可の承継等の手続が完了していることを条件にすることが考えらえます。
クロージング後に買手側で許認可の手続きを行うということもなくはないですが、クロージング後直ちに事業をスタートしたい場合は、許認可の手続きがクロージング前に完了していることを条件に設定しましょう。
(5)紛争やトラブルの解決
裁判等の紛争や第三者からのクレーム等、買収対象が抱える紛争やトラブルの解決を条件とするものです。
特に、買収対象企業に被告として高額な請求をされている裁判が係属中である場合には必ず検討すべき条件です。
3.クロージング条件を定めるに当たってのポイント
まず、曖昧な文言にせず解釈の余地のない明確な文言で規定すべきです。
客観的に明快で、誰が読んでも同じ結論が導き出される文言を使用しましょう。
誰が・何を・いつまでに行わなければならないのか、明確に定めなければなりません。
クロージング条件に実効性を持たせるため、クロージング条件を達成できなかった場合の取扱いも明記する必要があります。
契約を解除する、違約金が発生する、クロージング日を延期する、代替措置を実行するなど、取扱いは様々ありえますから、実態に即した取扱いを定めておく必要があります。
4.まとめ
今回は、М&Aを進めるうえで避けては通れないクロージングの前提となるクロージング条件について、その例や定め方のポイントをご紹介しました。
特にM&A後も買収対象企業で事業を営む買手にとっては、想定外の損失を被らないようにするためにも入念にクロージング条件を検討し、リスクヘッジを効かせられるクロージング条件を定めることがM&Aを成功させる重要な鍵となります。
大きな取引であるM&Aを安全かつ迅速に進めるためには、適切なクロージング条件を定めなければなりません。
М&Aに不安を感じている場合は、お気軽に弊所へご相談ください。
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