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公開日:2021.10.13
企業法務企業のコンプライアンスについて
弁護士法人PROの伊藤崇です。
早いもので本年も残すところあと3ヶ月となりました。
本年も残念ながら不正や不祥事に関する報道が数多くあった、という印象です。
不正や不祥事が行われると「コンプライアンス」という言葉をよく聞きます。
「コンプライアンス」は特に企業活動においては普通に用いられる言葉になっています。
ただ、きちんと理解せずに使われてしまっているのではないかとも思うところです。
そこで今回は、コンプライアンスの基本的な内容について取り上げています。
1.コンプライアンス概念とその推移
コンプライアンス(compliance)を直訳すると「法令遵守」と訳されることが多いです。
但し、これはコンプライアンス概念が導入された初期の意味合いであり、現在では、単に法令だけではなく、ルールや規範の遵守という意味合いで用いられることが通常で、さらにはそこに企業の社会的責任(CSR)を含めて用いられることもあります。
もともとコンプライアンスという概念は欧米の考え方であり、日本でコンプライアンスが重視されるようになったのは1990年代頃からと言われています。
日本では、公共事業に関する汚職・談合やバブル崩壊前の杜撰な信用調査による巨額貸付、バブル崩壊後の不良債権化など、法律やルールはありつつも自社や自身の利益を優先することによりルールが形骸化してしまっており、ひいてはそれが国民全体の損失につながる、という問題点が浮き彫りになっていました。
また、経済はグローバル化し、日本企業の多くが海外に進出し日本とは異なる経済ルールに触れることになり、他方で海外からは欧米式考え方(コンプライアンス)を日本企業にも遵守させたい、という声が上がるようになりました。
さらに、官から民への規制緩和・自由競争経済を推し進める一方で、野放図に自由な競争を認めた場合のルール違反・逸脱の弊害を除去する必要もありました。
そのために法制度上様々な施策が講じられましたが、その1つとして会社法に法令遵守と内部統制に関する条項(※1)が規定されるに至りました。
※1
◎会社法362条4項6号
取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
◎会社法施行規則100条1項4号
使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
会社法自体が求めているものは「法令及び定款に適合すること」と「社内に法令違反を起こさないような体制を整備し運用すること」ですが、ルールに基づく公正な企業活動による競争、という理念が定着するようになると、単に法令を遵守するだけに留まらず、それ以上の業務の適正さが求められるようになります。
法令違反ではないものの法の抜け穴をかいくぐるような脱法的行為や、トラブルや事故発生時の不適切な対応、あるいは責任隠蔽をしているかのような印象を持たれてしまうことに対して、社会的非難が殺到するようになりました。
加えて、インターネットやSNSのインフラ化により、不正や不祥事は隠し通すことができなくなり、不正や不祥事を一度起こすとマスコミやインターネット上で集中砲火を浴び、不正や不祥事に関するインターネット上の記事は半永久的にインターネット上を漂うようになりました。
ここに来て、企業は単に法令を遵守しているだけでは企業防衛としては不十分であり、遵守の対象は社会のルールやマナー(広い意味の規範)にまで広がったのです。
コンプライアンスについても法令遵守ではなく、「法令等遵守」「規範遵守」という概念として捉えられるようになりました。
さらには、企業のステークホルダー概念の拡大(経営者や一部の役職員のみ→投資家・従業員・消費者・地域社会・地球環境)や、企業に対して社会が求める内容の拡大(自社の利益追求→利益追求+社会的責任を果たすこと)と相まって、コンプライアンスの重視は企業価値の指標の1つになりつつあります。
コンプライアンス重視の企業は不祥事リスクが少なく業績の安定が期待できる。CSR重視の企業は企業の持続可能性が高まり株主価値の向上に貢献する。従って、コンプライアンス・CSR重視の企業は信頼できる優良企業であり、将来的にも安定した成長が期待できる(だから、投資価値がある)といった具合です。
もともとコンプライアンスというと不正・不祥事の予防やリスク回避・リスク低減といった守りの側面を意識することが多かったのが、自社の企業価値の向上や競争力の向上のためにコンプライアンスを重視すべき、といった攻めの側面も意識されるようになっています。
コンプライアンス概念は時代とともに変化していく概念であり、その時々の社会的情勢や自社の環境に応じて、随時、自社内のコンプライアンス概念をアップデートしていく必要があるのです。
2.コンプライアンスの必要性と重要性
様々な分類の仕方がありますが、概ね以下の3点から企業活動においてコンプライアンスは必要かつ重要であると考えます。
これはなにも大会社や上場企業に限った話ではなく、中小企業にもあてはまる事項です。
①リスクの低減のため (守りの側面)
■コンプライアンス違反による損害賠償や、例えば業務停止命令などの行政処分による営業機会の喪失等のコンプライアンス違反から直接生じる損失の回避
■コンプライアンス違反や報道等による自社の信用失墜から生じる損失の回避
②企業価値の向上・競争力の向上のため (攻めの側面)
■コンプライアンス重視の企業は社会や取引先業からの評価・信用・安心感を得られやすい。
■コンプライアンス重視の企業は不祥事リスクが少なく業績の安定が期待できる。CSR重視の企業は企業の持続可能性が高まり株主価値の向上に貢献する。コンプライアンス・CSR重視の企業は信頼できる優良企業であり、将来的にも安定した成長が期待できる・・・という企業価値の1つの指標になっている。
③魅力的な職場環境作りのため
■人材の確保(採用)・人材の流出防止(離職率の低下)
■企業と役職員との信頼関係の維持・向上が不正・不祥事の予防になる。
3.コンプライアンス違反(不正や不祥事)が起きるとどうなるか
直接の加害者(行為者)には、会社からの懲戒処分によって配置転換や出勤停止といった処分が下り、会社に残れたとしても出世は期待できなくなってしまう場合が多いでしょう。場合によっては懲戒解雇処分となり会社に残れなくなることもあります。
また、事案によっては刑事責任を問われることもあり、逮捕・勾留といった身柄拘束を受けたり、罰金・懲役といった刑罰を受け、前科が付いてしまうこともあるでしょう。
会社や被害者に金銭的損失や肉体的・精神的苦痛を負わせていた場合には民事上の賠償責任を負うこともあり、個人が支払う金額としては決して低額ではない金額の賠償を命じられてしまいます。時には個人としてはとても支払えない高額な賠償を命じられる場合もあります。
コンプライアンス違反が発生した企業にも重いペナルティが科されます。
被害者に対して金銭賠償をすることはもちろん、企業が組織としてコンプライアンス違反をしていた場合には監督官庁から行政処分を受けることもあり、例えば業務停止命令を受けた場合には営業停止により大きな損失が生じてしまうことがあります。また、マスコミやインターネット上でバッシングを受けることになり、企業活動にとって極めて重要である「信用」を失ってしまいます。過去にもそうした信用失墜による顧客離れや取引先離れにより倒産に至ってしまった企業は数多くあります。
企業が倒産すると、そこで働いていた役員・社員も職を失うことになってしまい、その家族も・・・と考えていくと被害は広がっていくばかりです。
また、ハラスメント事案や企業主導の不正事案について言えることですが、職場環境は悪化していきますので、その職場で働く人にとっても苦痛を与えてしまうことになります。
※コンプライアンス違反により被害者が出てしまった場合、もちろんその方が最たる被害者であることは言うをまちません。本稿ではコンプライアンス違反が生じた側に焦点を当てる関係で被害者の立場については言及を割愛しております。
4.コンプライアンス違反の予防策
上述のようにコンプライアンス違反は加害者個人にも企業にも甚大な損失をもたらす危険性があるものです。
しかし、一向にコンプライアンス違反がなくなる気配はありません。
コンプライアンス違反が起きてしまう原因を分類すると以下のように分類できると考えます。
① そもそもコンプライアンス違反だと知らずに行ってしまう (知・不知の問題)
例:ネット上のコピー、道交法違反
② 安易な気持ちで行ってしまう (この程度ならいいだろう。意識の高低の問題)
例:SNSへの投稿、飲み会の席上で顧客情報を話題に出すこと
③ 動機・利益と結びついて行ってしまう (動機・利益・機会の問題)
例:横領、転職に際しての秘密情報の漏洩、売上増のための法令違反、粉飾決算
上記原因を踏まえた場合の予防策としては以下のような対策を講じることが考えられます。
①何がコンプライアンス違反になるかを知る・そのための機会(例:研修)を提供する。
②コンプライアンス意識を高める・そのための機会(例:研修)を提供する。
③ゼロリスクを目指すのではなく、リスクの早期発見・拡大防止に注力する。
④特に重要なことは、不正・不祥事が行われている、あるいは、何かがおかしい、と気づいた社員が上司に報告し、上司が経営者に判断を仰ぐ、というフロー。いわゆる【風通しの良さ】が維持されること。
※会社法上の大会社(資本金5億円以上or負債200億円以上)・上場企業以外の会社については法令上、内部統制システムの構築義務はありません。従って、会社法上の大会社・上場企業以外の会社については、コンプライアンスのためのリスクマネジメント体制の構築は各社の任意に委ねられています。
上記はいずれも概略的な事項であり、実際には企業ごとの実情や過去事例も踏まえて対策を講じていく必要があります。
また、コンプライアンス概念は時代の変化とともに移り変わっていくことが予想されます。その移り変わりに伴ってコンプライアンス違反の予防策も定期的にアップデートしていく必要があるように思います。
以上
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