弁護士法人PRO | 人事 労務問題 中小企業法務 顧問弁護士 愛知 名古屋 | 伊藤 法律事務所

弁護士コラム
Column
Column
公開日:2025.7.28
企業法務プライバシーポリシーの契約書解説:サービス提供者が知っておくべきこと
弁護士法人PROの弁護士 伊藤崇です。
現代社会において、個人情報はビジネスの重要な資産である一方、 情報漏洩は企業の信用を失墜させます。
ニュースで見る情報漏洩のたびに、ユーザーは不安を抱えています。
そんな時代に、ユーザーからの信頼を得るため不可欠なのが、プライバシーポリシーです。
ユーザーとの間の「大切な契約書」であり、ビジネスを法的なリスクから守り、成長を支える「盾」でもあります。
本コラムでは、サービス提供者の皆さまが知っておくべきプライバシーポリシーに関する法的側面や実務上の注意点を、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
弊所HPに開設している契約書ダウンロードページにおいても【プライバシーポリシー(サービス提供者)】をご用意しておりますので、下記解説を踏まえながらご利用いただければ幸いです。
契約書ダウンロードページ:https://i-l.info/contracts/
1.なぜ今、プライバシーポリシーが重要なのか?
現代社会において、インターネットサービスは私たちの生活に深く根付いています。
SNSでのコミュニケーション、オンラインショッピング、動画視聴など、 私たちは日々、さまざまなデジタルサービスを利用し、その過程で個人情報を提供しています。
サービス提供者にとって、ユーザーから預かる個人情報は事業運営の基盤であると同時に、極めて慎重な取り扱いが求められる大切な資産です。
しかし、個人情報が適切に扱われなかった場合、情報漏洩や不正利用といった重大な問題に発展し、企業は社会的信用の失墜、巨額な賠償責任、そしてユーザーからの信頼喪失といった甚大なダメージを受ける可能性があります。
このような状況において、プライバシーポリシーは単なるウェブサイトの「お飾り」ではありません。
それは、サービス提供者がユーザーに対して「どのように個人情報を取り扱うか」を明確に示し、ユーザーとの間に信頼関係を構築するための極めて重要な「約束の書」であり、法的な義務を果たすための生命線なのです。
2.プライバシーポリシーと法律
プライバシーポリシーの作成・運用には、さまざまな法律が深く関係しています。
これらの法律を理解することが、
適切なプライバシーポリシーを策定する第一歩となります。
(1)プライバシーポリシーの「土台」
日本において、個人情報の取り扱いを包括的に規制しているのが個人情報保護法です。
この法律は、
個人情報の適正な取り扱いを義務付け、個人の権利利益を保護することを目的としています。
サービス提供者は「個人情報取扱事業者」として、
以下の基本的なルールを守る必要があります。
◆利用目的の特定と通知・公表:個人情報を取得する際は、その利用目的をできる限り具体的に定め、あらかじめ公表するか、取得後速やかに本人に通知する必要があります。プライバシーポリシーは、この「公表」の役割を果たす重要なツールです。
◆適正な取得:偽りその他不正の手段によって個人情報を取得してはなりません。
◆安全管理措置:漏洩、滅失または毀損の防止、その他の個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません。
◆第三者提供の制限:原則として、本人の同意なく個人データを第三者に提供することはできません。同意を得る場合も、どのような情報を誰に提供するのかを明確にする必要があります。
◆開示・訂正・利用停止等の請求への対応:本人から個人情報の開示、訂正、利用停止などの請求があった場合、法令に基づき適切に対応する義務があります。
プライバシーポリシーには、これらの個人情報保護法で定められた事業者の義務を具体的に記載することが求められます。
(2)特定のサービスにおける追加要件
オンラインで商品やサービスを提供する事業者は、個人情報保護法だけでなく、特定の事業分野に特化した法律も考慮する必要があります。
◆特定商取引法:通信販売などを行う事業者が対象となり、広告表示義務や書面交付義務などが定められています。個人情報の取得方法や利用目的についても、この法律の趣旨に沿った適切な記載が求められる場合があります。
◆電気通信事業法:メールやSNS、動画配信など、電気通信サービスを提供する事業者が対象となります。通信の秘密の保護や、利用者の同意に基づかない通信傍受の禁止などが定められており、プライバシーポリシーでもこれらの点を踏まえた記載が必要になります。特に、ウェブサイトの閲覧履歴や行動履歴を追跡する**Cookie(クッキー)**の利用については、ユーザーへの説明と適切な同意取得が必須となります。
また、ユーザーのデータが海外のサーバーに転送される場合など、
海外へのデータ移転に関する規制も遵守する必要があります。
国際的なデータ保護規制、例えば欧州のGDPR(一般データ保護規則)なども視野に入れる必要があるケースもあります。
(3) 関連判例・ガイドラインから読み解く実務上のポイント
これまでの個人情報に関する判例や、個人情報保護委員会が公表しているガイドラインは、
プライバシーポリシーの実務上の解釈や運用において非常に重要な指針となります。
過去には、利用目的が不明確であったり、同意取得の方法が不適切であったために、企業が法的責任を問われた事例も存在します。
これらの事例から学び、
どのような記載や運用が「不適切」と判断されるリスクがあるのかを把握することが重要です。
個人情報保護委員会のウェブサイトなどで公開されているガイドラインやQ&Aは、具体的にどのような対応が求められるのかを知る上で非常に役立ちます。
3.あなたのサービスは大丈夫?典型的な落とし穴
多くのサービス提供者が陥りやすい、 プライバシーポリシーに関する典型的な「落とし穴」を具体例で見ていきましょう。
◆事例1:利用目的が不明確なケース
「取得した個人情報はサービス向上に利用します」という記載は、一見問題なさそうに見えますが、これだけでは不十分と判断される可能性があります。
「サービス向上」という言葉は漠然としており、具体的にどのように利用されるのかがユーザーに伝わりません。
例えば、「アンケート調査の実施を通じてお客様のニーズを把握し、新機能の開発に役立てます」のように、より具体的に記載することが求められます。
◆事例2:第三者提供における同意取得の不備
提携企業と共同でキャンペーンを行う際など、ユーザーの個人データを提携先に提供するケースは少なくありません。
この時、「個人情報を提携企業に提供することがあります」とだけ記載し、 具体的な提携企業の名称や提供する情報の種類、提供目的を明示せずに同意を得ている場合、同意が有効とみなされないリスクがあります。
提供先や提供目的を具体的に記載し、明確な同意を得る必要があります。
◆事例3:プライバシーポリシーの変更を通知しないケース
事業の拡大や法改正に伴い、プライバシーポリシーの内容を変更することは当然あり得ます。
しかし、変更した際にユーザーに一切通知せず、ひっそりとウェブサイトを更新するだけでは不適切です。
重要な変更の場合、メールでの通知やウェブサイト上での告知など、 ユーザーに確実に伝わる方法で変更内容と施行日を知らせる必要があります。
◆事例4:Cookie利用に関する同意取得が不十分なケース
多くのウェブサイトで利用されているCookieは、ユーザーの利便性向上やマーケティング活動に不可欠な技術です。
しかし、ユーザーの閲覧履歴などを追跡するCookie(トラッキングCookieなど)を利用する場合、 ユーザーに利用目的を説明し、明確な同意を得ることが求められます。
ウェブサイトにアクセスした際に表示されるCookie同意バナーなどで、 ユーザーがCookieの利用に同意するかどうかを選択できるようにすることが重要です。
4.よくある疑問を解消!
プライバシーポリシーに関して、よくある疑問や誤解を解きほぐしていきます。
◆「ひな形をそのまま使えば安心」という誤解
インターネット上には多くのプライバシーポリシーのひな形が出回っていますが、これをそのまま利用するのは非常に危険です。
事業内容や提供するサービスは多種多様であり、
それに応じて取り扱う個人情報の種類、利用目的、取得方法なども異なります。
ひな形はあくまで参考とし、ご自身のサービスに合わせて内容をカスタマイズすることが不可欠です。
不足や誤りがあれば、法的リスクにつながります。
◆「個人情報保護法だけ守ればOK」という誤解
前述の通り、
個人情報保護法は個人情報取り扱いの基本となる法律ですが、それだけで全てが完結するわけではありません。
特定商取引法や電気通信事業法、さらに海外のデータ保護規制など、関連する他の法律も遵守する必要があります。
自身のサービスに適用される全ての法令を把握し、プライバシーポリシーに反映させることが重要です。
◆「利用規約とプライバシーポリシーの違い」
「利用規約」と「プライバシーポリシー」は、どちらもサービス利用に関するルールを定めるものですが、その目的と法的性格は異なります。
・利用規約:サービス全般の利用条件(料金、禁止事項、著作権など)を定めるもので、 ユーザーとサービス提供者間の契約内容を明記します。
・プライバシーポリシー:個人情報の取り扱い(取得、利用、管理、第三者提供など)に特化したもので、 個人情報保護法などの法令遵守の観点から作成されます。
両者は密接に関連していますが、それぞれの役割を理解し、適切に使い分けることが求められます。
◆同意取得の方法論
個人情報の取得や第三者提供に際して、ユーザーから「同意」を得ることは極めて重要です。
この同意は、 ユーザーが内容を理解した上で自らの意思で行われたものである必要があります。
具体的には、単にサービス利用規約に「同意する」というチェックボックスを設けるだけでなく、プライバシーポリシーへのリンクを分かりやすく表示したり、特に重要な項目については別途ポップアップなどで注意喚起したりするなど、ユーザーが内容を十分に認識できるような工夫が求められます。
単に「同意したものとみなす」といった一方的な表示は、有効な同意と認められない可能性が高いです。
5.信頼されるサービスのために
弁護士として、サービス提供者の皆様に強くお伝えしたいのは、プライバシーポリシーは「ユーザーとの約束」そのものだということです。
単なる法律遵守のための形式的な文書ではなく、ユーザーが安心してサービスを利用できる環境を提供するための、非常に重要なコミュニケーションツールなのです。
形式的に法令の要件を満たすだけでなく、その内容がユーザーにとって「分かりやすく」「透明性がある」ものであることが、これからの時代にはますます求められます。
曖昧な表現を避け、具体的な取り扱いを明記することで、ユーザーからの信頼を得ることができます。
また、インターネット技術や社会情勢は常に変化しています。
それに伴い、 個人情報保護に関する法制度やガイドラインも定期的に改正されます。
一度プライバシーポリシーを作成したら終わり、ではなく、定期的な見直しと最新の法改正への対応が不可欠です。
新たなサービスを開始する際や、既存のサービスで個人情報の取り扱い方法を変更する際には、 必ずプライバシーポリシーの内容も確認・更新するようにしましょう。
万が一、個人情報の取り扱いに関してトラブルが発生した場合、適切なプライバシーポリシーの有無、そしてその内容通りの運用がなされていたかどうかが、 企業の責任を判断する上で決定的な要素となります。
トラブルを未然に防ぎ、安心して事業活動を行うためにも、プライバシーポリシーの作成や見直しに際しては、専門家である弁護士に相談することを強くお勧めします。
ユーザーからの信頼を勝ち取り、持続可能なサービス運営を実現するために、プライバシーポリシーの適切な策定と運用に真摯に取り組んでいきましょう。
何かご不明な点があれば、いつでもご相談ください。
弊所HPに開設している契約書ダウンロードページにおいても【プライバシーポリシー(サービス提供者)】をご用意しておりますので、下記解説を踏まえながらご利用いただければ幸いです。
契約書ダウンロードページ:https://i-l.info/contracts/
オンライン会議・
チャット相談について
まずはお気軽に、お電話またはフォームよりお問い合わせください。