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公開日:2025.12.23
企業法務プロ野球の選手契約(統一契約)の締結と注意点
弁護士法人PROの弁護士 沢津橋信二です。
プロ野球選手が球団と結ぶ基本的な契約は「選手契約(統一契約)」と呼ばれ、 日本プロ野球協約(NPB協約)に基づき、リーグ全体で契約書式が統一されている点が大きな特徴です。
本コラムでは、その仕組と押さえておくべき注意点を整理します。
1.統一契約とは何か
統一契約とは、プロ野球協約に基づき
NPBが定める、球団と選手が必ず締結する基本契約です。
内容の多くはリーグ全体の規律維持のために標準化されており、個別に大きく変更する余地は限定的です。
(1)主な特徴
◆NPBが定める統一書式(標準フォーム)を使用
◆全選手が同じ契約を締結するので球団間で内容の差が生まれない構造
◆年俸や出来高など一部のみが交渉の対象
つまり、選手は球団との間で自由契約を結ぶのではなく、 リーグ全体のルールに組み込まれる形で契約を締結します。
2.統一契約の構造
統一契約の主な項目は大まかに以下のとおりで、非常にシンプルです。
(1)統一契約書の核心部分
◆契約期間(1年・単年契約が原則)
◆報酬(年俸)と出来高
◆選手の義務(練習参加、競技活動、球団の指示に従う義務等)
◆球団の義務(用具、旅費、治療費の負担、報酬支払等)
◆行動規範・禁止事項
◆契約解除・選手の移籍・公示に関するルール
これらに加え、別紙として球団独自の「報酬に関する覚書」や「出来高規定」が付くのが一般的です。
3.年俸と出来高の交渉
統一契約において、選手と球団が主に交渉できる項目は
①年俸
②出来高
③補償金の有無・内容
に限定されます。
(1)注意点
◆年俸はプロ野球協約が定める最低年俸以上でなければならない
(1軍:1700万円、支配下選手:480万円、育成選手:240万円)
◆選手側は選手会公認制度による代理人を立てて交渉可能
◆出来高の内容は「客観的基準」である必要があり、曖昧な表現は不可
◆契約金(入団時の一時金)は統一契約の対象外で、別の書面で取り扱われる
4.契約期間と選手の拘束
統一契約は「1年契約」が原則で、毎年オフシーズンに更新します。
(1)注意点
◆契約期間中は選手自ら勝手に他球団へ移籍できない
◆退団・引退を選手が一方的に宣言できるものではない
◆球団は、戦力外通告・自由契約のタイミングについて協約上の制約を受ける
5.医療・故障時等の扱い
統一契約では選手の治療費や傷害補償、選手自らの責任による事故減額等定められていますが、プロ野球協約等でも、選手が故障した場合の対応や治療の指示権が細かく規定されています。
(1)注意点
◆球団の指定医師の診断・治療方針に従う義務
◆故障者リスト(IL)入りの手続きは球団が決定する
◆治療費の負担は原則として球団
◆リハビリの計画・参加の義務
スポーツ選手には怪我は付きものであり、選手の身体管理と球団の競技計画が密接に関わる領域であることからトラブルの多い部分です。
医療・故障時等の規定は、統一契約だけではなくプロ野球協約やガイドライン等にも幅広く規定されているので、これらにも理解していることが必要です。
統一契約は、契約解除やトレードについて細かく決められており、これは一般のスポーツ契約と比べても特殊です。
(1)契約解除に関する注意点
◆契約期間中の選手からの解除は、報酬の未払(支払日から14日を超えて履行されない場合)、球団が正当理由なく選手の野球技術・能力等の研鑽その他野球の指導等を放棄した場合等の事情が必要
◆契約期間中の球団からの解除は、選手が統一契約・野球協約・育成選手規約等の規定違反や、育成選手として十分な技術能力の研鑽等野球活動を故意に怠った場合等の事情が必要
◆自由契約・ウェーバー公示・育成再契約などの手続は協約に従う
(2)FA権との関係
年数を満たせば国内FA・海外FAを取得
ポスティングシステム利用は球団の裁量
プロ野球の選手契約(統一契約)は、NPBの競技組織としての公正性・透明性を確保するために設けられた制度であり、選手個人の自由契約とは大きく異なります。
その分、選手は球団との交渉の自由が限定される一方で、安定した競技環境・手厚い医療支援・リーグ全体の秩序といったメリットもあります。
しかし、統一契約の枠組みを正しく理解していないと、故障治療をめぐるトラブル、野球選手としての模範行為違反(試合中のSNSアップロードや観客との喧嘩等)、契約解除などの問題につながりやすいのも事実です。
選手にとっては、年俸交渉の戦略、SNS運用、身体管理、副業の許可申請などを適切に行うための法的理解が不可欠です。
また、統一契約は、選手のキャリアにおける核となる契約であり、これまでコラムでも解説してきたエンドースメント契約や、スポンサー契約等の周辺契約にも大きな影響を与えます。
したがって、プロ野球選手にとって選手契約を正しく理解することは、自らの身を守ると同時に、活躍の機会を広げることにも有用です。
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