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公開日:2026.8.28
法改正親権行使者の指定とは?~共同親権で意見が合わないときの手続を解説~
弁護士法人PROの弁護士 沢津橋信二です。
2026年4月1日に改正民法が施行され、離婚後についても、父母双方を親権者とする「共同親権」を選択できるようになりました。
共同親権の場合、子どもに関する重要な事項については、原則として父母が共同で親権を行使します。
しかし、実際の生活では、
「子どもをどの学校に進学させるかで意見が合わない」
「子どもの転居について元配偶者が同意してくれない」
「子どもに必要な医療について意見が対立している」
など、父母の意見が一致しないことも考えられます。
このような場合に利用できるのが、親権行使者の指定という家庭裁判所の手続(民法824条の2第3項)です。
本コラムでは、 親権行使者の指定とはどのような制度なのか、どのような場合に利用できるのか、申立ての方法や注意点について解説します。
1.親権行使者の指定とは
父母双方が親権者である場合、
親権は原則として父母が共同して行使します。
もっとも、共同して親権を行使しなければならない特定の事項について父母の協議がまとまらない場合、いつまでも結論を出せなければ、かえって子どもの利益を害することがあります。
そこで民法824条の2第3項は、父母の協議が調わない場合に、家庭裁判所が、
その特定の事項について親権を単独で行使する父または母を定めることができる制度を設けています。
これが「親権行使者の指定」です。
たとえば、子どもの高校進学について父母の意見が対立している場合に、「この高校との在学契約については父が単独で親権を行使する」といった形で指定を求めることが考えられます。
2.「親権者指定」と「親権行使者の指定」は違う
名称が似ているため注意が必要ですが、「親権者の指定」と「親権行使者の指定」は別の制度です。
親権者の指定は、「父だけを親権者とする」「父母双方を親権者とする」といったように、誰を親権者とするのかを定めるものです。
これに対し、親権行使者の指定では、父母双方が親権者であること自体は変わりません。
あくまで、 共同親権を維持したまま、特定の事項についてのみ一方の親が単独で親権を行使できるようにする手続です。
3.親権行使者の指定の対象になる事項
親権行使者の指定の対象となるのは、父母が共同して親権を行使すべき特定の事項です。
裁判所は、具体例として次のようなものを挙げています。
(1)子どもの監護・教育について重大な影響を与える行為
たとえば、
◆子どもの居所の決定
◆入学などに伴う在学契約
◆心身に重大な影響を与える医療行為
などです。
特に子どもの転居については、裁判所は、同じ学区内の転居であっても基本的には「日常の行為」には当たらず、共同親権の場合には父母が共同して決定する必要があるとしています。
(2)子どもの財産管理に関する行為
子どもの財産を管理する行為も対象となります。
たとえば、子名義の預金口座の開設や子が債務を負担する契約の締結などです。
子が債務を負担する契約とは、分かりやすく言うと奨学金を借りたり、スマホの契約をすることを言います。
(3)子どもの身分関係に関する行為
子どもの氏の変更や、15歳未満の子どもの養子縁組についての代諾などが対象です。
なお、対象はあくまで「特定の事項」である必要があります。
そのため、「今後の教育についてすべて母が決める」といった
子の教育一般のような広すぎる指定は、親権行使者の指定の対象とはならないとされています。
4.日常生活のすべてについて相手の同意が必要なわけではない
共同親権になったからといって、子どもに関するすべてのことについて、毎回もう一方の親の同意が必要になるわけではありません。
民法824条の2第2項では、
子どもの監護・教育に関する「日常の行為」については、一方の親が単独で親権を行使することができると定めています。
一般的な例として、
◆食事や服装の決定
◆短期間の観光旅行
◆心身に重大な影響を与えない医療行為
◆通常のワクチン接種
◆習い事
◆アルバイトの許可
などが挙げられます。
学校関係でも、給食に関する手続、出欠の連絡、学校行事への参加同意、家庭訪問や三者面談への対応などは、一般的には日常の行為に当たるとされています。
一方、入学、退学、転学、留学、休学などは子どもに重大な影響を与えるため、
一般的には日常の行為には当たりません。
5.緊急の場合には親権行使者の指定を待たなくてもよい場合がある
もう一つ重要なのが、「子の利益のため急迫の事情があるとき」です。
父母で協議したり、家庭裁判所の判断を待ったりしていては間に合わず、その結果として子どもの利益が害されるおそれがある場合には、一方の親が単独で親権を行使できます。
典型例としては、
緊急の医療行為が必要な場合などが考えられます。
また、学校関係の手続でも、期限が間近に迫っており、家庭裁判所の手続を経ていては間に合わないような事情があれば、「急迫の事情」に該当する可能性があります。
もっとも、「相手と話し合うのが面倒だから」「早く決めたいから」というだけで当然に単独行使が認められるものではありません。
緊急性があるかどうかは具体的な事情によって判断されるため、判断に迷う場合には弁護士へ相談することをおすすめします。
民法824条の2第3項に基づく正式な「親権行使者」を指定するためには、家庭裁判所の手続が必要です。
父母間で合意書を作成したり、公正証書を作成したりするだけで、法律上の親権行使者を指定することは想定されていません。
したがって、父母間で重要事項について協議がまとまらず、一方の親が単独で決定できる法的な状態にしたい場合には、家庭裁判所への申立てを検討する必要があります。
親権行使者の指定は、父または母から家庭裁判所に申し立てます。
調停を申し立てる場合、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または
父母が合意して定めた家庭裁判所が申立先となります。
申立てには、一般的に、
◆申立書
◆申立人の戸籍謄本
◆相手方の戸籍謄本
◆子どもの戸籍謄本
◆事情説明書
◆進行に関する照会回答書
◆送達場所等届出書
などが必要です。
申立手数料は、
子ども1人につき収入印紙1,200円で、このほか郵便料が必要となります。
調停で父母の話合いがまとまらなかった場合には、調停は不成立となり、自動的に審判手続に移行して裁判官が判断します。
なお、親権行使者の指定は離婚後の共同親権の場合だけではなく、 婚姻中で父母が共同親権を有している場合にも利用できます。
親権行使者の指定で特に注意したいのが、学校への入学など期限のある問題です。
たとえば、数か月後に入学願書を提出しなければならないにもかかわらず、父母が進学先について対立している場合があります。
裁判所は、このようなケースでは審判を申し立てることが考えられ、
事情によっては申立てから2、3か月程度で結論を出せる場合もあると説明しています。
一方で、重要な事項については父母が十分に話し合うことが望ましいとして、期限ぎりぎりではなく、余裕を持って申し立てることも求めています。
したがって、受験、進学、転居などについて相手方との意見対立が予想される場合には、できるだけ早い段階から対応を検討することが重要です。
親権は、親自身の利益のためではなく、子どもの利益のために行使するものです。
改正民法でも、この点が明確にされています。
そのため、親権行使者の指定の手続も、「父と母のどちらの希望を優先するか」という視点だけで考えるべきものではありません。
「どちらの選択が子どもの生活や成長にとって適切なのか」という観点から、具体的な事情を整理して主張することが重要になります。
親権行使者の指定は、共同親権の父母が、子どもに関する重要な事項についてどうしても合意できない場合に、その特定の事項について一方の親が単独で親権を行使できるようにする制度です。
共同親権だからといって、日常生活のすべてについて父母の合意が必要になるわけではありません。
一方で、進学、転居、重要な医療、財産管理、氏の変更など、子どもに大きな影響を与える事項では、父母の意見対立が法的な問題に発展することがあります。
特に、進学や転居など期限がある問題では、対応が遅れることで子どもに不利益が生じかねません。
「これは単独で決めてもよいことなのか」「親権行使者の指定を申し立てる必要があるのか」「期限までに家庭裁判所の判断を得られるのか」などでお悩みの場合には、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
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