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公開日:2020.10.9
人事・労務在宅勤務手当
弁護士の伊藤崇です。
在宅勤務の普及により今までの通勤手当を変更して在宅勤務手当(在宅手当と表現することもあります。)を支給する企業が出てきました。
会社に出勤して勤務する場合、勤務時間中に使用する水道光熱費や通信費用は会社が負担し社員が負担することはないでしょう。
在宅勤務に置き換えた場合でも単に就業場所が違うと考えれば、在宅勤務中に社員の自宅で使用する水道光熱費や通信費用も会社が負担すべし、という理屈になりそうですが、実際上はそのように明確に切り分けることは不可能かつ非効率な場合が多いでしょう。
そのため、在宅勤務者に対しては自宅の水道光熱費や通信費は全額を在宅勤務者の自己負担にして、その補填として一定額の手当を支払うことが会社側、社員側双方において簡便な方法かと思います。
この一定額の手当が在宅勤務手当(在宅手当)です。
在宅勤務者に対しては、毎日出勤することを前提に算定された通勤手当から通勤時の実費支給に切り替えるとともに在宅勤務手当を支給する、ということが今後のスタンダードになるかもしれません。
新聞報道等を見ていると、在宅勤務手当は定額の月額制にするパターンと日額を設定しそれに在宅勤務日数を乗じるパターンが多いようです。
月額制の場合には月額5,000円程度、日額制の場合には日額200円前後を採用する企業が多いように思います。
但し、この金額は労使の話し合いによって決定される事項であり、上記金額が必須であるというわけではありません。上記金額は日本を代表する一流企業における金額ですから、上記金額を参考にしつつ自社の実情に合わせて決定すればよいかと思います。
ただ、例えば正社員の在宅勤務者に対しては在宅勤務手当を支給するが、非正規雇用の社員(契約社員やパート社員など)に対しては在宅勤務手当を全く支給しないとすることは同一労働同一賃金ルール(※)に違反する可能性が大ですからそうしたことは避ける必要があります。
また、在宅勤務手当を時間外労働等の割増賃金の算定基礎に含めるべきか否かについても今後議論になるものと思います。
厚労省作成の「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」によると、在宅勤務手当については「定額の手当で費用負担を補う場合には、当該手当は割増賃金の算定基礎に参入しなければなりません」と記載されています。
その根拠とするところは、法律上(労基法37条及び労基法施行規則21条)、割増賃金の算定基礎に含めなくてよい賃金は、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、の7つに限定されており、在宅勤務手当は上記7つに含まれないから、というものです。
厚労省の上記説明自体は形式的にはその通りなのですが、上記法令が制定された時には新型コロナウィルスにより在宅勤務が普及するといったことは想定もしていなかったように思います。
また、在宅勤務手当の性質を考えると、自宅での勤務時に使用する水道光熱費や通信費用といった実費部分について、当該社員個人使用分と業務使用分を区別することが困難かつ非効率であることから、業務で使用した実費部分を洗い出して清算する代わりに一定額を支給する、というものです。
労務の提供が本来の労働時間を超過して行われた場合に支払われるのが割増賃金の趣旨の一つですが、在宅勤務手当の性質は実費補償であり労務の提供との関係は希薄であるように思われます。
加えて、多くの企業では在宅勤務手当の導入は通勤手当の変更とセットで行われることになろうかと思います。在宅勤務手当の導入経緯からしても、在宅勤務手当は通勤手当の代替と言えるように思います。
あくまで私見ですが、こうした点などを考えると厚労省の上記見解は形式的に過ぎ、在宅勤務手当についても割増賃金の算定基礎から除外されるべきであると考えます。
今後、この点に関する裁判例が蓄積されていくでしょうが、早期に立法上の解決がなされることが期待されます。
※ 同一労働同一賃金ルールの概要
同一企業内において、正社員と非正規社員(短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)との間で、基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練などのあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されること。
①職務内容(業務内容と責任程度)、②職務内容や配置変更の範囲、が正社員と同一であれば待遇の差別的取扱を禁止する「均等待遇」、①と②が正社員と異なる場合には、①、②の違いの程度や③その他の事情も考慮して、不合理な待遇差を禁止する「均衡待遇」の2種類から構成される。
短時間労働者・有期雇用労働者についての同一労働同一賃金ルールは、大企業についてのみ、本年4月1日から施行。
中小企業については2021年4月1日から施行。
派遣労働者についての同一労働同一賃金ルールは、大企業・中小企業ともに本年4月1日から施行。
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