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公開日:2022.2.25
企業法務特許ライセンス契約について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「特許ライセンス契約」について取り上げます。
1.特許ライセンス契約とは
(1) 特許ライセンス契約の概要
特許ライセンス契約とは、ライセンサー(特許を持っている人)が、ライセンシー(その特許を使いたい人)に特許発明(※)の利用を許諾する代わりに、ライセンシーがライセンサーに利用料(ロイヤルティ)を支払うことを内容とする契約のことです。
※ 特許の対象となっている発明
特許を持っていたとしても、自社でうまく活用できていなければ、宝の持ち腐れであり、特許は何の収益も生み出しません。
他方、特許を使いたい人は、特許を持っている人の許可なしには特許発明が使われている製品を製作したり、販売したりすることができません。
そこで、特許ライセンス契約を結ぶことで、ライセンサーはロイヤルティ収入を受け取ることができ、ライセンシーは特許発明を使って利益を上げることができるようになるため、WINWINの関係を築くことができるのです。
(2) ライセンサーのメリット
特許ライセンス契約におけるライセンサーの主なメリットは以下のとおりです。
①ロイヤルティ収入の確保
ライセンサーは、特許発明の利用を他社に許諾することで、ロイヤルティ収入を得ることができます。
これによって、特許を取得するために投下してきた研究開発費を回収することができます。
②ライセンシーによる市場拡大の促進
ライセンシーが、ライセンサーの特許発明を利用して製品を製造・販売してくれますので、その製品の市場拡大が促進されます。
一般的には、ロイヤルティの金額はライセンシーの販売金額の〇%と定められることが多いため、ライセンシーの販売利益が上がれば上がるほど、ロイヤルティの金額も高くなります。
③ライセンシーによる改良発明の活用
ライセンシーが、ライセンサーから許諾された特許発明を基にして改良発明を行った場合に、ライセンサーとしても改良発明を利用できると便利です。
そこで、ライセンシーが改良発明を行った場合に、ライセンサーに改良発明の利用を許諾する旨や改良発明に関する権利を譲渡する旨の条項を特許ライセンス契約に盛り込むことで、ライセンサーが改良発明を利用できるようになります。
ただし、条項の内容によっては独占禁止法に触れる場合がありますので、注意が必要です。
(3) ライセンシーのメリット
特許ライセンス契約におけるライセンシーの主なメリットは以下のとおりです。
①特許利用による製造・販売利益の確保
ライセンシーは、他社が開発した特許発明を利用して、自社にはなかった技術を使って製品を製造・販売することにより、利益を上げることができます。
ライセンシーは、ライセンサーから特許発明の利用の許諾を得ていますので、特許権侵害を気にすることなく、安心して利益を上げることができます。
②研究開発費・開発時間の削減
特許の取得には、多額の研究開発費や多くの開発時間を要します。
しかし、ライセンシーは、特許ライセンス契約を結ぶことで、研究開発費や開発時間を削減することができます。
③他社技術の活用による改良
ライセンシーは、ライセンサーから利用の許諾を受けた特許発明を利用して、さらに改良を図ることができます。
改良によって得られた技術は、ライセンシーのものですので、研究開発費や開発時間を削減した上で、新たな技術を得ることができます。
2.特許ライセンス契約締結に当たっての注意点
ライセンサー・ライセンシーともにメリットがある特許ライセンス契約ですが、契約を結ぶに当たっては、以下の注意が必要です。
(1) ライセンスの対象の確認
特許の対象である発明は技術ですので、目に見える物ではありません。
そのため、「何」に対してライセンスを与えるのか明確に特定する必要があります。
特許ライセンス契約の場合、「特許番号(特許第●●●●号)」や「発明の名称」「特許請求の範囲」など特許公報に記載されている情報で特定します。
(2) ライセンスされる特許の有効性
特許に無効理由があるとき(例えば、特許の要件を満たしていないのに特許が与えられてしまった場合)は、無効審判という手続で特許を無効にすることができます。
特許が無効であれば、本来、ライセンシーは、ライセンサーの許可なしに自由に発明を利用できますので、事前に特許の有効性を確認する必要があります。
ライセンサーとしては、ライセンシーから特許無効審判を起こされては大変ですので、特許ライセンス契約には、ライセンシーが特許無効審判を行わない条項(不争条項)を入れることがあります。
(3) ライセンスの範囲
特許ライセンス契約の「地域」「期間」「内容」を明確に特定する必要があります。
「地域」は日本国内なのか一部の地域だけなのか、「期間」はいつからいつまでなのか、「内容」は発明の全部なのか一部なのか、製品を販売する場合の数量に限定はあるのかどうか、といった点を特定します。
(4) ライセンスの種類
特許ライセンス契約で、ライセンサーからライセンシーに与えるライセンスは、以下の3つに分けられます。
①専用実施権
専用実施権は、ライセンシーがライセンサーと同様に、特許発明を独占的に利用できる権利で、ライセンシーに与えられるライセンスの中では一番強力なものです。
専用実施権が設定された範囲内では、ライセンサー自身もその特許発明を利用することができなくなりますので、ライセンサーが当該ライセンシー以外の者とさらに特許ライセンス契約を結ぶこともできなくなります。
専用実施権を設定されたライセンシーは、無断で特許発明を利用している他社に対し、利用の差止めや損害賠償請求をすることができます。
専用実施権を設定するためには、特許庁への登録が必要となります。
②通常実施権(③を除きます)
通常実施権は、ライセンシーが特許発明を利用することをライセンサーから妨げられない権利です。
ですので、ライセンサー自身も特許発明を利用することができますし、ライセンサーが当該ライセンシー以外の者とさらに特許ライセンス契約を結ぶこともできます。
通常実施権をライセンスされたライセンシーは、無断で特許発明を利用している他社に対し、利用の差止めや損害賠償請求をすることができません。
③独占的通常実施権
独占的通常実施権とは、②通常実施権の一種ですが、ライセンサーが当該ライセンシーとだけ特許ライセンス契約を締結し、当該ライセンシー以外のものとは特許ライセンス契約を締結しない約束をしているものです。
上記の約束に加えて、ライセンサー自身もその特許発明を利用しない約束をしている場合は完全独占的通常実施権と呼びます。
独占的通常実施権をライセンスされたライセンシーは、無断で特許発明を利用している他社に対し、利用の差止めまで求めることはできませんが、損害賠償請求をすることができると考えられています。
(5) ロイヤルティ
ロイヤルティとは、ライセンシーが、ライセンサーに対し、特許発明の利用の対価として支払うお金のことです。
ロイヤルティ(実施料ともいいます)の定め方は様々なものがありますが、主なものは以下のとおりです。
①定額実施料
定額実施料とは、特許ライセンス契約時に、ロイヤルティとして一定の金額を定めて支払う内容のものです。
例えば、契約時に●円支払う、毎月●円(定額)を支払うといった内容のものです。 支払う金額が固定されていることがメリットです。
他方、ライセンシーの事業がうまく進み、多額の利益を上げることができたとしても、ライセンサーとしては決まった金額以上のロイヤルティを請求することはできませんし、ライセンシーの事業がうまくいかなった場合であっても、ロイヤルティの支払いを減額してもらうことができないことがデメリットです。
②継続実施料
継続実施料とは、ライセンス対象となっている特許発明の利用状況に応じてロイヤルティの金額を定める方法です。
例えば、製品の販売価格の●%という内容のものです。
ライセンシーの事業の実績に応じて、ロイヤルティの金額が定まるため、定額ライセンス料のデメリットを軽減するための定め方です。
継続実施料と組み合わせて、契約時に頭金を支払う場合やロイヤルティの最低支払金額を定めることもあります。
上記の他にも、特許ライセンス契約に盛り込むべき内容や注意点は多くありますので、詳しくは弁護士にお尋ねください。
以上
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