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弁護士コラム
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公開日:2020.10.23
人事・労務同一労働同一賃金に関する最高裁判例<長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件>
弁護士の伊藤崇です。
【同一労働同一賃金】という問題に関して、近時、企業の労務管理にたいへん大きな影響を与える最高裁判決が複数下されています。
今回は、「長澤運輸事件」・「ハマキョウレックス事件」に関する最高裁の判断の概要をお伝えします。
1.そもそも【同一労働同一賃金】とは?
同一企業内において、正社員と非正規社員(短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)との間で、基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練などのあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されることです。
①職務内容(業務内容と責任程度)、②職務内容や配置変更の範囲、が正社員と同一であれば待遇の差別的取扱を禁止する「均等待遇」、
①と②が正社員と異なる場合には、①、②の違いの程度や③その他の事情も考慮して、不合理な待遇差を禁止する「均衡待遇」の2種類から構成されます。
短時間労働者・有期雇用労働者についての同一労働同一賃金ルールは、大企業についてのみ、2020年4月1日から施行。中小企業については2021年4月1日から施行。
派遣労働者についての同一労働同一賃金ルールは、大企業・中小企業ともに2020年4月1日から施行。
【同一労働同一賃金】に関する法令としては、
パートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条や労働者派遣法法第30条の3が挙げられます。
2.長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件の概要
両事件とも、被告企業に雇用されている有期雇用労働者が、業務内容や責任の程度(以下「職務内容」と言います)、職務内容や配置の変更の範囲が当該企業の正社員(無期雇用労働者)と同一であるにもかかわらず、
待遇(労働条件)に格差が存在するのは労働契約法第20条(※)に違反するとして、被告企業に対して、正社員と同じ待遇にあることの確認を求めるとともに、正社員に適用される待遇と実際の待遇の差額の支払を求めた事案です。
長澤運輸事件とハマキョウレックス事件の特徴的な違いとしては、
長澤運輸事件の原告となった有期雇用労働者は同社を定年退職した後に再雇用された方であったのに対して、ハマキョウレックス事件ではそのような事情がなかったという点が挙げられます。
※労働契約法第20条(但し、判決当時の条文で、2020年4月1日以降はパートタイム・有期雇用労働法第8条・第9条が根拠条文になります。)
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
3.長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件で示された最高裁判断
①有期労働契約のうち、無期労働契約との間に労働条件の相違が設けられており、その相違が労働契約法第20条に違反する場合には、当該相違を設ける部分は無効になる。
→例えば、正社員に適用される就業規則には精勤手当が定められているのに、有期雇用労働者との労働契約では精勤手当の定めがない場合、精勤手当の定めの有無という労働条件の相違が設けられていることになります。
その相違が労働契約法第20条に違反する場合には、有期労働契約の中で精勤手当の定めがないという部分が無効になる、ということです。
②有期雇用労働者と正社員との労働条件の相違が労働契約法第20条に違反する場合、正社員であれば支給を受けることができていた金額と過去(※)の実際の支給額との差額の金銭賠償が認められる。
しかし、有期雇用労働者と正社員との労働条件の相違が労働契約法第20条に違反するからといって、同条の効力として、有期雇用労働者の今後の労働条件が比較対象となる正社員の労働条件と同一になるということは認められない。
→有期雇用労働者の労働契約が労働契約法第20条に違反し無効になった場合には、過去の差額分について金銭賠償が認められることになりますが、無効になった労働条件が直ちに正社員と同じになるわけではなく、今後の有期雇用労働者の労働条件は労使の協議等に委ねられることになります。
※過去の金銭賠償は、労働契約法第20条が施行された平成25年4月1日以降に限られます。
③労働契約法第20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期雇用労働者と正社員との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう。
→言い回しの違いと捉えがちですが、最高裁が「合理的でないもの」=「不合理と認められるもの」とせずに、「不合理であると評価することができるものであること」=「不合理と認められるもの」との判断を示したのは、労働契約法第20条の違反の場面を限定したと評価することができ、実務に与える影響は重大です。
④労働契約法第20条に違反するか否かは、
ⅰ職務の内容、
ⅱ職務の内容及び配置の変更の範囲、
ⅲその他の事情
を考慮して判断する。
ⅲその他の事情は、ⅰとⅱに関連する事情に限定されず、
定年退職後の再雇用はⅲその他の事情として労働契約法第20条違反の有無の考慮要素に含まれる。
⑤有期雇用労働者と正社員との個々の待遇(手当等の賃金項目)に関する労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するにあたっては、賃金の総額の比較のみではなく、個々の待遇ごとに個別に検討判断する。
個別の検討判断に当たっては各待遇の趣旨を検討する。
→例えば、住宅手当や精勤手当、通勤手当、食事手当といった各手当に有期雇用労働者と正社員との間で条件の相違がある場合には、各手当ごとにその相違が不合理か否かを判断することになります。そして、その判断に当たっては当該手当の支給の趣旨から検討することになります。
4.長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件の最高裁結論
両事件ともに労働条件に相違が設けられていた賃金項目ごとに労働契約法第20条に違反するか否かが検討判断されています。
そして、長澤運輸事件においては【定年退職後の再雇用】という事情を考慮して、有期雇用労働者側が労働契約法第20条違反であるとした賃金項目の大半について不合理ではないとの判断が示されましたが、
精勤手当とそれを基礎にする時間外手当について有期雇用労働者と正社員との労働条件の相違は不合理であり労働契約法第20条に違反するとの判断が示されました。
注意をしなければならないのは、【定年退職後の再雇用】であるからといって、正社員との間の労働条件の相違が一律認められるわけではない、ということです。
他方、ハマキョウレックス事件では、有期雇用労働者側から請求されていた賃金項目の大半について労働契約法第20条に違反する不合理なものとの判断が示されています。
5.企業の労務管理における今後の対応について
長澤運輸事件・ハマキョウレックス事件の最高裁判決は、有期雇用労働者を雇用している全企業に関わるものです。
自社ないしはクライアント企業が有期雇用労働者を雇用している場合、最高裁判決を機に、有期雇用労働者の労働条件、正社員との待遇格差の有無、就業規則や賃金規程等の規則集の整備状況をチェックし、改善作業を進めていく必要があります。
以上
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