弁護士法人PRO | 人事 労務問題 中小企業法務 顧問弁護士 愛知 名古屋 | 伊藤 法律事務所
弁護士コラム
Column
Column
公開日:2020.11.6
企業法務企業法務における【3つの契約自由】について
弁護士の伊藤崇です。
企業の事業活動においても、私たちが個人で過ごす日常生活においても、【契約】は切っても切り離せないものです。
今回は、契約に関する【3つの契約自由】をお伝えします。
1.【3つの契約自由】とは
⑴ 契約【締結】の自由
そもそも契約を締結するかどうかを自由に決定することができる、ということです。
今年4月1日から施行されている改正民法でも次のように規定されています。
何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
(改正民法521条1項)
⑵ 契約【内容】の自由
法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる、ということです。
改正民法でも次のように規定されています。
契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
(改正民法521条2項)
⑶ 契約【方式】の自由
法令に特別の定めがある場合を除き、契約の方式(書面を作成するか否か、タイトルをどうするかなど)を自由に決定することができる。
改正民法でも次のように規定されています。
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
(改正民法522条2項)
旧民法では上記3つの契約自由について直接規定したものはなく不文法として存在していました。
2020年4月1日から施行される改正民法では3つの契約自由について上記の通り明文化されました。
2.【3つの契約自由】がもたらすものとそれに対する法規制・リーガルチェック
⑴ 自由競争社会の根幹
自社にとって有利な契約条件を提示する第三者がいるのであればその第三者との間で契約を締結することができることを保障する【契約締結の自由】や、契約内容を自由に決定することができる【契約内容の自由】は、自由競争社会の根幹をなすものです。
企業の本質は営利の追求ですから、既存の取引先よりも価格面その他の条件が優れいている企業と契約を締結することは企業の本質にかなう行動であり、【契約締結の自由】は取引先選択の自由と結びつきます。
また、契約内容も自由に決定できることが原則(【契約内容の自由】)ですから、民法その他の法律の規定とは異なる契約条件にすることも可能ですし、法律に規定されていない新しい契約や複数の性質を有する複合的な契約を締結することも可能です。
さらに、コロナ禍で急速に導入が進んだ電子契約も【契約方式の自由】の具現化の一例と言えます。
⑵ 法規制やリーガルチェックの必要性
【契約締結の自由】は、契約締結先選択の自由ということもできますから、そこには契約を打ち切られる者が存在することになります。契約締結の自由は裏を返せば契約打ち切りの自由と言えなくもないのです。
しかし、継続的に取引が続行していればこの先も契約が存続するはずという期待を抱くのは通常ですし、そうした期待の下で設備投資や人員計画を立てるという側面もありますから、契約打ち切りの自由を無制限に認めるのは不合理でもあります。
そのため、判例法理で継続的契約の終了については十分な予告期間を設けるなどの一定の規制がかけられています。
【契約内容の自由】によって、契約内容を原則として自由に決定することができるわけですから、そこには必然的に有利・不利が発生することになり、そのために契約締結交渉や法律文書のリーガルチェックが必要になってくるのです。
但し、契約内容の自由を完全に認めてしまうと、一部の大企業の力が強くなりすぎてしまい、中小企業や消費者の利益を不当に害する弊害も生じてしまうことから、独占禁止法や下請法、消費者契約法といった契約内容の自由を制限する法律(強行法規と言います)が存在しており、自由競争社会の調和を保っています。
最近では、コロナ禍による業績の悪化を理由として弱い立場にあるスタートアップに発注キャンセル等のしわ寄せが生じていることが問題視されており、独禁法や下請法を根拠規定にしてスタートアップとの契約に関するガイドラインが設けられる予定ですが、こうした動きも契約内容の自由に対する法規制の一つと言えます。
【契約方式の自由】が存在しますから、口頭での約束も契約になることがあります。いわゆる口約束も契約の一つになります。
IT社会の現代では、メールやSNSで意思疎通を図ることが非常に多いですが、メールやSNSでのやり取りであっても契約が成立する場合が有り得ますから、注意が必要です。
但し、個人の生活の根幹をなすものや財産に大きな影響を与えるもの、例えば、定期建物賃貸借契約や他人の債務の保証をする場合などには書面での契約の作成が義務付けられており、書面を作成しなかった場合には無効になるといった法規制がかけられています。
書面で契約させることで契約内容を確認できるようにして口頭で契約をすることによる思わぬ損失・結果を回避するためにこうした規制がかけられています。
また、書で契約をする場合でも、そのタイトルは原則として自由に決定することができますから「覚書」「合意書」「協定書」など「契約書」とは違う名称で書面が作成された場合でも同じく契約としての効力を持つことになります。
「契約書」と名のつくものは注意をしてチェックをするけれども、「覚書」は「契約書」ほど重いものではない、と考えるのは誤解であり、思わぬ事態に発展するリスクを含んでいるのです。
3.企業法務に与える影響について
⑴ 法規制や最新のガイドラインのチェック
独禁法や下請法の法規制を受ける側なのか、こうした法律により保護される側なのか、の意識をする必要があります。特に法規制を受ける側でありながら、それを意識せずに下請法に違反していたというケースは散見されるところです。
また、先にご紹介したスタートアップとの契約に関するガイドライン規制などは今後も同様の規制が追加されていく可能性もあり、こうした社会情勢の変化に合わせた規制の追加や変更についてはアンテナを高くしておくとよいでしょう。
自社がスタートアップ側であれば、契約相手の担当者がガイドライン規制を知らないということもあるでしょうから、自社から指摘しないとガイドライン規制の恩恵を受けられないということも出てきてしまいます。
⑵ 自社ひな形の整備・リーガルチェックの重要性
自社の取引種類の内、主力の取引や頻度が多いものについては自前の契約書のひな形を整備することが有益です。
自社の実情等を踏まえて自社に有利に、かつ、無理のない契約内容をひな形に盛り込むことができますし、契約相手からひな形の変更を求められた場合には変更箇所についてだけ変更の影響を検討すればよく契約締結交渉の負担を軽減することやリスクの把握が容易になります。
取引相手から契約書の提示を求められた場合にも慌てずに対応することができます。
インターネットに落ちている契約書を拾ってきて、、、、、というのは危険性が高いので極力避けたいところです。
また、契約相手から提示された契約書には、上記の裏返しで契約相手に有利な条項が設定されていることが通常ですし、ひな形の選択を誤っている(例えば請負取引なのに売買取引のひな形が提示されるといったこと)ケースも散見されます。
いったん契約を締結すると、その契約書は数年単位で続く取引のルールになりますから、契約内容に問題がないか、リスクがないか、リーガルチェックをすることはたいへん重要です。
契約書の内容を見ずにハンコを押している、、、、、ということは改める必要があります。
以上
オンライン会議・
チャット相談について
まずはお気軽に、お電話またはフォームよりお問い合わせください。