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弁護士コラム
Column
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公開日:2022.11.30
企業法務企業における著作物の利用について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「企業における著作物の利用」について取り上げます。
1.はじめに
企業活動を行う中で、例えば、
「自社が取り上げられた新聞記事をコピーして社内で配布したい」
「プレゼン資料に、インターネット上に掲載されていた記事や写真を載せたい」
など、他人の著作物(新聞記事やインターネット上に掲載されていた記事や写真)を利用したい場面が多く出てくるのではないでしょうか。
このような場合、安易に他人の著作物を利用してはいけません。
きちんとした手続を経なければ、著作権法違反となって、刑事罰(※)の対象となる可能性がありますし、著作権者から損害賠償請求を受ける可能性もあります。
そのため、どのような場合であれば、他人の著作物を利用することができるのか確認しておく必要があります。
※ 著作権侵害を行った者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処せられ、場合によっては懲役刑と罰金刑が両方科される場合があります。また、会社の従業員や役員が著作権侵害を行った場合、会社にも3億円以下の罰金が科されることがあります。
2.著作権侵害の類型
(1) 著作権について
「著作権」という言葉がありますが、これは、「著作権」という1つの権利があるのではなく、著作権法という法律で、著作物の利用態様に応じて、著作権者に認められている様々な権利(※)を総称する言葉です。
著作物の利用態様によって、問題となる権利が異なってきますし、どのような場合に著作権者の同意なく著作物を利用できるのかも異なってきます。
※ 著作物を複製する行為(文書のコピーなど)に対しては、無断で複製をされない権利としての「複製権」
著作物を公衆送信する行為(インターネット上のサーバーへのアップロードなど)に対しては、無断で公衆送信されない権利としての「公衆送信権」
著作物を公に上演する行為(劇の上演など)に対しては、無断で上演されない権利としての「上演権」
著作物を公に演奏する行為(音楽の演奏など)に対しては、無断で演奏されない権利としての「演奏権」
という形で、著作権法で権利が定められています。
(2) 複製権侵害
他人の著作物を複製した場合、複製権の侵害が問題になります。
例えば、新聞記事をコピーしたり、ネット記事をプリントアウトして社内に配布する場合、インターネット上で取得した写真を載せた社内報を社内に配布する場合などです。
では、他人の著作物をそのまま複製するのではなく、写真の一部を切り取ったり、文章の一部を抜き取ったりして加工をすれば大丈夫か、というとそうではありません。
その場合、複製ではなく、「翻案」という行為に該当し、翻案権の侵害となります。また、同一性保持権という著作者人格権の侵害にもなります。
(3) 公衆送信権侵害
他人の著作物をインターネット上のサーバーにアップロードした場合、公衆送信権の侵害が問題になります。
例えば、自社のホームページに新聞記事をアップロードしたり、新聞記事をSNSで発信したりする場合などです。
3.著作権侵害にならない場合
(1) 権利者の同意
ア 著作権者から個別に同意をもらう
著作権者から同意をもらって他人の著作物を利用することは著作権(複製権や公衆送信権)の侵害にはなりません。
イ 著作権等管理事業者を利用する
著作物を利用するたびに著作権者を探し出して了解を取ることは大変ですので、利用しようとする著作物の分野で、著作権等を集中的に管理している団体(著作権等管理事業者)がある場合には、その団体を窓口として、利用の了解を得られる場合があります。
著作権等管理事業者は、文化庁のホームページで確認することができます。
例えば、新聞記事の複製については、公益社団法人日本複製権センターが窓口となっています。
ウ フリー素材を利用する
インターネット上のフリー素材を使用する場合、予め著作権者が利用に同意していますので、著作権の侵害にはなりません。
ただし、フリー素材によっては、どのような利用方法であれば、著作権者の許諾なく使えるのかが異なります。
必ず利用許諾の範囲を確認し、その範囲内で使用しなければ、著作権侵害となってしまいますので、注意が必要です。
また、文化庁がどのような場合に著作物を利用できるのか、分かりやすいように作成した「自由利用マーク」が付されたものもあります。
「自由利用マーク」については、文化庁のホームページで確認することができます。
(2) 私的利用目的による複製
複製権については、「私的利用のための複製」であれば、著作権者の許諾なく行うことができます。
ここでいう「私的使用のため」とは、個人的又は家族内、親しいごく少人数の友達の間などで、仕事以外で使用する目的のことを指します。
そのため、企業外に使用する目的の場合はもちろんのこと、企業内で使用する目的であったとしても、「私的使用のため」とは認められませんので、注意が必要です。
(3) 引用による利用
公表された著作物は、「引用」する場合には、著作権者の許諾なく利用することができます。
「引用」は、複製権、公衆送信権のどちらにも適用があります。
「引用」と認められるためには、以下の要件を全て満たす必要があります。
なお、「転載禁止」と表示がある著作物であっても、「引用」の要件を満たす場合は、著作権者の許諾なく利用することができます。
①引用の必要性
そもそも他人の著作物を引用する必要性がなければ、正当な「引用」とは言えません。
②引用部分とそれ以外が明瞭に区別されていること
例えば、引用部分を「」で表示したり、太字で表示したりするなど、引用部分とそれ以外の部分が明瞭に区別されている必要があります。
③本文が主、引用部分が従の関係にあること
例えば、分量を比較して、本文の分量が、引用部分の分量に比べて圧倒的に少ない場合は、「本文が主、引用部分が従の関係にある」とは言えません。
④引用部分にオリジナルからの変更が加えられていないこと
ただし、引用部分が長くなる場合、その部分を要約して引用することもできます。
しかし、要約することによって、オリジナルの趣旨が変わらないようにすることが必要です。
⑤出典を明示すること
引用元を明記する必要があります。
新聞記事を引用する場合は新聞社名・新聞名・掲載年月日を、文献を引用する場合は著者名・文献名・発行年・引用するページを、ウェブサイトから引用する場合はサイト名とURLを明示する必要があります。
(4) 検討過程による利用
例えば、ある漫画のキャラクターの商品の開発や販売の企画を行うに当たって、そのキャラクターの著作権者から許諾を得る前に、企画書等にそのキャラクターを掲載する行為は、「検討の過程における利用」として、その目的に照らして必要な限度で、著作権者の許諾なく利用することができます。
ただし、著作権者の利益を不当に害することがないことが条件となります。
そのため、当該キャラクターを利用した試作品を、社外に頒布する場合などは、著作権者の利益を不当に害すると判断され、著作権者の許諾が必要になります。
4.おわりに
他人の著作物を利用する場合は、どのような場合に著作権者の許諾なく利用できるのか確認した上で、適切に行う必要があります。
しかし、どのような場合に、他人の著作物を利用することができるのか、判断に難しい場合もあると思います。
詳しくは、当事務所の弁護士までご相談ください。
以上
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