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公開日:2020.11.13
企業法務企業法務における契約書のリーガルチェックについて
弁護士の伊藤崇です。
電子署名方式による契約書の普及が加速しています。電子署名方式の契約の効力や契約書の保管方法についてのご相談を頻繁に受けるようになっています。
ただ、肝心なのは、契約書の中身です。
今回は、企業活動、企業法務に深く関わっている【契約書のリーガルチェック】についてお伝えします。
1.リーガルチェックはなぜ必要か
⑴ 契約内容は自由に決められることが原則
日本では、【契約内容の自由】が認められており、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができます(改正民法521条2項)。
法令の制限内において、という限定が付されているように、すべての法律の規定を無視して契約内容を自由に決められるというわけではありません。
企業活動においては、独占禁止法や下請法などが代表例ですが強行法規といって契約当事者間で強行法規と異なる定めをすることが禁止されている法律があります。
強行法規の反対が任意法規です。
任意法規は、法律で一定のルールが定められていますが、契約当事者間でそれと異なる定めをすることが許されています。
任意法規の代表例は民法です。民法の中にも例えば保証に関する規定は強行法規とされていますが、企業法務において使用頻度が極めて高い売買や業務委託、請負に関する民法の規定は大半が任意規定です。
例えば、売買取引における契約不適合責任や損害賠償責任については、契約書では民法の規定とは違う定めがされていることがほとんどです。どのように違っているのか、というと、契約書のひな形作成者側に有利に変更されていることが圧倒的多数です。
同じ「売買取引基本契約書」という名称であっても内容は様々であり、特に契約相手から提示された契約書の場合には自社に不利な点はないかチェックする必要があるのです。
⑵ 自社の立場によって有利不利が入れ替わる
例えば、仕入先から商品を仕入れる場合の取引基本契約書の場合、商品の売主と商品の買主という2者が当事者になるわけです。
売主をA社、買主をB社とすると、A社(売主)にとって有利なことはB社(買主)にとっても有利であるとは限らず、通常の場合にはA社(売主)にとって有利なことはB社(買主)にとっては不利に作用します。
A社:売主 - B社:買主
次に、B社がA社から購入した商品をC社に転売するとします。この取引は、B社とC社間で行われるわけですが、B社が売主、C社が買主、ということになり、B社の立場は買主から売主へと変わっています。
B社:売主 - C社:買主
A社-B社間の取引でB社に有利な契約書を締結したとして、B社が同じ契約書をC社との取引にも使い回しをした場合にはどうなるでしょうか。
この契約書は買主に有利な内容の契約書になっていますので、A社-B社間の取引ではB社の利益保護につながりますが、B社-C社間の取引では逆にC社の利益保護につながりB社のリスクは高まることになります。
A社:売主 - B社:買主 買主有利な契約書を締結 ⇒ B社にはメリット
B社:売主 - C社:買主 買主有利な契約書を締結 ⇒ B社にはデメリット
つまり、契約書を締結する場合には、自社が置かれている立場というものが決まっており、しかも、その立場は取引によって変わる、ということです。立場の変更にあわせて契約書の内容を変更する必要も出てきます。
簡単な契約書であればインターネット上で検索して無料で入手することができるようになっていますが、そうした契約書はどちらの立場に立って作成されたものか不明であることが通常であり、知らないうちに自社に不利な契約書を自社のひな形として使用してしまっているというケースもあります。
契約書の使い回しやインターネット上の契約書の使用にはリスクが潜んでいるのです。
⑶ 見ていなかった、知らなかった、もめないから大丈夫、では済まされない
BtoBの取引で契約書を締結する場合、契約書の内容をすべて了解した上で契約を締結したとみなされるのが大原則です。
例えば、不動産売買や不動産賃貸借において契約締結前に行われる契約内容の重要事項説明といった手続は予定されていません。契約内容を確認せずに契約を締結することは自己責任として処理されてしまいます。
契約書は取引が順調に進んでいる際には表舞台に登場しないのが通常であり、契約書の中身を確認する多くのケースはなにがしかのトラブルが発生している場合です。
トラブルが発生してから契約書の内容を確認し、例えば過大な損害賠償責任を負わされていた、逆に相手に対して十分な損害賠償請求ができない内容であった、ということがその時点で判明しても後の祭りであり、原則としてその契約内容に沿ってトラブル処理をしていかなければなりません。
また、これもリーガルチェックの場面でよく出る話ですが、もめないから大丈夫、という視点で契約書を確認したり契約内容の変更交渉に臨むのは、間違いであると思います。
契約書というのは平時の取り決めだけをするのではなく有事(もめた場合)についても取り決めをするものですから、もめた場合にどうする、どうなる、といった視点を持つことは必須です。
2.リーガルチェックのポイント
私は、毎日のようにクライアントの皆様から契約書のリーガルチェックのご依頼を頂戴しています。
リーガルチェックの際にどういった視点でチェックしているのか、その一部をご紹介します。
その上で、クライアントに不利な条項が定められている場合には、有利な内容になるよう契約条項の変更案を御提案する、取り決めておくべき内容に漏れがある場合には追記する契約条項案を御提案する、といったことをしています。
3.企業法務に特化した専門家の活用
契約書のリーガルチェックはトラブル予防のための基本かつ重要な作業です。
とはいえ、専門の法務部を抱える大企業であればともかく、中小企業の場合には経営者や総務部長がチェックしているというのが実情であろうと思います。
ただでさえ他の業務でも忙しいのに契約書の内容を精査する時間はなかなか取れないでしょうし、なんとなく契約書の内容を見ておしまい、というところもあるのではないか、と思います。
契約書は難解な用語で記載されており、慣れていない方は読解するだけで一苦労でしょう。
ましてや法律の規定と照らし合わせてチェックする、ということは難易度が高くなかなかできることではありません。
企業法務に特化した弁護士であれば、任意法規や強行法規の内容に照らし合わせて有利不利を判断する、同種契約書の標準的な内容と照らし合わせて有利不利を判断する、他社も含めて過去に生じたトラブル事例を念頭に置きつつそれを予防する内容になっているか判断する、など専門的なリーガルチェックサービスをスピーディーに提供することが可能です。
そうした専門家の活用をしていくことが自社のトラブル予防の最適解と言えるでしょう。
以上
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