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公開日:2023.2.24
企業法務【名古屋/知的財産】誤認惹起表示への規制(不正競争防止法)について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は「誤認惹起表示への規制(不正競争防止法)」について取り上げます。
1.不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」法律です。
不正競争防止法では、不正競争行為として以下の10の類型を規定し、不正競争行為を行った者に対しては、差止めの請求や損害賠償の請求、信用回復の措置を求めることができ、不正競争行為の内容によっては刑事罰(※)も科されます。
※ ⑧の行為のうち、誤認させるような虚偽の表示をした者に対しては、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられ、場合によっては懲役刑と罰金刑が両方科される場合があります。また、会社の従業員や役員がこれらの行為を行った場合、会社にも3億円以下の罰金が科されることがあります。
<不正競争行為の類型>
①周知な商品等表示の混同惹起
(弁護士コラム「周知又は著名な商品等表示への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
②著名な商品等表示の冒用
(弁護士コラム「周知又は著名な商品等表示への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
③他人の商品形態を模倣した商品の提供
(弁護士コラム「商品形態の模倣への規制(不正競争防止法)」を参照ください)
④営業秘密の侵害
(弁護士コラム「営業秘密の保護(不正競争防止法)」を参照ください)
⑤限定提供データの不正取得等
⑥技術的制限手段の効果を妨げる装置等の提供
⑦ドメイン名の不正取得等
⑧商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示
⑨信用毀損行為
⑩代理人等の商標冒用
今回は、裁判例で多額の賠償請求が認められたり、刑事事件に発展したりしている「⑧商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示」に焦点を当ててみます。
代表的な事件としては、以下のものがあります。
2.商品・サービスの原産地、品質等の誤認惹起表示とは
不正競争防止法では、
どこに表示したのか |
何について表示したのか |
規制行為 |
|
商品 |
・商品 |
・原産地 |
・誤認させるような表示をする行為 |
サービス |
・サービス |
・質 |
・誤認させるような表示をする行為 |
を不正競争として規制しています。
商品の原産地等、サービスの質等は、需要者にとって取引を比較して選択する際の重要な情報ですので、そのような情報について事実と異なる表示がなされた場合、誤認表示を行った事業者が競争上不当に優位な立場に立つことになります。
このような誤認表示を行って取引を行うことは公正な競争とはいえないため、規制されています。
(1)商品・サービスの広告とは
商品・サービスの広告とは
・公衆に対してなされる表示のうち営業目的をもってなされたもの
を言います。
例えば、印刷物を利用した広告(新聞、雑誌、パンフレット、カタログ)、マスメディアを利用した広告(テレビ、ラジオ)、インターネットを利用した広告(ホームページ、メールマガジンやSNS)、POP広告などです。
(2)商品・サービスの取引に用いる書類・通信とは
商品・サービスの取引に用いる書類・通信とは
・公衆に向けられたものではなく、取引関係者に向けられた書類や通信
を言います。
例えば、書類については、注文書、見積書、契約書、送り状、計算書、仕入伝票、領収書などです。
また、通信については、取引に際して交わされる書類を除く一切の通信媒体をいい、電話、FAX、メールなどがあります。
(3)原産地・品質(質)・内容・製造方法・用途・数量とは
原産地とは
・商品が生産、製造又は加工され商品価値が付与された地
を言います。
商品が農林水産物・畜産物・鉱産物等の天然物であれば、当該商品の「原産地」は、天然物が生産、採取、飼育された地になります。
例えば、国産牛肉、魚沼産コシヒカリなどの表示は、原産地の表示に当たります。
また、商品が天然物に人工の加工を加えることで生産される人工物の場合、当該商品の「原産地」は、「製造された地又は加工された地」になります。
例えば、氷見うどん、イタリアの国旗に併記した「イタリアンタイプ」などの表示は、原産地の表示に当たります。
品質(質)とは
・原材料、成分、効能、効果など
を言います。
例えば、カシミヤ100%使用、天然成分使用、中古車の走行距離、特許発明品である旨、公的規格(JIS規格、JAS規格)の認定を受けた旨、口コミランキングなどは、品質(質)に関する表示に当たります。
内容とは
・商品・サービスの中身、属性情報
を言います。
例えば、製造年月日、賞味(消費)期限、中古新品の別なども、内容の表示に当たります。
製造方法とは
・商品の製造に用いられる方法
を言います。
例えば、食塩の製法(流下式製塩法・イオン交換膜製塩法)などが、製造方法の表示に当たります。
用途とは
・商品・サービスの使い道
を言います。
例えば、自動車用燃料、ジェット推進航空機用燃料などは、用途の表示に当たります。
数量とは
・商品の個数、容積、体積、内容量、長さ、重さなど
・サービスの提供回数、提供時間など
を言います。
(4)誤認させるような表示とは
誤認させる表示といえるかどうかは、個別・具体的な事案に応じて当該表示の内容や取引の実情等、諸般の事情を考慮して、取引者・需要者に誤認を生じさせるおそれがあるかどうかで判断されます。
要するに、表示を見た人が誤って表示を受け取ってしまうかどうかで判断するということです。
ただし、ある表示のみを取り出せば誤認させる表示と考えられる場合であっても、誤認の可能性を打ち消す表示(いわゆる打消表示)が併記されていることにより、表示全体を観察すれば誤認のおそれがないと判断されることもあります。
もっとも、原産地の直接的な表示方法の場合(魚沼産コシヒカリなど)や品質内容等の誤認惹起表示で明確な虚偽表示の場がなされている場合には、打消表示を付加しても誤認を排除することは難しいと考えられています。
なお、打消表示については、景品表示法に関するものではありますが、消費者庁が公表している「打消し表示に関する実態調査報告書」「スマートフォンにおける打消し表示に関する実態調査報告書」「広告表示に接する消費者の視線に関する実態調査報告書」が参考になります。
3.おわりに
商品を販売したりサービスを提供したりする上で、誤認惹起表示への規制は、きちんと理解しておかなければ、多額の損害賠償を請求されたり、犯罪に該当してしまう可能性もあります。
しかし、判断に迷うこともあるかと思いますので、その場合は当事務所の弁護士までご相談ください。
以上
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