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弁護士コラム
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公開日:2023.7.7
企業法務~フリーランス保護新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法) ~
弁護士法人PROの弁護士の伊藤崇です。
令和5年4月、フリーランス保護に関する新法:フリーランス・事業者間取引適正化等法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が成立しました。
本コラムでは、この法律のことを「フリーランス保護新法」と呼んでいます。
フリーランス保護新法の特徴は適用対象となる事業者の範囲が非常に広いことです。
本コラムをご覧いただいている企業・個人事業主の皆様においてもフリーランス保護新法が適用される可能性が大いにありますので、是非、本コラムをご覧いただき、事業活動に役立てていただけますと幸いです。
1.フリーランス保護新法の成立の経緯
働き方改革の推進によって、フリーランスとして働く個人の方は年々増加しています。
その一方で、フリーランスは個人事業主であり、労働基準法上の「労働者」には該当しないことが原則ですから、労働関係法令の適用がありません。
また、事業者間取引を規制する法律としては下請法が存在しますが、下請法には資本金要件が存在し、資本金が1000万円超の事業者にしか規制が及びません。
他方で、フリーランスに業務委託する企業の多くは資本金が1000万円以下であり、そうした企業とフリーランス間の取引には下請法が適用されませんでした。
フリーランスとして働く個人の方は年々増加していき、国も後押しをしていたわけですが、フリーランスは法規制の空白地帯に位置付けられているような状況にあり、取引上弱い立場に置かれていました。
今回のフリーランス保護新法は、そうした状況を改善し、フリーランスが不当な不利益を受けることなく安定して業務に従事できる環境を整備するために成立した法律です。
フリーランス保護新法は上記趣旨を踏まえて、下請法や労働関係法令に類似した規制が設けられています。
2.フリーランス保護新法の適用対象となる当事者・取引
「委託事業者」が「フリーランス」に対して「業務委託をする取引」に適用されます。
「委託事業者」は、次のいずれかに該当する事業者を言います。
※「従業員」には短時間・短期間の一時的に雇用される人は含みません。
フリーランス保護新法では「特定業務委託事業者」と定義されています。
「フリーランス」とは、次のいずれかに該当する方を言います。
※「従業員」には短時間・短期間の一時的に雇用される人は含みません。
自分1人で業務を実施している方がフリーランスに該当する、とイメージいただくのが分かりやすいでしょう。
なお、フリーランス保護新法ではフリーランスではなく「特定受託事業者」と定義されています。
「業務委託をする取引」とは、以下の取引を言います。
以上のように、フリーランス保護新法では適用対象となる要件に資本金が含まれていません。
ですから、個人事業主・法人のいずれであっても代表者以外に役員・正社員が1名以上いる事業者がフリーランスと取引をする場合には、フリーランス保護新法が適用されます。
本コラムをご覧いただいている事業者の皆様においてもフリーランス保護新法が適用される可能性が大いにあります。
3.フリーランス保護新法の規制の概要
法規制の項目は概要以下のとおりです。
各項目の内容は以下のとおりです。
① 業務委託をする際の取引条件の明示
委託事業者がフリーランスに業務を委託する場合には、以下の事項を書面または電磁的方法により明示することが義務化されます。
ⅰ 給付の内容
ⅱ 報酬の額
ⅲ 支払期日
ⅳ 公正取引委員会規則で定めるその他の事項(現時点では未定)
② 報酬支払期日
委託事業者がフリーランスに支払う報酬の支払期日について以下の規制が行われます。
原則 | フリーランスから 給付を受領した日から起算して60日以内 |
支払期日を定めなかった場合 | 給付を受領した日 |
給付受領日から起算して 60日より長い支払期限を設定した場合 |
支払期限の定めは無効で、 給付を受領した日から60日を経過する日 |
支払期日を定めない、というパターンがもっともリスクが大きくなります。
この場合には給付受領日に支払期日が到来し、その時点で報酬を支払わないと遅延損害金が発生することになってしまいます。
③ 委託事業者の遵守事項(禁止事項)
長期間の業務委託がなされる場合にフリーランスが不利益を受けないように、委託事業者の遵守事項(禁止事項)が定められました。
なお、「長期間」がどの程度の期間になるかは別途定められることになっており、現時点では未定です。
ⅰ フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒否すること
ⅱ フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
ⅲ フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
ⅳ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
ⅴ 正当な理由なく委託事業者の指定する者の購入・役務の利用を強制すること
ⅵ 委託事業者のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
ⅶ フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付内容を変更させたり、やり直させること
④ 募集情報の的確な表示
委託事業者が広告等でフリーランスを募集する場合には、的確な表示をすることが義務付けられました。
具体的には以下の規制が課されます。
ⅰ 虚偽の表示・誤解を生じさせる表示の禁止
ⅱ 情報を正確かつ最新の内容に保つこと
⑤ ハラスメント対策・育児介護等への配慮などフリーランスの就業環境の整備
委託事業者が、フリーランスに対して、長期間にわたって継続的な業務委託を行う場合には、妊娠・出産・育児・介護のライフイベントと業務を両立することができるよう、必要な配慮をすることが義務付けられます。
また、委託事業者は、フリーランスに対して、パワハラ、セクハラ、マタハラ等が発生しないよう、ハラスメントに関するフリーランスからの相談対応など必要な体制整備などの措置を講じることが義務付けられます。
⑥ 中途解除の場合の予告等
フリーランスとの契約を解消する場合には労働基準法における解雇予告等に類似した以下の規制が設けられました。
ⅰ 委託事業者は、フリーランスとの契約が長期間にわたる継続的な業務委託の場合には、契約の解除または契約の更新拒絶をする場合には、原則として少なくとも30日前までにその予告をする必要があります。
ⅱ 委託事業者は、フリーランスから契約解除の理由の開示を求められた場合には、フリーランスに対して遅滞なく契約解除の理由を開示する必要があります。
4.フリーランス保護新法に違反した場合のペナルティ
委託事業者がフリーランス保護新法に違反した場合には、助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令等の対象になります。
さらに、命令違反や検査拒否等に対しては50万円以下の罰金が課されます。
少なくとも以下の事項については対応が必要になるものと思われます。
① 業務委託先が「フリーランス」に該当するか否かの確認
業務委託先が個人事業主の場合には従業員使用の有無の確認、法人であれば役員の人数や従業員使用の有無を確認する必要があります。
② 業務委託先が「フリーランス」に該当する場合には、業務委託契約書・発注書など業務委託の取引条件が明示された書面等が発行されているか否かの確認
また、契約書を締結している場合には中途解約や更新拒絶の場合の予告期間の日数が30日以上に設定されているか否かもあわせて確認をしておくとよいでしょう。
③ 報酬の支払期日について、支払期日が定められているか否か、支払期日が給付受領日から60日以内の設定になっているか否かの確認
④ 社内にハラスメント相談窓口が設定されている場合には、業務委託先であるフリーランスが相談窓口を利用できることになっているか否かの確認
フリーランス保護新法への対応については、今後の政令等の制定によってさらに具体化していくものと思います。
詳細が分かりましたら、本コラムでも再度取り上げたいと思います。
以上
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