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弁護士コラム
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公開日:2023.7.28
企業法務【名古屋/インターネット問題】権利侵害の明白性について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「権利侵害の明白性」について取り上げます。
1.はじめに
インターネット上で、自社の名誉を傷つけるような事実無根の書き込みなど、自社の権利が侵害されるような投稿がなされた場合、投稿者を特定して損害賠償請求を行うことが考えられます。
そして、投稿者を特定するためには、以下の2つの情報を取得する必要があります。
これらの取得手続を1つの手続の中で行うことができるようになったことは、弁護士コラム「【令和4年10月1日施行】プロバイダ責任制限法の改正について」でお伝えした通りです。
どのような場合に、①や②の情報をサイト管理者やプロバイダ会社から開示してもらうことができるかについては、プロバイダ責任制限法に要件が定められています。
2.発信者情報開示の要件について
プロバイダ責任制限法では、発信者情報の開示を求めるためには、
が要件とされています。
今回は、①権利侵害の明白性について取り上げます。
3.権利侵害の明白性について
プロバイダ責任制限法では、権利侵害の明白性については、「侵害情報の流通によって」「権利が侵害されたことが明らかであるとき」と規定されています。
(1)「侵害情報の流通によって」
「侵害情報の流通によって」とは、典型的には、インターネット上のウェブページやSNS、電子掲示板上に自己の権利利益を侵害する情報が掲載される場合を指します。
侵害情報にハイパーリンクを設けて、侵害情報を広く閲覧させた場合にも、「侵害情報の流通によって」に当たるとして、発信者情報の開示を認めた裁判例があります。
ただし、侵害情報の流通は、特定電気通信設備(不特定の者により受信されることを目的とする電気通信の送信)によって行われる必要があります。
そのため、メール、チャット、お問合せフォームを使って自己の権利利益を侵害する情報が送信されたとしても、1対1の通信によるものであるため、発信者情報の開示を求めることはできません。
(2)「権利が侵害されたことが明らかであるとき」
「権利が侵害されたことが明らかであるとき」における「権利が侵害されたこと」の内容に限定はありませんが、名誉感情侵害、名誉毀損、プライバシー権侵害、著作権侵害などが典型的な例です。
① 名誉感情侵害
名誉感情とは、人が自己自身の人格的利益について有する主観的な評価のことをいいます。
インターネット上の掲示板に投稿された記事が、社会通念上許される限度を超える侮辱行為といえる場合、名誉感情侵害となります。
例えば、特定の人に対する「ブサイク」「デブ」「気持ち悪い」といった表現は、名誉感情侵害になり得ます。
② 名誉毀損
名誉毀損とは、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させることをいいます。
一般読者の普通の注意と読み方を基準として、問題とされる表現が、社会から受ける客観的評価が低下するかどうかを判断します。
例えば、特定の会社に対する「毎日、●時まで、強制サービス残業をさせられる」などn労働基準法に違反して労務管理を怠っている会社である印象を与える表現、特定の人に対する「社内不倫をしている」といった表現は、名誉毀損になり得ます。
なお、名誉毀損に関しては、権利侵害が「明らか」と言えるためには、開示を求める者が、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないことについても主張立証する必要があると言われています。
名誉毀損は、事実を指摘して行う名誉毀損(事実適示型の名誉毀損)と事実を前提として意見論評の形で行う名誉毀損(意見論評型の名誉毀損)に分かれます。
事実適示型の名誉毀損では、
の要件を満たす場合、違法性阻却事由があるとされ、名誉毀損は成立しないとされています。
意見論評型の名誉毀損では、
の要件を満たす場合、違法性阻却事由があるとされ、名誉毀損は成立しないとされています。
そのため、権利侵害が「明らか」と言えるためには、事実適示型の名誉毀損についてはⅰ~ⅲのいずれかの存在をうかがわせる事情がないことを、意見論評型の名誉毀損についてはⅰ~ⅳのいずれかの存在をうかがわせる事情がないことを、主張立証する必要があると言われています。
一般的には、事実適示型の名誉毀損についてはⅲの存在をうかがわせる事情がないこととして、投稿された事実の重要部分が真実でないことを主張立証することが多いです。
③ プライバシー権侵害
プライバシー権とは、他人に知られたくない私生活上の事実又は情報をみだりに公開されない利益又は権利のことをいいます。
プライバシー権の侵害に当たるかどうかは、他人に知られたくない私生活上の事実又は情報を公表されない利益と、当該事実又は情報を公表する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきと考えられており、前者の利益が後者の理由を上回る場合に、プライバシー権の侵害が認められます。
そのため、例えば、他人に知られたくない氏名、住所、電話番号、過去の逮捕歴や前科の有無といった私生活上の事実又は情報が投稿されたとしても、投稿の理由に関する諸事情によっては、プライバシー権侵害が認められない場合もあります。
なお、プライバシー権侵害には、違法性阻却事由は問題となりません。
④ 著作権侵害
著作権とは、著作物の利用に関する権利のことをいいます。
ただし、著作権という名称の権利があるのではなく、著作物の利用形態に応じて、複製権(著作物をコピーする権利)、公衆送信権(著作物をインターネット上で公衆に送信したり、サーバーにアップロードしたりする権利)といった権利が定められています。
発信者情報の開示請求において、著作権侵害が問題となる典型例は、いわゆるP2P形式のファイル交換ソフトを利用した著作物の違法アップロード行為です。
P2Pネットワークとは、ピア・トゥー・ピアネットワークのことをいい、中央で管理するコンピュータを持たず、個々のコンピュータ同士を数珠つなぎで接続して、ファイルの交換を行うネットワークシステムのことです。
このP2Pネットワークに接続してファイル交換を行うためのソフトが、P2P形式のファイル交換ソフトになります。
例えば、ビットトレントは、P2P形式のファイル交換ソフトとして有名です。
P2P形式のファイル交換ソフトを使用して、自分の希望するファイル名を指定することによって、自動で当該ファイルをダウンロードでき、かつ、ダウンロードしたファイルは、他のユーザーからの求めに応じて自動的にファイルをアップロードして配信されます。
P2P形式のファイル交換ソフトは、それ自体が違法なものではありません。
しかし、P2P形式のファイル交換ソフトを使用してダウンロード・アップロードされるファイルが、著作権者の同意を得ない違法な著作物(いわゆる海賊版)だった場合、P2P形式のファイル交換ソフトを使用してアップロードして配信する行為が、公衆送信権の侵害となります。
⑤ なりすまし被害
他人になりすましてSNSのアカウントを作成して記事を投稿した場合、なりすまし投稿が違法になる場合と、なりすまし自体が違法になる場合があります。
なりすまし投稿が、第三者の名誉を毀損した場合や、なりすまし被害にあった被害者のプライバシー権を侵害する場合には、②名誉毀損、③プライバシー権の侵害を理由として、発信者情報の開示を求めることができます。
なりすまし投稿が、第三者の名誉を毀損した場合や、なりすまし被害にあった被害者のプライバシー権を侵害するものでなかった場合、なりすまし自体が違法であると考えることができます。
例えば、氏名を勝手に使われたことについて、「他人に氏名を冒用されない権利」としての氏名権侵害、なりすましの被害にあった被害者が写っている写真を勝手に投稿されたことについて肖像権侵害として考えます。
4.おわりに
自社の名誉を傷つけるような事実無根の書き込みなど、自社の権利が侵害されるような投稿を誰が行ったか特定するためには、「権利侵害の明白性」があるかどうか判断する必要がありますが、その判断には専門的な知識が必要です。
もし、自社の権利を侵害する投稿記事の投稿者を特定したい場合には、弁護士までご相談ください。
以上
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