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公開日:2023.8.25
企業法務【名古屋/インターネット問題】開示を受ける正当な理由について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「開示を受ける正当な理由」について取り上げます。
1.はじめに
インターネット上で、自社の名誉を傷つけるような事実無根の書き込みなど、自社の権利が侵害されるような投稿がなされた場合、投稿者を特定して損害賠償請求を行うことが考えられます。
そして、投稿者を特定するためには、以下の2つの情報を取得する必要があります。
これらの取得手続を1つの手続の中で行うことができるようになったことは、弁護士コラム「【令和4年10月1日施行】プロバイダ責任制限法の改正について」でお伝えした通りです。
どのような場合に、①や②の情報をサイト管理者やプロバイダ会社から開示してもらうことができるかについては、プロバイダ責任制限法に要件が定められています。
2.発信者情報開示の要件について
プロバイダ責任制限法では、発信者情報の開示を求めるためには
が要件とされています。
「① 権利侵害の明白性」については、弁護士コラム「【名古屋/インターネット問題】権利侵害の明白性について」でお伝えした通りです。
今回は、「② 開示を受ける正当な理由」について取り上げます。
3.開示を受ける正当な理由について
プロバイダ責任制限法では、開示を受ける正当な理由について、「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使ために必要である場合、その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」と規定されています。
(1)「当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」
「当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」とは、開示請求者が発信者情報を入手することの合理的な必要性が認められることをいいます。
これは、発信者情報を開示することによって、発信者が被る不利益(表現の自由、プライバシー及び通信の秘密への制約)を考慮して、不当な目的による発信者情報の開示、不必要な発信者情報の開示を防ぐために設けられた要件です。
そのため、例えば、開示された発信者情報を用いて、不当に発信者の名誉や生活の平穏を害する目的(発信者を特定して、実名をインターネット上に晒す目的など)で、発信者情報の開示請求を行う場合などには、「開示を受ける正当な理由」がないことになりますので注意が必要です。
テレサ書式(弁護士コラム「【名古屋/インターネット問題】インターネット上の書き込みへの対応について」参照)の「発信者情報の開示を受けるべき正当な理由」欄には
1.損害賠償請求権の行使のために必要であるため
2.謝罪広告等の名誉回復措置の要請のために必要であるため
3.差止請求権の行使のために必要であるため
4.お客様に対する削除要求のために必要であるため
5.その他
の記載があり、これらの場合には「正当な理由」が認められると考えられています。
(2)「損害賠償請求権の行使のために必要である場合」
プロバイダ責任制限法では、「当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」の例として、「損害賠償請求権の行使のために必要である場合」が規定されています(テレサ書式の1)。
「損害賠償請求権の行使のために必要である場合」とは、投稿記事によって権利を侵害されたため、その相手方を特定して、損害賠償請求を行う場合を指します。
投稿記事によって、自己の権利が侵害された場合に、記事を投稿した相手方を特定することができなければ、損害賠償請求をすることができず、他の手段で相手方を特定することは難しいため、発信者情報を入手することの合理的な必要性が認められると考えられるからです。
反対に、損害賠償金が既に支払い済みであり、損害賠償を請求する権利がない場合には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はないことになります。
なお、被害者が投稿記事によって被害を受けた後に亡くなり、被害者の相続人が全員相続放棄した場合、損害賠償請求をする人がいなくなるため、「正当な理由」がないように思われますが、裁判例では、そのような場合であっても、相続財産管理人が選任されて相続財産の清算を行う可能性があることから、「正当な理由」があると判断されています。
(3) 謝罪広告などの名誉回復措置の請求
投稿記事によって名誉権を侵害されたり、著作権を侵害されたりした場合、投稿記事によって害された被害者の名誉を回復するために、損害賠償請求とは別に、名誉を回復するための措置を請求することができます。
名誉を回復するための措置とは、例えば、新聞・雑誌・ウェブサイトへの謝罪広告や訂正記事の掲載、謝罪文の交付などです。
一般的には、裁判所から名誉を回復する措置まで認められることは少なく、認められた場合でも、謝罪広告が命じられることは稀で、訂正記事の掲載や謝罪文の交付の方が命じられる傾向にあります。
名誉を回復するための措置を請求するためには、投稿記事の発信者を特定する必要がありますので、「正当な理由」があると考えられています(テレサ書式の2)。
(4) 削除請求などの差止請求
投稿記事によって権利が侵害された場合、現に行われている侵害行為を排除したり、将来の侵害行為を予防したりするために、侵害行為の差止めを請求することができます。
侵害行為の差止めとは、例えば、投稿記事の削除や検索事業者に検索結果の削除を求める場合などです。
侵害行為の差止めを請求するためには、投稿記事の発信者を特定する必要がありますので、「正当な理由」があると考えられています(テレサ書式の3、4)。
ただし、既に、投稿記事が削除されている場合などには、「正当な理由」が認められないことがあります。
(5) 刑事告訴
投稿記事が犯罪に該当する場合(名誉毀損罪、業務妨害罪、著作権法違反、商標法違反など)、捜査機関に対して刑事告訴(被害者自身が犯罪を申告し、処罰を求めること)を行うことができます。
裁判例では、特に理由を述べることなく、刑事告訴を行う場合も「正当な理由」に該当すると判断しています(テレサ書式の5)。
ただし、犯人の住所・氏名が判明していなくても刑事告訴を行うことができるため、刑事告訴は「正当な理由」に該当しないという見解もあります。
4.おわりに
自社の名誉を傷つけるような事実無根の書き込みなど、自社の権利が侵害されるような投稿を誰が行ったか特定するためには、「権利侵害の明白性」に加えて、「開示を受ける正当な理由」があるかどうか判断する必要がありますが、その判断には専門的な知識が必要となります。
もし、自社の権利を侵害する投稿記事の投稿者を特定したい場合には、弁護士までご相談ください。
以上
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