弁護士法人PRO | 人事 労務問題 中小企業法務 顧問弁護士 愛知 名古屋 | 伊藤 法律事務所
弁護士コラム
Column
Column
公開日:2023.10.27
企業法務【名古屋/知的財産】デジタル化に伴うブランド・デザイン等の保護強化について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、令和5年6月7日に成立しました「不正競争防止法等の一部を改正する法律」のうち、不正競争防止法、商標法、意匠法等に関する「デジタル化に伴うブランド・デザイン等の保護強化」を中心に取り上げます。
1.令和5年6月7日成立の不正競争防止法等の一部を改正する法律の概要
(1)法改正の背景
知的財産の分野におけるデジタル化や国際化の更なる進展などの環境変化を踏まえ、スタートアップ・中小企業等による知的財産を活用した新規事業展開を後押しするため、令和5年6月7日に「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が成立し、
① デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
② コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
③ 国際的な事業展開に関する制度整備
という3つを柱とした不正競争防止法、商標法、意匠法、特許法等の法改正が行われました。
施行日は、一部を除いて、公布日(令和5年6月14日)から1年を超えない範囲内で政令で定める日とされています。
(2)法改正の概要
① デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
詳細は、2.で述べます。
② コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
ア 送達制度の見直し
(ア) 公示送達制度の見直し(特許法)
これまでは、日本国外の出願人に対して特許庁から送達すべき書類については、書類を国際郵便で発送した時点で送達されたものと取り扱われていましたが、コロナ禍等により、国際郵便の引受けが停止され、国際郵便での書類の発送が行えない状況が生じました。
今回の改正により、公示送達(※)の要件に「国際郵便により発送が困難な状況」を追加することで、公示送達の方法によって書類を送達することができるようになりました。
合わせて、公示送達の方法として、「官報及び特許公報に掲載する方法+特許庁の掲示板に掲示する方法」に加えて、「官報及び特許公報に掲載する方法+特許庁の事務所に設置した電子計算機の映像面に表示したものの閲覧をすることができる状態に置く方法」が認められました。
※ 所定の手続を取ることで、書類を送達したことにする制度のことです。
(イ) オンライン送達制度の見直し(工業所有権特例法)
これまでは、特許庁からの書類(拒絶査定等)の発送は、特許庁の専用サーバに書類のデータが格納された後、出願人が使用するパソコンへの記録が完了した時点をもって、到達したものと取り扱われていましたが、特許庁の専用サーバに書類のデータが格納されてから一定期間内に書類を受け取らない出願人に対しては、紙に切り替えて書類を発送していました。
今回の改正により、オンライン発送を希望する者又は代理人弁理士に対しては、特許庁の専用サーバに書類のデータが格納され、出願人等が受取可能な状態になってから10日以内に受け取らない場合には、書類を受け取ったものと取り扱われるようになりました。
イ 書面手続のデジタル化のための見直し
(ア) 特許等に関する書面手続のデジタル化(特許法、商標法等)
これまでは、特許出願や商標出願等において、パリ条約による優先権を主張するために特許庁に提出しなければならない書類については、書面を原本で提出しなければなりませんでした。
今回の改正により、書面を原本で提出する方法だけでなく、そのコピーや電磁的方法(例えばPDFファイルをメールで送付)によって提出することが認められました。
(イ) 商標の国際登録出願における手数料一括納付(商標法)
これまでは、商標の国際登録出願を行う場合、日本の特許庁へ納付する手数料と国際事務局(WIPO)へ納付する国際手数料を別々に納付しなければなりませんでした。
今回の改正により、商標の国際登録出願を電磁的方法で行う(WIPOの出願システムである「マドリッドe-Filing」を利用する)場合には、国際事務局(WIPO)に日本の特許庁へ納付する手数料もまとめて納付することができるようになりました。
ウ 手数料減免制度の見直し(特許法)
これまでは、中小企業等の特許に関する手数料(審査手数料や特許料)の減免について、出願の件数には特に制限は設けられていませんでした。
今回の改正により、中小企業等の特許に関する手数料(審査手数料や特許料)の減免について、発明奨励という制度趣旨に沿わない形での利用が見られることから、出願の件数に制限が設けられました。
③ 国際的な事業展開に関する制度整備
ア 外国公務員賄賂に対する罰則の強化・拡充(不正競争防止法)
これまでは、外国公務員賄賂に対する罰則は、自然人については「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその両方」、法人については「3億円以下の罰金」と定められていました。
また、外国公務員賄賂に対する罰則は、日本人による贈賄行為が対象とされていました。
今回の改正により、外国公務員賄賂に対する罰則が、自然人については「10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金又はその両方」、法人については「10億円以下の罰金」と強化されました。
また、外国公務員賄賂に対する罰則は、日本人による贈賄行為だけでなく、外国人による贈賄行為も対象となりました。
イ 国際的な営業秘密侵害事案における手続きの明確化(不正競争防止法)
これまでは、日本国内で事業を行う企業の営業秘密が侵害された場合、海外での侵害行為も処罰は可能でしたが、日本国内の裁判所で日本の不正競争防止法によって、差止めや損害賠償を求めることができるか明確ではありませんでした。
今回の改正により、日本国内で事業を行う企業が、日本国内で管理体制を敷いて管理している営業秘密に関しては、海外での侵害行為についても、日本国内の裁判所で日本の不正競争防止法によって差止めや損害賠償を求めて提訴できるようになりました。
2.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化の内容について
(1)商標法の改正
ア 登録可能な商標の拡充
(ア) コンセント制度の導入
これまでは、商標法では、先行する他人の登録商標と同一又は類似する商標については登録を受けることができませんでした(ただし、登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似の指定商品・指定役務に限ります)。
諸外国では、先行する登録商標の権利者による同意(コンセント)があれば、類似する商標であっても併存登録を認める「コンセント制度」が導入されていますが、日本ではこれまで「コンセント制度」は導入されていませんでした。
そのため、日本では、先行する他人の登録商標と類似する商標について出願をした場合に、商標権を取得するためにアサインバックという方法が取られていました。
アサインバックとは、先行する登録商標の商標権者に対し、出願中の商標の出願権を譲渡し、商標登録後に、商標権者から返してもらうという方法です。
登録商標の商標権者自身が出願すれば、「他人」の登録商標でなくなるからです。
しかし、アサインバックには、金銭的・手続的な負担が生じるという難点がありました。
そこで、今回の改正では、「コンセント制度」が導入されることになりましたが、「コンセント制度」が導入された場合、類似する商標について別々の商標権者が存在することになるため、消費者による混同が生じるのではないかという懸念がありました。
そのため、先行する登録商標の商標権者が同意し、かつ、消費者に混同が生じるおそれがない場合に、併存登録を認めるという形で「コンセント制度」が導入されました。
消費者に混同が生じるおそれがあるかどうかは、商品・役務(サービス)の用途など、実際に商標が使用される場面ですみ分けされているか等の点に着目して判断されます。
そして、商標登録後に、消費者に混同のおそれが生じる場合には、先行する登録商標の商標権者は、「コンセント制度」で商標登録を受けた商標権者に対し、混同防止表示の請求ができます。
また、商標登録後に、不正競争の目的で「コンセント制度」で登録を受けた商標が使用され、先行する登録商標の商標権者の商品・役務(サービス)と混同が生じたときは、不正使用取消審判によって「コンセント制度」での商標登録を取り消すことができます。
なお、「コンセント制度」で商標登録を受けた場合、類似する2つの登録商標が併存することになります。
この場合、不正の目的なく商標を使用している限りは、どちらかの商標が周知又は著名になったとしても、周知な商品等表示の混同惹起、著名な商品等表示の冒用(弁護士コラム「周知又は著名な商品等表示への規制(不正競争防止法)について」参照)の対象とならないことになりました。
(イ) 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和
これまでは、商標法では、「他人の氏名」を含む商標は、その他人の承諾がない限り、商標登録を受けることができませんでした。
そのため、同姓同名の他人が複数いる場合、その全員の承諾がないと「他人の氏名」を含む商標を登録することができませんでした。
特に、創業者やデザイナー等の氏名をブランド名に用いることが多いファッション業界では大きな問題となっていました。
2018年、「TAKEO KIKUCHI」ブランドを展開する株式会社ワールドは、「TAKEO KIKUCHI」を含む商標登録を行いましたが、特許庁から拒絶査定を受けています。
そこで、今回の改正では、「他人の氏名」を含む商標について、「他人の氏名」に一定の知名度があるかどうか、出願人側に考慮すべき事情があるかどうか、という観点から一定の場合には、その他人の承諾がなくても、商標登録を認めることになりました。
具体的には、「氏名」に一定の知名度を有する他人が存在する場合に限り、その「他人」から承諾を得れば良いことになりました。
また、一定の知名度を有する他人から承諾が得られなったとしても、出願人側の事情(例えば、商標構成中の氏名が自己の氏名であり、商標登録を受けることについて不正の目的がない場合など)によっては、他人の承諾は不要となりました。
(2)意匠法の改正
これまでは、意匠法では、出願前に自らデザインを公開している場合であっても、一定の要件を満たさない限り、新規性がないという理由で意匠登録が受けられませんでした。
具体的には、出願と同時に例外の適用を受ける旨の書面(例外適用書面)を提出し、出願から30日以内に自ら公開することを証明する証明書(例外適用証明書)を、自己が公開した全ての意匠について網羅的に提出する必要があります。
しかし、例外適用証明書について、出願から30日以内に、自己が公開した全ての意匠について網羅的に提出する負担は大きいものです。
そこで、今回の改正では、最先の公開日に公開した意匠の例外適用証明書を提出すれば、その日以後の公開についての証明は不要となりました。
(3)不正競争防止法の改正
(ア) デジタル空間における形態模倣行為の防止
これまでは、不正競争防止法において、「他人の商品の形態」を「模倣した商品」を「譲渡等する行為」が不正競争として規制されていました(弁護士コラム「商品形態の模倣への規制(不正競争防止法)について」参照)が、「他人の商品」は有体物を前提としていたため、デジタル空間において生成された「他人の商品の形態」を「模倣した商品」は不正競争の対象外でした。
また、「譲渡等する行為」には、「電気通信回線を通じて提供する行為」が含まれていませんでしたので、「他人の商品の形態」を「模倣した商品」をインターネット上で販売する行為は不正競争の対象外でした。
しかし、デジタル技術の進展、デジタル空間の活用が進み、これまで想定されていなかったデジタル上の精巧な衣服や小物等の商品の経済取引が活発化しました。
そこで、今回の改正では、デジタル空間において生成された「他人の商品」を「模倣した商品」を不正競争に取り込むとともに、「模倣した商品」をインターネット上で販売する行為も不正競争に取り込みました。
(イ) 限定提供データの定義の明確化
平成30年の不正競争防止法の改正によって、限定提供データの不正取得等が不正競争として規制されました。
限定提供データとは、他社との共有を前提に一定の条件下で利用可能な情報のことを言います。地図データ、消費動向データなどのビッグデータのことです。
これまでは、秘密として管理されていないビッグデータのみが限定提供データとして不正競争防止法の保護対象となっていました。
そのため、秘密として管理されているものの、公然と知られているビッグデータは、限定提供データとしても営業秘密としても保護されない状態でした。
そこで、今回の改正では、営業秘密と限定提供データを一体的に管理することができるように、秘密として管理されているビッグデータも限定提供データに該当することになりました。
(ウ) 損害賠償額算定規定の拡充
これまでは、営業秘密に関する不正競争(弁護士コラム「営業秘密の保護(不正競争防止法)について」参照)に当たるとして、損害賠償請求を求める場合に、侵害行為と損害との因果関係が明らかでないことが多いため、損害額を原則「侵害品の販売数量×被侵害者(営業秘密保持者)の1個当たりの利益」と推定して算定することになっていました。
しかし、その上限は、被侵害者(営業秘密保持者)の生産・販売能力を限度とされ、被侵害者の生産・販売能力を超える部分の損害額は認められていませんでした。
そこで、今回の改正では、被侵害者(営業秘密保持者)の生産・販売能力を超える部分は、侵害者にライセンスをしたものとみなして、ライセンス料相当額として損害賠償額を増額できるようになりました。
また、デジタル化に伴うビジネスの多様化に対応するため、侵害品の販売だけでなく、データやサービスの提供にも損害賠償額算定規定が適用されるようになりました。
(エ) 使用等の推定規定の拡充
これまでは、営業秘密に関する不正競争(弁護士コラム「営業秘密の保護(不正競争防止法)について」参照)に当たるとして、損害賠償請求を求める場合に、営業秘密保持者から不正取得した「営業秘密」を侵害者が実際に使用しているかどうかを営業秘密保持者が証明することは困難だったため、侵害者が「営業秘密」を不正取得し、その営業秘密を使用すれば生産できる製品を生産している場合には、侵害者が営業秘密保持者から不正取得した「営業秘密」を使用したと推定する規定が設けられています。
しかし、この推定規定の適用を受けることができるのは、侵害者が、①営業秘密へのアクセス権限がない者(産業スパイ等)、②不正取得者からその不正の経緯を知った上で転得した者など、悪質性が高い場合に限られていました。
そこで、今回の改正では、①②に加えて、③元々営業秘密にアクセス権限がある者、④不正な経緯を知らずに転得したがその経緯を事後的に知った者にも、推定規定が適用されることになりました。
3.おわりに
企業活動には、不正競争防止法、商標法、意匠法等の知的財産法が密接に関わってきますが、社会情勢の変化を踏まえて、法改正が続いています。
最新の法改正の情報は、弁護士にお尋ねください。
以上
オンライン会議・
チャット相談について
まずはお気軽に、お電話またはフォームよりお問い合わせください。