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弁護士コラム
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公開日:2021.2.5
企業法務中小企業のM&A① 手続の概略
弁護士法人PROの伊藤崇です
政府は、税制面から中小企業の再編を促し、中小企業の合理化・効率化を図り競争力を高めることを考えているものと思われます。
M&Aは中小企業にとっても自分事として考える必要が生じています。
本コラムでも中小企業のM&Aを継続して取り上げていきたいと思います。
1.中小企業の現状と今後の政策
日本国内には中小企業は約358万社あり、企業全体の約99.7%を占めています。
中小企業は経済活動や雇用を支える正に日本の屋台骨です。
ですが、経営者の高齢化・後継者不在による黒字廃業、折からのコロナ禍による業績低迷など中小企業の存続が危ぶまれる看過できない情勢を迎えています。
政府は、中小企業の再編(M&A)により中小企業の合理化・効率化を図り競争力を高めるべく税制面から中小企業の再編を促す考えのようです。
一部報道では、①M&A後に判明した想定外の事態に備えて買収費用の一部を「準備金」として計上した場合、その準備金を損金算入することを認める、②特定の条件を満たした場合、設備投資額の一定割合についての税額控除を認める、③M&A後もM&A対象会社の従業員の雇用を継続し給与等を前年から一定割合以上増額した場合には増加額の一定割合について税額控除を認める、等の案が検討されているようです。
これまでは、M&Aといえば大企業や一部の中小企業が行うものとのイメージが強かったように思いますが、今後は、多くの中小企業において成長戦略や自社の存続戦略のためにこれまで以上に自分事として、かつ、積極的にM&Aを検討・活用していく必要があると思います。
2.M&Aの概略
⑴ M&Aとは
M&Aは、Mergers and Acquisitionsの略で、合併(Mergers)と買収(Acquisitions)が直訳です。
実際の意味合いとしては、企業自体や企業が営む事業の経営権を、他者が取得すること、または、他者に譲渡することをいいます。
⑵ M&Aのメリット
買い手側にとってのメリットは、時間の削減と既得権の獲得ということになります。
自ら新規事業を立ち上げ成長させるよりも、既に実績のある企業ないしは事業を取得する方が多くの時間の削減につながります。語弊を恐れずに端的に言うと、【時間を金銭で買う】ということです。
収益力の高い事業や有力企業との取引口座、優れた立地条件の不動産、価値のある知的財産については自社自らでは獲得できない場合があり、そうした既得権が獲得できるのもM&Aのメリットと言えるでしょう。また、これは自社自らが同じ事業を構築する場合に比して投資金額を削減することも期待できます。
一方、売り手側のメリットは、売り手側の置かれている状況にとって様々です。
経営資源の集中のために選択から除外された事業部門を売却する、ということもあるでしょうし、企業再生のためにそうしたことが行われる場合もあるでしょう。
また、後継者不在企業の事業承継の手法としてM&Aが用いられることもあります。この点でいえば、売り手側には、会社を廃業する(清算する)よりも売却した方が手取り金額が大きくなることが多いこと、長年心血を注いできた企業が存続することや従業員の雇用の維持といったメリットがあります。
⑶ M&Aの所要時間
次項で述べる買い手側での案件化からクロージングまで、6ヶ月間から1年間程度が目安の時間と言えます。
もちろん、例えば取引規模が大きいM&Aの場合には上記より長期化する場合もありますし、逆に取引規模が小さい場合には上記より短期間で完了するケースもあります。
3.M&A手続の流れとその概略
⑴ M&A手続の流れ
⑵ ①相談からノンネームシート・企業概要書作成に至るまで【売り手側】
M&Aの多くでは売り手と買い手のマッチング(仲介)を行い、M&A手続を主導する存在がいます。
ファイナンシャル・アドバイザー(FA)やM&A仲介会社と表現しますが、境界線が曖昧でもあります。
本稿では、特に区別することなくM&A仲介会社と表現しています。中小企業のM&Aでは、M&A仲介専業会社、銀行、信用金庫等の金融機関、経営コンサルティングファーム等がM&A仲介会社の主流です。
M&A仲介会社の主な役割は、ⅰ売り手と買い手のマッチング、ⅱ対象会社(M&Aの対象となる会社のことをいい、以下同じです。)の企業価値算定、ⅲ買収価格の提案です。
M&A仲介会社と売り手・買い手の契約形態はアドバイザリー契約と仲介契約の2種類があり、アドバイザリー契約はM&Aに関する助言・支援が主たる業務内容、仲介契約はマッチング及び成約が主たる業務内容です。
M&Aにおいても売り手と買い手の利益は相反しますので(買い手に有利なことは売り手に不利に作用する、ということです)、助言・支援を適切に行うためにはアドバイザリー契約は売り手、買い手のどちらか一方のみとしか締結すべきではありません。
ですが、M&A仲介会社においては売り手、買い手双方とアドバイザリー契約を締結するケースも多く見受けられます。特に買い手においてはM&A仲介会社から適切な助言・支援を受けることが本当に期待できるのか慎重に検討する必要があります。
前置きが長くなりましたが、売り手側の①相談、①秘密保持契約、①仲介・アドバイザリー契約、①資料収集等・企業評価、①ノンネームシート・企業概要書作成は、いずれも売り手とM&A仲介会社間で行われます。
M&Aを検討している売り手がM&A仲介会社に対して①個別相談を行い、売り手とM&A仲介会社間で①秘密保持契約が締結されます。
その後、売り手とM&A仲介会社間で①仲介契約またはアドバイザリー契約が締結され、売り手からM&A仲介会社に対して対象会社の企業価値算定等のために必要な資料が提供されます。
資料は、対象会社の組織、財務、資産、事業、人事、契約、許認可等に関係するものを提供することになります。
M&A仲介会社は売り手から提供された資料を踏まえて①対象会社の企業価値の算定(通常は対象会社の株価の算定です)を行います。
その上で、M&A仲介会社は、「ノンネームシート」「案件概要書」などと呼ばれるA4用紙1枚程度の資料と、対象会社の会社概要、事業内容、財務状況、資産、役職員構成等の組織構成、M&Aの条件等が詳細に記載された「企業概要書」などと呼ばれる資料を作成します。
⑶ ②ノンネームシートの検討・案件化【買い手側】
M&A仲介会社等から買い手候補者に対して対象会社が紹介されるケースがあります。
この場合、M&A仲介会社から買い手候補者に対して前述のノンネームシートが提供されます。
ノンネームシートには、対象会社のⅰ事業内容、ⅱ設立年等の沿革、ⅲ資本金、ⅳ株主構成、ⅴ本社等事業所、ⅵ売上、経常利益等の業績推移、ⅶ希望するM&A取引形態(スキーム)等が記載されているのが通常です。但し、この段階ではM&Aに入るか否かすら未定であることから対象会社が特定されない程度の抽象的・簡易的な資料にとどまります。
また、中小企業のM&AにおいてはM&A仲介会社ではなく同業者や買い手側経営者の個人的なつながりからM&A案件がスタートすることもあります。
⑷ ③秘密保持契約【売り手側・買い手側】
ノンネームシートの検討の結果、買い手側が対象会社のM&Aに興味を示し、売り手側においても買い手側との交渉を進めることを承諾した場合、売り手側・買い手側間で秘密保持契約(NDAと呼ぶこともあります)が締結されます。
M&A交渉においては対象会社の秘密情報が買い手側に提供されますので、秘密情報の提供前の秘密保持契約の締結は必須です。
⑸ ④企業概要書の検討【買い手側】
③売り手側・買い手側間の秘密保持契約の締結後、M&A仲介会社から買い手側に対して対象会社の企業概要書が提供されます。
企業概要書には、対象会社のⅰ会社名等会社概要、ⅱ役員構成等組織構成、ⅲ事業概要、ⅳマーケットの概要、ⅴ商流、仕入先、販売先、ⅵ許認可、ⅶ財務状況、ⅷ資産状況、ⅸ中期的な見通し等が記載されています。
買い手側は企業概要書の内容を確認し、交渉をさらに先に進めるか否か、売り手側に対する確認事項等を検討することになります。
⑹ ⑤価格・スキーム等の条件交渉【売り手側・買い手側】
企業概要書の提供後、買い手側ではその内容を確認し、売り手側に対する確認事項の洗い出しを行います。
通常、この確認事項は買い手側からM&A仲介会社に伝えられ、M&A仲介会社が売り手側に照会しながら買い手側に回答することになります。
同時並行で、買い手側において買収価格の検証やM&Aスキームの検証も行われます。
また、買い手側からの確認事項の確認がある程度終わった時点で、売り手側・買い手側のトップ面談や対象会社の事業所見学が行われることもあります。
これらの確認事項の確認、トップ面談、事業所見学等が終了した後、買収価格やM&Aスキームといった具体的な条件交渉が行われます。
⑺ ⑥基本合意(独占交渉権の付与)【売り手側・買い手側】
⑤の条件交渉において最終合意の形成が見込まれるようになると、売り手側・買い手側間で基本合意書が締結されます。
M&A取引では契約事項が多岐に渡り、最終合意前にデューデリジェンスが行われるなど最終合意までに長期を要します。
それまでの間に何の合意書も締結されないのは売り手側・買い手側双方にとって交渉期間中の立場を不安定なものにしてしまいます。
そのため、当事者がM&A取引に前向きな場合には中間的に基本合意書を締結することが多くあるのです。
但し、基本合意はM&Aの最終合意ではありません。例えば、M&Aのスキームとして株式譲渡が用いられる場合、基本合意は売り手側から買い手側への株式譲渡を約定するものではありません。
基本合意は、最終契約締結に向けて当事者間で誠実に協議を行うこと、買い手側が実施するデューデリジェンスへの売り手側の協力、スケジュールの明確化、当該スケジュール期間中の買い手側への独占交渉権の付与等に意義があります。
また、通常、基本合意後に買い手側による対象会社のデューデリジェンスが行われ、そこで判明した事象に基づき買収価格その他の契約条件に変動が生じる可能性もあります。
つまり、基本合意書に買収価格等が具体的に記載されたとしても、その価格は将来変動する可能性のある暫定的な内容に過ぎない、ということです(例えば、基本合意書締結後に対象会社を精査したところ高額の簿外債務が発見された場合には基本合意書記載の買収価格がそのまま維持されることは不合理であり、最終合意において価格自体の変更や支払条件の変更等がなされる場合があります。)。
このように基本合意はあくまで最終合意前の中間合意であり、買い手側に独占交渉権を付与するとともに交渉期間中の誠実交渉を義務づけることに意義がありますので、買い手側への独占交渉権の付与条項等一部の条項を除き基本合意には法的拘束力を持たせたいことが一般的です。
なお、中小企業のM&Aにおいては、⑥基本合意が省略され、③秘密保持契約と⑨最終契約のみが締結されるケースも散見されます。
しかし、特に買い手側からすると、③秘密保持契約締結後、⑨最終契約に至るまでの数ヶ月間、売り手側が別の候補者とも交渉を進めている可能性を払拭できないことになり、買い手側において検討に要した時間やコストが無駄になる恐れがあります。
ですから、特段の事情のない限りは、秘密保持契約、基本合意、最終契約の3つの契約書面の締結を行うことが適切です。
⑻ ⑦デューデリジェンス(DD)
ア DDとは。DDの意義
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、対象会社の価値やリスク等を調査することであり、「企業調査」、「買収監査」と言われることもあります。本稿では以下「DD」と言います。
M&Aは取引金額自体が高額になることが多く、その反面、取引の対象になる企業・事業は外部からではその実体を把握することが困難です。
貸借対照表や損益計算書等の計算書類から把握できる情報があることはそのとおりですが、例えば粉飾決算がなされていた場合や債務計上が漏れていた場合(簿外債務)には計算書類からは判断できません。
同様に貸借対照表に計上されている資産の価格は簿価であり、時価ではなく必ずしも対象会社の資産価値を正しく表示しているとは言い難いのです。そのため、特に買い手側にとってはDDは必須の作業になります。
イ DDの目的とDDで発見された問題点への対応
DDの目的は、買い手において対象会社(対象事業)を把握すること、です。
これを細分化すると、
ⅰ そもそも対象会社は買収するべき会社か
ⅱ 対象会社の買収額
ⅲ 買収実行の障害となる事実の存否とその内容
ⅳ 買収後の経営に影響を与える事実はないか
の4つになります。
そして、DDにより判明した問題点についての買い手側の対応策としては概ね以下の選択肢が考えられます。
ⅰ M&Aの中止
ⅱ スキームの変更
ⅲ 買収価格への反映(減額)
ⅳ 買収額の支払方法による対応(一部後払い、アーンアウト)
ⅴ 最終契約条項において対応(クロージングの前提条件・表明保証条項・誓約条項・補償等での対応)
ⅵ 買収後に改善(売り手側との交渉では特に何もしない)
ウ DDの実施項目
DDの実施項目は、多岐に渡り、分類の仕方も様々です。また、各項目で重複するものも多くあります。以下ではその一部をご紹介します。
中小企業のM&Aでは、予算や時間の制約からすべてを実施することはレアケースで、一般的には、ⅰ事業(財務)、ⅱ税務、ⅲ法務について実施されます。
ⅰ 事業DD・財務DD
事業DDは、買収対象会社、買収対象事業そのものを調査対象とするもので、買い手側が買収を実行するべきか否か、買収額をいくらにするべきかを判断する上で重要となります。
財務DDは、対象会社の財務状況を正確に把握するための調査です。対象会社の計算書類だけからは判断できない対象会社の実際の財務状況を把握するために行われます。
中小企業においては、財務状況から対象会社の価値を把握することが可能なケースが多いため、事業DDと財務DDが重複すると言えます。
事業DDはM&A仲介会社が、財務DDは公認会計士、税理士等が実施します。
ⅱ 税務DD
税務DDは、対象会社の過去の税務申告が適切に行われているかの調査です。また、M&A取引の実行による課税関係の検討のためにも行われます。
税務DDは、財務DDの一環としてなされることが一般的です。
税務DDは公認会計士、税理士が実施します。
ⅲ 法務DD
法務DDは、対象会社の有する法的リスクを把握するために行われる調査です。
対象範囲は、対象会社の株主構成、契約関係、人事労務問題、事業用資産、ファイナンス、訴訟等紛争案件、許認可関係、知的財産、コンプライアンス一般など多岐に渡ります。
法務DDの結果、発見された問題点に対してはリスク回避や軽減のためにスキーム自体の変更や最終契約書での手当、それだけではリスク回避ができない場合には買収額の軽減により対応することもあります。
法務DDは弁護士が実施します。
※人事労務問題に対するDD(労務DD)、知的財産に対するDD(知財DD)、不動産に対するDD(不動産DD)を法務DDとは別個のものとして分類する場合もありますが、中小企業においては法務DDないしは財務DDの一環として行われることが通例であることから本稿では法務DDに含めて整理しました。
ⅳ 環境DD
環境DDは、対象会社について土壌汚染の可能性が疑われるような場合(例えば対象会社の資産に化学薬品を使用する工場が含まれているような場合)に事実確認や対策費用の算出などのために実施される調査です。
環境DDが実施される場合には、環境コンサルタントが調査を実施することがあります。
あるため、買い手にとってDDは必須です。
ⅴ ITDD
ITDDとは、対象会社が使用している情報システムについて把握し、買い手側企業の使用しているシステムとの統合の可否やシステムの保守管理コストなどを把握検討するための調査です。
汎用的なシステムが使用されている場合には実施されません。
⑼ ⑧最終条件交渉【売り手側・買い手側】
⑦DDの結果を踏まえ、売り手側と買い手側にて最終の条件交渉が行われます。
例えば、DDにより、対象会社に売り手側以外の株主が存在する可能性が判明した場合にはスキーム自体の見直しや最終契約書の条項に関して交渉が行われます。
対象会社に簿外債務(従業員に対する未払賃金や役職員に対する退職手当の引当金不足など)や高額の不良債権が存在することが判明した場合には買収価格の減額交渉が行われます。
また、対象会社の重要な取引相手やメインバンクとの契約条件にいわゆるチェンジオブコントロール条項(COC条項:対象会社の株主や経営体制に変更がある場合、契約相手への事前通知もしくは契約相手からの承諾が必要、または、これらの変更自体が契約解除事由や期限の利益喪失事由と規定されている条項のこと)が盛り込まれていることが判明した場合には、上記各社からの承諾の取り付けをクロージングの前提条件に盛り込む、といった交渉も行われます。
その他、M&A後の役員や従業員の処遇、M&A後の売り手側の引き継ぎへの協力、競業避止義務の内容等も最終条件交渉の対象になり得ます。
以上のように、最終条件交渉は、DDにより発見された問題点を踏まえ、そのリスクをいかに取り扱うか、といった観点からなされるものであり、交渉項目はケースバイケースです。
そして、一口にリスクと言ってもその内容は様々ですし、それへの対処方法も様々ですから、最終条件交渉には弁護士等の専門家の関与が必須と言えます。
⑽ ⑨最終契約【売り手側・買い手側】
最終条件交渉後、交渉が成立した場合には、最終的に合意した内容を書面化した契約書(最終契約書)を作成し、売り手側・買い手側間で締結します。
最終契約書はスキームごとによって内容が異なりますが、中小企業のM&Aにおいて最もよく使われる株式譲渡の契約書(株式譲渡契約書)の典型的な構成は以下のとおりです。
① 目的・定義
② 株式譲渡合意・譲渡価格
③ クロージング
④ クロージングの実行条件(売り手側の実行条件、買い手側の実行条件)
⑤ 表明保証(売り手側の表明保証、買い手側の表明保証)
⑥ 誓約事項(売り手側、買い手側双方について、クロージング前の誓約事項、クロージング後の誓約事項)
⑦ 補償・損害賠償
⑧ 解除
⑨ 一般条項(秘密保持・公表、費用負担、完全合意、暴排条項、裁判管轄等)
最終契約書にはDD、最終条件交渉で協議されたリスク軽減策や回避策を盛り込んでいくことになります。
こちらもケースバイケースになりますので、ひな形はあってないようなものであり、安易にひな形を使い回すのはそれこそ高リスクと言えます。ですから、最終契約書の作成にも弁護士等の専門家の関与が必須になります。
⑾ ⑩クロージング【売り手側・買い手側】
クロージングは決済とも呼ばれ、買い手側から売り手側への買収代金の支払、売り手側から買い手側への必要書類・重要書類・データ等の授受、クロージング条件の充足の確認等が行われます。
M&A取引の最終段階です。
株式譲渡のクロージング手続の概略は以下のとおりです。
ア クロージング日まで
ⅰ 売り手(株主)による対象会社への株式譲渡承認請求
ⅱ 対象会社による株式譲渡承認決定
ⅲ その他、最終契約においてクロージング実行条件とされた事項の実施
イ クロージング日
ⅰ クロージング実行条件を充足していることの確認
ⅱ 必要書類の確認・引き渡し
ⅲ 株券の引き渡し(対象会社が株券発行会社の場合)
ⅳ 買収代金の支払
ⅴ 対象会社株主名簿の書換え
ⅵ ⅱの必要書類以外の重要書類・重要物・重要データの授受
ⅶ 株式譲渡後の新体制下での対象会社臨時株主総会・取締役会の開催
ⅷ 登記申請手続(役員変更や定款変更がなされた場合)
⑿ ⑪公表・ディスクローズ
売り手側、買い手側双方において、M&Aの実施につき、役員、従業員、取引先等に公表します。
M&Aは交渉実施中は情報漏洩を防止するために社内でも極限られた一部の人間にしかM&Aのことを知らせないのが通例です。
売り手側では、M&A後も対象会社に残る役員や従業員の中のキーパーソンに対しては、最終契約書締結前にM&Aのことを伝え、M&Aの実行及び実行後の事業運営に協力が得られるよう説明する必要があります。
その他の従業員に対しては情報漏洩防止や従業員の動揺、対象会社の評判毀損(対象会社が身売りする、など)防止のためにクロージング後に伝えるのが一般的です。
メインバンクや重要な取引先に対しては、COC条項への対処やM&A後の取引継続、売り手側の現代表取締役の連帯保証解除等を考慮して、公表時期を決めることになりますが、遅くとも最終契約締結後、クロージング前には事前にきちんと説明をするのが適切でしょう。
その他の取引先に対してはクロージング後に売り手側、買い手側連名で挨拶状を送付するなどしてM&Aのことを伝えます。
買い手側では、基本的にクロージング後に公表することになります。
4.中小企業のM&Aの特色
⑴ 選択されるスキーム
中小企業同士のM&Aでは、対象会社の株式譲渡がスキームとして選択されることがほとんどです。
⑵ 中小企業特有のリスク
中小企業特有のリスクとしては、
ⅰM&Aにより対象会社の企業価値が毀損されやすいこと
ⅱ対象会社の社内管理体制の整備が不十分であること
が挙げられます。
ⅰ M&Aにより対象会社の企業価値が毀損されやすいこと
中小企業の場合、経営者や一部の役員の人的関係によって経営が成り立っているケースや、一部の従業員の知識、技術や大口の取引先からの収益によって経営が成り立っているケースが多くあります。
こうしたキーパーソンがM&Aにより対象会社を去ることになった場合やM&Aを契機として大口取引先から取引を打ち切られるような場合には対象会社の企業価値は多く下落し、最悪、買い手側としては買収したこと自体が無意味になる場合もあります。
従って、M&Aにおいては、情報漏洩の防止やキーパーソン、取引先への情報開示のタイミングの検討、DD、最終契約書におけるリスクへの手当といった配慮、対処が必要になります。
ⅱ 対象会社の社内管理体制の整備が不十分であること
中小企業においては、会社法や労働法の遵守、就業規則等の社内規定の整備、取引先との契約書類の作成・保管、計算書類の精度・信憑性といった点において不十分であることが少なくありません。
そのため、特に買い手側においては、対象会社に対するDDや最終契約書におけるリスクへの手当、そもそものスキーム検討といった点において慎重に検討対処する必要性があります。
⑶ 弁護士の関与が強く求められること
M&Aは、取引額自体が高額であることが多く、他方でひとたび買収してしまうと買収前の状態に戻すことはほぼ不可能です(いったん買収した後にすべてを白紙に戻すことは現実的ではなく、ほとんどのケースでクロージング後の契約解除は認められていません。)。
さらに、自分の目で見て判断することができない抽象的な会社、事業が売買の対象になりますし、そこには多数の法律や権利関係が複雑に入り組んでいます。
ただ、買い手側も中小企業である場合、買い手側においてもこれらの点に適切に対処できる人材が社内に十分には存在しない、というケースも多いと思われます。
高額の費用をかけられないという予算上の制約があるのも特徴の一つではありますが、M&A実施後の後悔を防ぐためにも、少なくとも以下の手続については弁護士等の専門家の関与が必須であるように思います。
買い手側
・基本合意書の作成、リーガルチェック
・デューデリジェンス(特に法務DD)
・最終条件交渉
・最終契約書の作成、リーガルチェック
・クロージング(特にクロージング実行条件の充足確認と必要書類その他の書類の確認)
売り手側
・秘密保持契約書の作成、リーガルチェック
・基本合意書の作成、リーガルチェック
・最終条件交渉
・最終契約書の作成、リーガルチェック
以上
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