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弁護士コラム
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公開日:2024.2.29
企業法務2024年に施行される主な改正法について(その1)
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
2024年に施行される改正法のうち、企業活動や私たちの生活に関係の深い主要なものを、今回と次回の2回に分けてご紹介します。
1.フリーランス保護新法関係(2024年11月までに施行)
2024年11月までに施行されるフリーランス保護新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、業務委託をする際の取引条件の明示、報酬支払期日の規制、受託事業者の遵守事項(禁止事項)、募集情報の的確な表示、ハラスメント対策等、中途解約の場合の予告等が定められています。
詳しくは、2023年7月7日公開の弁護士コラム「~フリーランス保護新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)~」をご覧ください。
2.知的財産関係
(1)意匠法(2024年1月1日施行)
2024年1月1日に施行される改正意匠法では、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続が緩和されます。
詳しくは、2023年10月27日公開の弁護士コラム「デジタル化に伴うブランド・デザイン等の保護強化について」の「2.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化の内容について」の「(2)意匠法の改正」をご覧ください。
(2)商標法(2024年4月1日施行)
2024年4月1日に施行される改正商標法では、コンセント制度が導入されるとともに、他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されます。
詳しくは、2023年10月27日公開の弁護士コラム「デジタル化に伴うブランド・デザイン等の保護強化について」の「2.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化の内容について」の「(1)商標法の改正」をご覧ください。
(3)不正競争防止法(2024年4月1日施行)
2024年4月1日に施行される改正不正競争防止法では、デジタル空間における形態模倣行為の防止、限定提供データの定義の明確化、損害賠償算定規定の拡充、使用等の推定規定の拡充などが行われます。
詳しくは、2023年10月27日公開の弁護士コラム「デジタル化に伴うブランド・デザイン等の保護強化について」の「2.デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化の内容について」の「(3)不正競争防止法の改正」をご覧ください。
(4)景品表示法(2024年11月までに施行)
2024年11月までに施行される改正景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)では、事業者の自主的な取り組みの促進、違反行為に対する抑止力の強化、円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等が行われます。
① 事業者の自主的な取り組みの促進
・確約手続の導入
事業者が、景品表示法に違反する不当な表示(優良誤認表示や有利誤認表示)や、過大な景品類の提供を行った場合、消費者庁は、違反を行った事業者に対し、措置命令(不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなど命じるもの)を行います。
また、事業者が景品表示法に違反する不当な表示をした場合、消費者庁は、違反を行った事業者に対し、課徴金(課徴金対象期間に行った取引によって得られた売上高の3%に相当する金額)の納付を命じます。
改正前の景品表示法では、事業者が自主的に違反行為を是正しても、措置命令や課徴金納付命令を避けることはできませんでした。
しかし、それでは、事業者による自主的な違反行為の是正が図られません。
そのため、改正景品表示法では、事業者による自主的な違反行為の是正を促すため、事業者が是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、措置命令及び課徴金納付命令の適用を受けないことになりました。
・課徴金制度における返金制度の弾力化
景品表示法には、「返金措置の実施による課徴金の額の減額等」という制度があります。
「返金措置」とは、消費者との間で取引した商品・サービスの購入金額の3%以上の金額を消費者に返金するというものです。
景品表示法に違反する不当な表示を行った事業者が、以下の手順を踏むことで、返金合計額が課徴金額未満の場合は、課徴金額から返金合計額を減額され、返金合計額が課徴金額以上の場合は、課徴金の納付を命じられません。
改正景品表示法では、事業者による返金措置の実施を促すために、消費者への返金方法として、金銭による返金に加えて、第三者前払式支払手段(いわゆる電子マネー等)も追加されることになりました。
② 違反行為に対する抑止力の強化
・課徴金制度の見直し
改正景品表示法では、過去10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対し、通常の1.5倍の課徴金の納付を命じることができるようになりました。
また、課徴金対象期間に行った取引によって得られた売上高が明らかでない場合に、合理的な方法によって推計した売上高でもって、課徴金の納付を命じることができるようになりました。
課徴金制度を強化することで、違反行為に対する抑止が期待されます。
・罰則規定の拡充
改正前の景品表示法では、景品表示法に違反する優良誤認表示・有利誤認表示を行った場合、消費者庁からの措置命令等に違反した場合に刑事罰(2年以下の懲役又は300万円の罰金、場合によっては懲役刑と罰金刑が両方)が科されていました。
しかし、改正景品表示法では、違反行為に対する抑止のために、景品表示法に違反する優良誤認表示・有利誤認表示を行った場合、それだけで100万円以下の罰金に処せられることになりました(これを直罰と言います)。
③ 円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等
・適格消費者団体による開示要請規定の導入
適格消費者団体(不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するために差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人)が、一定の場合に、事業者に対し、当該事業者による表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を要請することができるようになりました。
この要請に対して、事業者は、営業秘密が含まれるなどの正当な理由がある場合を除いて、要請に応じる努力義務が課されました。
3.民法(2024年4月1日施行)
(1)嫡出推定規定の見直し・女性の再婚禁止期間の廃止
① 嫡出推定規定の見直し
改正前の民法では、結婚中に懐胎(妊娠)した子は夫の子と推定され、結婚から200日経過後~離婚後300日以内に生まれた子は、結婚中に懐胎(妊娠)したものと推定する規定がありました(これを嫡出推定規定といいます。)。
そのため、特に、離婚後300日以内に夫以外の者との間の子を出産した女性が、嫡出推定規定によってその子が夫の子として扱われることを避けるために出生の届出をせず、無戸籍の子が生じる原因となっていました。
そこで、無戸籍問題を解消するために、改正民法では、離婚後300日以内に生まれた子であっても、その間に母が再婚をしたときは、再婚後の夫の子と推定するとの規定が設けられました。
嫡出推定規定の見直しは、2024年4月1日以降に生まれる子に適用されます。
② 女性の再婚禁止期間の廃止
改正前の民法では、女性は離婚後100日間再婚することができませんでした。
これは、改正前の民法の嫡出推定規定によって、前夫との離婚後300日に以内に生まれた子は前夫の子と推定されますが、離婚後100日以内に女性が再婚し、再婚後200日経過後に子が生まれると再婚後の夫の子とも推定されますので、推定の重複を避けるためです。
しかし、改正民法によって、離婚後300日以内に生まれた子であっても、その間に母が再婚したときは、再婚後の夫の子と推定するという規定が設けられた結果、推定の重複がなくなりましたので、女性の再婚禁止期間は廃止されました。
女性の再婚禁止期間の廃止は、2024年4月1日以降の結婚に適用されます。
法務省のホームページより抜粋
(https://www.moj.go.jp/content/001395212.pdf)
(2)嫡出否認制度に関する規律の見直し
改正前の民法では、嫡出推定規定によって、夫の子と推定された子は、夫が、子の出生を知った時から1年以内に、嫡出否認の訴えを起こすことで、夫の子であるという推定を否認することができました。
しかし、嫡出否認の訴えは、夫のみが行うことができ、子や母は、夫の子であるという推定を否認する手段がありませんでしたので、子が夫の子として扱われることを避けるため、出生の届出をせず、無戸籍の子が生じる原因となっていました。
そこで、改正民法では、夫だけでなく、子や母も、嫡出否認の訴えを提起できるようになりました。
また、改正民法によって、離婚後300日以内に生まれた子であっても、その間に母が再婚したときは、再婚後の夫の子と推定するという規定が設けられた結果、再婚後の夫の子と推定される子に対しては、前夫が、嫡出否認の訴えを提起することができるようになりました。
ただし、妻が夫の同意の下、第三者の提供精子を用いた生殖補助医療により懐胎(妊娠)・出産した子については、夫に加え、子も妻も、嫡出否認の訴えを提起することができません。
改正前の民法では、1年間は、訴えを提起する期間としては短すぎるという指摘がありました。
そこで、
① 父が嫡出否認の訴えを提起する場合には、父が子の出生を知った時から3年
② 子や母が嫡出否認の訴えを提起する場合には、子の出生の時から3年
③ 前夫が嫡出否認の訴えを提起する場合には、前夫が子の出生を知った時から3年
に訴え提起の期間が伸長されました。
嫡出制度に関する規律の見直しは、2024年4月1日以降に生まれる子に適用されます。
ただし、子や母は、2025年3月31日までは、2024年3月31日以前に生まれた子について、嫡出否認の訴えを提起することができます。
法務省のホームページより抜粋
(https://www.moj.go.jp/content/001395212.pdf)
(3)認知無効の訴えの規律の見直し
認知とは、結婚していない男女間の子について、父親が自分の子であると認めることを言います。
認知によって、父と子の間に法律上の親子関係が生じます。
改正前の民法では、子その他の利害関係人は、認知無効の訴えを提起した上で、認知に対して反対の事実(認知した人が父ではない事実)を主張することができ、認知を無効とすることができることになっていました。
しかし、利害関係を有する者であれば誰でも、いつまでも、認知無効の訴えを提起することができることから、子の地位が著しく不安定(誰が父か決まらない)であるとの指摘がありました。
そこで、改正民法では、子、認知した者(父)及び母だけが、認知無効の訴えを提起できるようになりました。
また、改正民法では、認知無効の訴えは、
① 子又はその法定代理人が認知無効の訴えを提起する場合には、子又はその法定代理人が認知を知った時から原則7年(※)
② 認知をした者(父)が認知無効の訴えを提起する場合には、認知の時から7年
③ 子の母が認知無効の訴えを提起する場合には、子の母が認知を知った時から7年
に限って、提起できるようになりました。
※ 子が、その子を認知した者(父)と認知後に継続して同居した期間が3年を下回る場合には、7年ではなく、21歳になるまで認知無効の訴えを提起できます。
法務省のホームページより抜粋
(https://www.moj.go.jp/content/001395212.pdf)
4.不動産登記法(2024年4月1日施行)
ある人が亡くなった場合、その人が亡くなった時に所有していた不動産(土地・建物)は、遺産分割や遺言での指定がない限り、全ての相続人が法定相続分の割合で共有している状態になります。
その場合、改正前の不動産登記法では、相続登記(全ての相続人が法定相続分の割合で登記する方法)は義務とされていませんでした。
また、改正前の不動産登記法では、相続登記をするためには、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が必要になるため、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍関係書類を集める必要があり、資料収集の負担が大きい実情がありました。
そのため、相続登記があまり行われていませんでしたが、遺産分割をしないまま相続が繰り返されることによって、不動産の所有者が複雑になっていくとともに、不動産の管理が放置され、所有者不明の不動産(特に土地)が発生する温床になっていました。
そこで、改正後の不動産登記法では、不動産を相続で取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を義務付けるとともに、正当な理由がないのに相続登記の申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処せられることになりました。
ただし、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍関係書類を全て集める必要はなく、①所有権の登記名義人について相続が開始した(死亡した)旨と、②自らがその相続人である旨を3年以内に申し出ることで、申請義務を果たしたことになります(自分が相続人であることが分かる戸籍の添付は必要です)(これを「相続人申告登記」といいます)。
遺産分割の成立、遺言がある場合には、以下のように相続登記を行わないといけません。
【遺言がある場合】
・遺言によって不動産の所有権を取得した相続人が、不動産を取得したことを知った日から3年以内に遺言の内容を踏まえた登記の申請(相続人申告登記でも可)を行う。
【相続によって不動産を取得したことを知って3年以内に遺産分割が成立した場合】
・相続によって不動産を取得したことを知ってから3年以内に遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請を行う。
・それが難しい場合には、相続によって不動産を取得したことを知ってから3年以内に相続人申告登記の申出(法定相続分での相続登記の申請でも可)を行った上で、遺産分割成立日から3年以内に、その内容を踏まえた相続登記の申請を行う。
【相続によって不動産を取得したことを知って3年以内に遺産分割が成立しない場合】
・まずは、相続によって不動産を取得したことを知って3年以内に相続人申告登記の申出(法定相続分での相続登記の申請でも可)を行う。
・その後に遺産分割が成立したら、遺産分割成立の日から3年以内に、その内容を踏まえた相続登記の申請を行う。
・その後に遺産分割が成立しなかったら、それ以上の登記申請は義務付けられない。
相続登記の申請義務は、2024年4月1日よりも前に相続が発生したケースについても発生します。
その場合は、2024年4月1日とそれぞれの要件を充足した日(相続によって不動産を取得したことを知った日、遺言によって不動産を取得したことを知った日、遺産分割成立の日など)のどちらか遅い日から3年間の申請義務期間が始まります。
5.労働関係法令
次回のコラム『2024年に施行される主な改正法について(その2)』でご紹介します。
以上
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