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弁護士コラム
Column
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公開日:2021.4.9
企業法務企業法務担当者の心構え
弁護士法人PROの伊藤崇です。
4月。新年度の始まりですね。
人事異動で新しく法務担当になった方もおられることと思いますし、引き続き法務担当の立場に残られた方もおられると思います。
法務担当者は時として社内での立ち位置に迷われることがあるように思います。それが原因で社内で思わぬ軋轢が生じることもあり得ます。
そこで、今回は企業の法務担当者の心構えについて取り上げています。
なお、本稿が想定している企業は、社内に専門の法務部門は存在せず、管理部門(総務部や管理部など名称は企業によって様々です)内の特定の担当者が自社の契約業務等の法務を担当している、そうした企業を想定しています。
1.法務部門はブレーキ役
企業経営を自動車の運転に例えて考えてみます。
自動車の運転には「アクセル」、「ブレーキ」が必要です。
自動車を前に進めるには「アクセル」が必要です。
アクセルを踏まなければそもそも自動車は前に進みませんし、スピードを上げるためにもアクセルは必要です。
一方、自動車の運転には「ブレーキ」も必要です。アクセルを踏み続けてスピードを上げ続けたらいつか事故を起こします。事故を起こすことなく安全に自動車を運転するためには「ブレーキ」が必要です。
企業経営において、「アクセル」が営業部門や製造部門だとすると、「ブレーキ」は法務部門です。
自動車がスピードを出し過ぎたり、信号無視をするなどして事故が生じないように自動車を減速・停止させて安全な運転を実現することがブレーキの役割です。
企業に置き換えて考えると、
企業(自動車)が利益や成長を追い求めるあまりにハイリスクな取引を行ったり(スピードの出し過ぎ)、
違法行為をしたり(信号無視)して、不祥事や多額の損失(事故)を引き起こすことがないように、
リスク低減やリスク回避の観点から自社の取引を時に制限し、時にストップさせて、
企業の安定的かつ健全な成長発展を実現することが法務部門の役割です。
これは企業法務の中心でもある予防法務(将来のリスク回避やリスク低減のための契約書類の審査や取引内容の審査業務等)そのものです。
2.企業経営にとって望ましい法務部門の在り方とは?
では、法務部門がブレーキ役だとして、企業経営にとって望ましい法務部門とはどういったものでしょうか?
ブレーキをまったく踏まない、あるいは、ブレーキを踏むタイミングが遅れて事故を引き起こしてしまう、そんな法務部門が論外であることは言うまでもありませんし、法務担当者を置く企業ではこうしたケースはレアケースでしょう。
悩ましいのは、ブレーキのかけ方、なのであろうと思います。
法務担当者においても、法務部門を置く企業経営者にとっても、です。
自動車の運転を例にとり、逆説的に考えてみます。
ご自身が助手席に座っているとしてイメージしてみてください。
①の直前の急ブレーキは同乗者として危険極まりないですし、後続車をはじめとして周囲の車両にも迷惑をかけてしまいます。
企業経営に置き換えると、営業部門が取引相手と複数回の交渉を済ませ、やっと契約締結にこぎ着けた、、、、というタイミングで、法務部門が当該取引にストップをかける、といったケースでしょうか。
もちろんその取引を実施することが違法になったり、あるいは取引相手が反社会的勢力等で当該取引を実施することが企業不祥事に発展したりする場合には法務部門は全力で当該取引をストップさせなければなりません。
ですが、そこまでのケースは実際上多くはなく、時として法務担当者が【リスク】という言葉に振り回されてしまっているケースも散見されます。
②のケースももちろん安全運転であることはそのとおりなのですが、同乗者としてはイライラしてしまうように思います。
企業経営においては、自社のスピーディーな成長やさらなる成長のために多少のリスクを取ってでも取引を行っていかなければならない局面というのは多々生じます。
そうした局面において、取引相手提示の契約書に法務部門が数多くの修正コメントを付して契約締結交渉が難航してしまうといったケースは散見されるところです。
最悪の場合、取引自体が流れてしまう、ということも生じます。
企業経営は同業他社との競争でもあります。
安全運転を意識し過ぎるあまりにアクセルを踏んでスピードを上げるチャンスを奪ってしまうことも避けなければなりません。
自動車の目的を考えたとき、それは、目的地に速く快適に到達すること、です。
アクセルはスピードを上げて自動車を動かすための手法であり、ブレーキは自動車を安全に目的地に到達させるための手法です。
アクセルもブレーキも目的は共通であり、目的達成のための手法として異なるアプローチから目的達成のために資する、と考えることができます。
企業経営の目的は、中長期的に企業価値を向上させ、それにより企業の利害関係者に利益を還元すること、であると考えます。
企業に存在する各部門はすべてこの目的のために存在するものであり、それぞれの部署から上記目的達成のために担当業務を遂行します。
法務部門も全く同様であり、法務部門の存在意義は自社の中長期的企業価値の向上とそれによる利害関係者への利益の還元です。
企業が中長期的に企業価値を向上させていく上では利益を上げて成長していくことが必須です。
そのためには多少のリスクを取ってでもリターンを獲りに行く冒険的判断も必要になります。
ですが、違法行為を犯したり不祥事を起こして企業価値を毀損させてしまってはこれまで積み上げてきた努力が水の泡になってしまいます。
企業経営にとって望ましい法務部門とは、
法務の目的が自社の企業価値の向上であることを意識し、
適切なタイミングで、かつ、適切な力加減でブレーキをかけ、
時にはブレーキをかけない、逆に、強くブレーキを踏み込む、という選択肢も持ち合わせている、
そうした存在であると考えます。
自動車の運転が上手い人はブレーキが上手、ということはよく聞く話で、これは企業経営や企業法務においても当てはまるのです。
以上
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