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弁護士コラム
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公開日:2024.7.31
企業法務カスタマーハラスメント
弁護士法人PROの伊藤崇です。
今回は、「カスタマーハラスメント」について取り上げます。
1.カスタマーハラスメントとは?
「カスタマーハラスメント(通称、「カスハラ」)」とは、一般的に顧客から企業や公共機関の従業員・職員に対して行う理不尽なクレームや迷惑行為のことを指します。
パワーハラスメント(パワハラ)やセクシャルハラスメント(セクハラ)については、法律上に定義がありますが、現状「カスハラ」については何らかの法律で定義が規定されている言葉ではありません。
しかし、令和3年(2021)年に厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」において、カスハラは以下のように定義されています。
このようなカスハラの定義からは、カスハラに該当するか否かの判断基準として、「①顧客からの要求の内容が妥当か否か」という点と、「②要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当であるか否か」という観点から判断する必要があります。
「①要求内容が妥当ではないという場合」として、以下のようなケースが考えられます。
◆企業の提供する商品やサービスに欠陥やミスがない場合
◆顧客の要求内容が企業の提供する商品・サービスと無関係な場合 など
また、「②要求を実現する手段が相当ではない場合」としては、以下のようなケースが考えられます。
2.カスハラの具体的な事例・種類とは?
具体的なカスハラの事例として、どのようなタイプ・類型があるのでしょうか。
(1)時間拘束型カスハラ
時間拘束型カスハラとは、1時間を超える長時間にわたり特定の顧客に対応するために従業員が拘束されたり、長時間にわたりクレーム電話をしたりするカスハラ事例です。
「要求が通るまで帰らない」、「俺が納得できる説明をしろ」などと迷惑行為を行う顧客は、この時間拘束型カスハラに該当する可能性があります。
(2)リピート型カスハラ
リピート型カスハラとは、顧客が頻繁に店舗・事務所にやってきて、そのたびにクレームを行ったり、度重なる電話や、複数部署にまたがる複数回のクレームを行ったりするカスハラ事例です。
たとえ、顧客の要求する内容がそれ自体では問題ないとしても、要求を執拗に繰り返す行為は、対応した従業員の時間を拘束して他の業務に時間を割くことができなくなるという点で、迷惑行為となるのです。
(3)暴言型・威圧型カスハラ
暴言型・威圧型カスハラとは、大声で恫喝・罵声・暴言を繰り返したり、会社の不利益を仄めかして要求を通そうとしたりするタイプのカスハラ事例です。
「死ね・バカ・クズ・無能」など従業員の人格を否定する暴言型のカスハラや、「お前じゃ話にならないから上の者を出せ」「土下座して謝罪しろ」など、無理な要求を強引に押し通そうとする威圧的なカスハラ行為が典型例です。
他にも、「ネットに動画・悪評を投稿するぞ」「俺を誰だと思っている」など権威を振りかざしたり、企業の不利益を仄めかしたりするタイプのカスハラはこの類型に該当します。
暴言型や威圧型は、顧客の言動の攻撃性が強いため、対応した従業員への精神的なダメージはかなり大きくなります。
このようなカスハラ行為を放置しておくと、従業員の職場環境が害され、離職数の増加に繋がりかねません。
(4)店舗外拘束型カスハラ
店舗外拘束型カスハラとは、クレームの詳細が分からない状態で、職場外である顧客の自宅や特定の喫茶店などに従業員・責任者を呼びつけるタイプのカスハラ行為です。
このタイプのカスハラを行う顧客は、個々の従業員を個別に攻め立てれば要望が通ると考えている可能性があるため、従業員が単独で対応することはリスクが高いでしょう。
事前に返金対応に関する金額の基準や、対応する時間・距離、購入からの期間などの制限を顧客に伝えることが重要です。
それでもしつこく特定の場所に担当者を呼び出すような顧客には毅然として拒否する対応が適切でしょう。
3.カスハラへの対策とは?
会社がカスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを構築するため、カスハラの発生を想定した以下のような事前の準備が必要となるでしょう。
(1)カスハラ対応マニュアルを整備する
会社は、カスハラ事案に対する取組み姿勢を明確にしたうえで、従業員へ周知する必要があります。
そのうえで、従業員の対策マニュアルを作成し、周知・啓発を行うことが重要となります。
対応マニュアルについては、業態・企業文化・顧客との関係などによって各社で対応方針が異なると思われますが、各社の業務内容・業務形態・対応体制・方針などの状況にあわせて、あらかじめ、対応例を整備しておくとよいでしょう。
カスハラ顧客への対応は、基本的に担当者1人に対応させず複数名で対応し、ハラスメントが深刻な場合には、現場監督者が対応するなどの配慮が大切です。
(2)カスハラの相談対応者・相談窓口を設置する
カスハラを受けた従業員が相談できるように相談対応者や相談窓口を設置することが重要です。
カスハラに該当するのかどうかの判断や、実際に発生したカスハラに対応するために、相談対応者は人事労務部や顧問弁護士などと連携できる体制を構築しておくことが重要です。
(3)社内対応ルールの従業員への周知・教育
個々の従業員がカスハラに適切に対応できるようにするためには、日頃の研修等により従業員を教育しておく必要があります。
そのためには、全従業員が、定期的に研修等を受講することが重要です。
教育内容としては、会社の基本方針やカスハラへの対応方法、手順、接し方のポイントなど実務に関する内容を盛り込むことが大切でしょう。
カスハラ研修では以下のような内容を教育する必要があります。
4.カスハラが発生した際の対処法とは?
(1)事実関係の正確な確認
まず、顧客からのクレーム等がカスハラに該当するのか否かを判断するために、事実関係の正確な把握が重要となります。
この初動を誤ってしまうと正当なクレームを主張している顧客を迷惑顧客と取り扱ってしまうことを避けるためにも、確かな証拠・証言に基づき、複数名による判断を行うようにしましょう。
(2)事案への対応
具体的なカスハラ事案への対応については、以下のようなポイントに注意しながら進める必要があります。
(3)従業員への配慮
従業員がカスハラ被害を受けた場合には、速やかに当該従業員に対する配慮の措置を行う必要があります。
従業員の安全の確保や精神面の配慮については、使用者である会社が責任をもって行う必要があります。
(4)再発防止の取組み
カスハラ問題の解決後は、再発防止に取り組まなければなりません。
社内事例ごとに検証し、マニュアルや研修などの見直し・改善を行うことが望ましいでしょう。
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