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弁護士コラム
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公開日:2024.7.26
企業法務【名古屋/知的財産】令和5年著作権法改正について
弁護士法人PROの松永圭太です。
今回は、令和5年5月17日に成立し、その一部が令和6年1月1日から既に施行されている「著作権法改正」のうち、企業活動にも影響がある「著作権等の利用に関する新たな裁定制度の創設等」「海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定の見直し」について取り上げます。
1.令和5年5月17日成立の著作権法の一部を改正する法律の概要
(1)法改正の背景
デジタル化やDXの進展によって、誰もがコンテンツを創作・公表、発信、利用することが容易になるとともに、デジタルアーカイブや動画投稿サイトにおける実況動画など、過去の作品の新たな利用ニーズも増加しています。
このような時代背景の中、安全かつ安心してコンテンツを利用するためには、著作権者等の許諾を得ることが基本となりますが、コンテンツを利用するに当たって利用の可否や著作権者の情報が明らかでなく、著作権者等と連絡が取れなかったり、権利者の特定や探索等、許諾手続に入るまでのコストが大きかったりする課題がありました。
そこで、許諾を得て利用することが困難だったり、著作物等の利用の可否の意思が不明であったりする場合において、著作物等と利用とその対価還元を円滑化するために「著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等」が行われました。
また、近年、海賊版サイトによる被害が深刻になっていますが、このような海賊版被害に関する損害賠償請求に関しては、金額が低額であり、いわゆる「侵害し得」が生じているという現状があります。
そこで、増加する著作権侵害に対し、権利者の被害回復の観点から実効的な対策を取れるよう、「海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し」が行われました。
(2)施行日
施行日は、「海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し」については令和6年1月1日から施行され、「著作権等の利用に関する新たな裁定制度の創設等」については 公布日(令和5年5月26日)から3年を超えない範囲内で政令で定める日とされています。
2.著作権等の利用に関する新たな裁定制度の創設等
(1)利用の可否に係る著作者等の意思が確認できない著作物等の利用円滑化
ア 概要
今回の法改正によって、①未管理公表著作物等であって、②著作物等の利用の可否等の意思が確認できない場合に、③文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料の額に相当する額を考慮して文化庁長官が定める額の補償金を供託することで、未管理公表著作物等を適法に利用できるようにするものです。
イ ①未管理公表著作物等について
以下の㋐~㋒のいずれにも該当する場合に、未管理公表著作物等に該当するとされています。
㋐ 公表された著作物 又は 相当期間にわたり公衆に提供・提示されている事実が明らかである著作物であること
㋑ ㋐の著作物の著作権について、著作権者管理事業者による管理が行われてないもの
㋒ 文化庁長官が定める方法により、㋐の著作物の利用の可否に係る著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報であって文化庁長官が定めるものの公表がされていないもの
㋑については、著作権者管理事業者(例えば、音楽著作物におけるJASRAC)による管理が行われていれば、著作権者に著作物の利用の可否の意思確認ができるため、裁定制度の対象外とされています。
㋒については、著作権者の公式ウェブサイトやSNSのプロフィール等において、「利用の禁止」「複製・公衆送信禁止」等の記載がされている場合や利用条件を示したガイドライン・利用規約が公開されている場合には、著作権者の著作物の利用の可否や条件が確認できるため、裁定制度の対象外とされています。
ウ ②著作物等の利用の可否等の意思が確認できない場合について
以下の㋓~㋔のいずれにも該当する場合に、文化庁長官による裁定の対象となります。
㋓ 未管理公表著作物等の利用の可否に係る著作権者の意思を確認するための措置として文化庁長官が定める措置をとったにもかかわらず、その意思の確認ができなかったこと
㋔ 著作者が未管理公表著作物等の出版その他の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと
エ ③文化庁長官の裁定と補償金の供託について
上記の㋐~㋔のいずれにも該当する場合に、文化庁長官の裁定を受けることができます。
文化庁長官の裁定を受けると、最長3年間、当該未管理公表著作物等を利用することができるようになります(更新可能)。
文化庁長官の裁定があったときは、その旨、及び、著作物等を特定するために必要な情報やその利用方法、利用期間について、インターネット等で公表されます。
また、文化庁長官の裁定によって、当該未管理公表著作物等を利用するに当たっては、文化審議会への諮問を経た上で文化庁長官が決定した補償金を供託する必要があります。
この補償金は、著作権者等からの請求によって、文化庁長官の裁定が取り消された場合に、著作権者等が受け取ることができる仕組みになっています。
(2)窓口組織(民間機関)による新たな制度等の陣の実施による手続の簡素化
迅速な著作物等利用を可能とするため、新たな裁定制度の申請受付、要件確認及び補償金の額の決定の事務の一部について、文化庁長官の登録を受けた窓口組織(民間機関)が行うことができるようになりました。
窓口組織には、
◆指定補償金管理機関(補償金等を受領・管理する)
◆登録確認機関(新たな裁定制度の申請の受付・要件確認・使用料相当額算出を行う)
があります。
窓口組織(指定補償金管理機関)が存在する場合には、補償金の決定については文化審議会への諮問は不要となり、窓口組織に補償金を支払うことで供託が不要となります。
3.海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し
(1)侵害品の譲渡等数量に基づく算定に係るライセンス料相当額の認定
法改正前の規定では、
譲渡等数量 × 著作権者等の単位数量当たりの利益額
を著作権を侵害された場合の損害賠償額とすることができる旨の規定があります。
譲渡等数量とは、侵害者により販売された海賊版の数量のことです。
著作権者等の単位数当たりの利益額とは、正規品の本来の1個当たりの利益額のことです。
ただし、著作権者等の販売等を行う能力に応じた数量を超える数量及び著作権者等が販売することができないとする事情に相当する数量がある場合には、これらの数量に応じた額は損害額から控除されることになっていました。
そのため、侵害者の手元に不当な利益が残ってしまって、「侵害し得」になっていました。
そこで、今回の法改正では、侵害者の譲渡等数量が、権利者の販売等の能力を超える場合には、その部分についてはライセンス機会喪失による逸失利益を損害賠償額として認定することが可能となりました。
※ 令和5年1月30日開催の文化審議会著作権分科会法制度小委員会報告書【概要】14ページより抜粋
(2)ライセンス料相当額の考慮要素の明確化
法改正前の規定では、著作権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(ライセンス料相当額)を著作権を侵害された場合の損害賠償額とすることができる旨の規定があります。
しかし、ライセンス料相当額を算定するに当たって、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できるかどうかは、法律上は明らかではなかったため、今回の法改正では、
ライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提に交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記することになりました。
※ 令和5年1月30日開催の文化審議会著作権分科会法制度小委員会報告書【概要】14ページより抜粋
4.おわりに
企業活動において、コンテンツ産業は関わりの深いものになってきています。
著作権の利用について著作権法の規定を正しく理解していないと著作権者から差止めや損害賠償請求を受けるリスクがあります。
もし、著作権のことでお困りの場合は、弁護士までご相談ください。
以上
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