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公開日:2024.9.20
企業法務2024年11月施行 フリーランス保護新法
弁護士法人PROの伊藤崇です。
今回は、「2024年11月施行 フリーランス保護新法」について取り上げます。
1.新法の概要~下請法との違い~
フリーランスの方が安定的に業務に従事できる環境を整備するため「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いやゆる「フリーランス保護新法」)が令和5年(2023年)4月28日に可決成立し、同年5月12日に公布されました。
同法は令和6年(2024年)11月1日に施行されます。
フリーランス保護新法と下請法は、どちらもフリーランスの労働環境を改善することを目的としていますが、保護対象や規制範囲が異なります。
下請法は、発注者との資本力の差などに起因する不公平な取引から下請事業者を保護することを目的としています。
保護対象は資本金1,000万円以下の下請事業者で、規制を受ける側は資本金1,000万円を超える事業者です。
これに対して、フリーランス保護新法は、従業員を使用せず業務を遂行するフリーランスや個人事業主を保護し、業務委託の仕事に安定して従事できる環境を整備することを目的としています。
保護対象は従業員を使用せずに業務を遂行する個人のフリーランスで、規制を受ける側はフリーランスに業務委託する事業者すべてです。
下請法と異なり資本金の制限もありません。
2.対象となる当事者・対象となる取引
フリーランス保護新法は、「特定受託事業者」に「業務委託」をする「特定業務委託事業者」に対して、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることを求めています。
同法により保護されるフリーランスを、「特定受託事業者」といいます。
「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者のことを指します(フリーランス保護新法第2条2項)。
以下では、馴染みの深い「フリーランス」という言葉を用いていきます。
「フリーランス」とは、次のいずれかに該当する方を言います。
① 個人であって、従業員を使用しないもの
② 法人であって、役員は代表者1名のみであり、かつ、従業員を使用しないもの
※「従業員」には短時間・短期間の一時的に雇用される人は含みません。
法人であったとしてもフリーランスに該当する場合があるので、個人事業主であればフリーランス、法人であればそうではない、というように個人・法人で区別するのは間違いのもとになります。
自分1人で業務を実施している方がフリーランスに該当する、とイメージいただくのが分かりやすいでしょう。
また、「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することを指します(同条3項)。
そして、特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するものを「特定業務委託事業者」といいます(同条6項)。
以下を整理すると次のようなイメージになります。
3.7つの義務項目について
フリーランス保護新法には、特定業務委託事業者に対して、以下のような義務が法定されています。
(1)書面等による取引条件の明示
フリーランスに対し業務委託をした場合は、フリーランスの給付の内容、報酬の額等を書面又は電磁的方法により明示しなければなりません(同法第3条)。
公正取引委員会規則によって、具体的に明示が義務付けられている事項としては、以下のようなものがあります。
①業務委託事業者・フリーランスの商号、氏名若しくは名称など業務委託事業者及びフリーランスを識別できるもの
②業務委託をした日
③フリーランスの給付の内容
④フリーランスの給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日(期間を定めるものにあっては、当該期間)
⑤フリーランスの給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
⑥フリーランスの給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦報酬の額及び支払期日 など
(2)報酬支払期日の設定、期日内の支払
フリーランスの給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければなりません(同法第4条1項)。
また、再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内に支払わなければなりません(同条3項)。
(3)禁止行為(1ヶ月以上継続して業務委託する場合)
特定業務委託事業者は、フリーランスに対し業務委託をした場合は、以下に掲げる行為を行うことは禁止されています(同法第5条1項)。
①フリーランスの責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
②フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
また、特定業務委託事業者は、フリーランスに対し業務委託をした場合は、以下の行為をすることによって、フリーランスの利益を不当に害する行為も禁止されています(同条第2項)。
⑥自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦フリーランスの責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
ただし、特定業務委託事業者に上記のような禁止行為が課されるのは、1か月以上継続する業務委託(契約の更新により1か月以上継続して行うことになるものを含む)に限定されています。
(4)募集情報の的確表示
特定業務委託事業者が、新聞・雑誌・その他の刊行物に掲載する広告等により募集情報を提供するときは、「虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示」をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません(同法第12条)。
(5)育児介護等と業務の両立に対する配慮(6ヶ月以上継続して業務委託する場合)
特定業務委託事業者は、「継続的業務委託」の相手方であるフリーランスからの申出に応じて、当該フリーランスが妊娠、出産若しくは育児又は介護と両立しつつ当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、育児介護等の状況に応じた「必要な配慮」をしなければなりません(同法第13条)。
「継続的業務委託」にあたるためには、6か月以上の期間行われる業務委託(契約の更新により6か月以上継続して行うことになるものを含む)である必要があります。
(6)ハラスメント対策に係る体制整備
フリーランスに対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければなりません(同法第14条)。
具体的には、次に掲げるような言動によって、以下のような状況に至らないように体制を整備することが求められています。
◆性的な言動に対するフリーランスの対応によりその者に係る業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動によりフリーランスの就業環境を害すること
◆フリーランスの妊娠又は出産に関する事由に関する言動によりその者の就業環境を害すること
◆取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものによりフリーランスの就業環境を害すること
(7)中途解除等の事前予告・理由開示(6ヶ月以上継続して業務委託する場合)
特定業務委託事業者は、継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までにフリーランスに対し予告しなければなりません(同法第16条1項)。
また、フリーランスが、解除予告がされた日から解除日までの間に、契約の解除理由の開示を求めた場合には、特定業務委託事業者は、フリーランスに対して、遅滞なく解除理由を開示しなければなりません(同条第2項)。
ただし、解除の事前予告や理由開示の義務が課されるのは、6か月以上の期間行われる業務委託(契約の更新により6か月以上継続して行うことになるものを含む)である必要があります。
4.新法に対応しなかった場合のペナルティ
公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができます(同法第8条、9条、11条、18条~20条、22条)。
特定業務委託事業者等が命令に違反したり、検査を拒否したりした場合には、「50万円以下の罰金」が科されることになります(同法第24条)。
また、特定業務委託事業者等が法人の場合には、法令に違反した代表者や代理人・従業員など行為者のみならず、その法人も併せて同様の刑罰が科されることになります(同法第25条)。
このような規定を両罰規定といいます。
以上
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