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公開日:2021.7.9
企業法務プロバイダ責任制限法の改正内容について
弁護士法人PROの伊藤崇です。
2021年4月21日、プロバイダ責任制限法の改正法が成立しました。改正法は成立日の1年6ヶ月以内に施行される予定です。
改正プロバイダ責任制限法では、ネット上で権利侵害を受けたときの投稿者特定が容易になるなどの変更が行われました。
そこで今回は、プロバイダ責任制限法の改正内容について取り上げています。
1.従来のプロバイダ責任制限法の問題点
プロバイダ責任制限法は、インターネットサービスを提供するプロバイダやサイト運営事業者などの責任を制限し、ネット投稿によって権利侵害を受けた被害者を救済するための手続きを定める法律です。
正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」ですが、一般ではわかりやすく「プロバイダ責任制限法」と呼ばれます。
ネット上で誹謗中傷やプライバシー権侵害などの被害を受けた被害者がネット関連事業者(プロバイダなど)へ情報の消去(送信防止措置)や投稿者情報の開示(発信者情報開示)を求める権利を認めています。
改正前のプロバイダ責任制限法には以下のような問題がありました。
⑴ 発信者情報開示の手続きが煩雑で長期間がかかる
ネット上で名誉毀損などの権利侵害を受けた被害者は、サイト運営会社やプロバイダへ投稿者情報の開示を請求できます。
しかし従来の発信者情報開示請求は非常に手間のかかる手続きでした。まずはサイト管理者へIPアドレスの開示を請求し、次に判明したプロバイダへ投稿者の個人情報を開示させなければなりません。
サイト管理者やプロバイダが任意に開示に応じなければ、仮処分と訴訟の2度に及ぶ裁判手続きが必要となり膨大な手間と費用、時間がかかっていたのです。
権利侵害を受けてから投稿者情報が開示されるまでに1年以上かかるケースも少なくありませんでした。
⑵ ログが消えてしまう
発信者情報開示請求に非常に時間がかかるため、その間に「ログ」が消えてしまう問題もありました。ログには保存期間があり、3~6ヶ月程度で消去されてしまうからです。
ログを保存するにはログ保存の仮処分が必要で、手続きをさらに複雑にしていました。
⑶ ログイン型投稿に対処できない
現行のプロバイダ責任制限法は投稿時に「IPアドレス」が記録されることを前提にしています。しかしログイン型投稿の場合にはサイト管理者も投稿者のIPアドレスを把握できません。
現行のプロバイダ責任法ではログイン型投稿によって権利侵害を受けたケースに対応できない問題がありました。
2.改正プロバイダ責任制限法における改正内容
改正プロバイダ責任制限法では、現行法に以下のような改正点が加えられています。
⑴ 発信者情報開示命令、提供命令による手続きの一本化
改正法では「発信者情報開示命令」とその手続内における「提供命令」の制度が新設されました(8条、15条)。
発信者情報開示命令とは、これまで2段階に分かれていた投稿者情報の開示手続きを一本化する手続きです。仮処分や訴訟とは違い「非訟手続」に分類されます。
発信者情報開示命令を利用する手順
1つの裁判所で連続的にサイト管理者やプロバイダへ発信者情報開示請求を進められるので、これまでより手続きが簡易になり、申立人の負担が大きく軽減されることが期待されています。
なお発信者情報開示命令に不服がある場合、サイト管理者やプロバイダは1ヶ月以内に異議の訴えを提起できます。
⑵ 手続きの簡易迅速化
非訟手続としての発信者情報開示命令を利用すると、従来のように仮処分や訴訟を行う必要がないため、情報開示を受けられるまでの期間が大きく短縮されます。
具体的な期間は運用が開始されない限り明確になりませんが、これまで半年かかっていたものが3ヶ月程度に短縮される可能性は十分にあるでしょう。
また新法では副本の送達に代わって「申立書の写しの送付」という制度が導入されます。
これまで外国法人がサイトを運営している場合、外国への送達が必要で多大な時間を要していました。今後は副本送達が不要となって簡易な申立書送付によって対応できるため、手続きがスピーディになることを期待できます。
現行法では1年以上かかるケースもありましたが、半年程度でも情報開示を受けられる可能性があります。
⑶ 消去禁止命令の新設
従来のプロバイダ責任制限法では、発信者情報(ログ)の消去を防止するために「ログ保存の仮処分」を申し立てなければなりませんでした。
改正法では「発信者情報開示命令」の申立てがあったとき、裁判所はインターネット事業者に対して手続きが終了するまでログ消去を禁止する命令を発令できる制度が新設されています(16条1項)。
つまりネット投稿で被害を受けた場合、発信者情報開示命令を申し立てたうえで「消去禁止命令」の申立をすれば、1つの手続きによってログ消去も防止できるのです。
なおプロバイダなどが消去禁止命令に承服できない場合、即時抗告が可能となっています。
⑷ ログイン型投稿への対応
従来のプロバイダ責任制限法はIPアドレスを前提としており、ログイン型投稿へ対応できませんでした。
改正法では「侵害関連通信」や「特定発信者情報」などの新たな概念が追加され、ログイン時やログアウト時の情報開示を請求できるように変更されています。
⑸ 発信者への意見聴取方法の変更
サイト管理者やプロバイダが発信者情報開示を請求されたら、発信者本人に「開示請求に応じてもよいか」意見聴取しなければなりません。
現行法でも本人の意見照会に関する規定がありますが、現行法では投稿者が「応じない」と回答するときに特段の理由づけは不要でした。
改正法では「開示に応じない」との回答を受ける場合、プロバイダらは「理由」についても意見聴取しなければなりません。
投稿者が開示を拒否しにくくなり、任意開示を受けられる可能性が高まることを期待できます。
⑹ 発信者情報の拡大
改正法では、開示される「発信者情報」の範囲も拡大されています。従来でも認められていた氏名や住所等の情報に加えて「その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」が開示対象となりました。
たとえばサイト管理者がSNSでのログイン時情報しか把握していないケースなどにおいても開示を受けやすくなると考えられます。
3.改正法の施行日
改正法が成立したのは2021年4月21日であり、成立後1年6ヶ月以内に施行される予定です。
具体的な時期については2022年9月か10月頃になる見込みです。
ただし参議院の総務委員会において「新法施行前に生じた権利侵害についても、新法による開示命令の申立てを行うことが可能」と述べられたことには注目すべきです。
新法が施行されると、それ以前の権利侵害についても今回ご紹介した発信者情報開示命令や提供命令、消去禁止命令の非訟手続を利用できる可能性が高いといえます。
以上
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