弁護士法人PRO | 人事 労務問題 中小企業法務 顧問弁護士 愛知 名古屋 | 伊藤 法律事務所
弁護士コラム
Column
Column
公開日:2021.7.30
人事・労務リストラ(整理解雇)できる条件と進め方
弁護士法人PROの伊藤崇です。
企業経営をしていると、景気動向や業界全体の斜陽傾向などにより、どうしても従業員を維持できなくなってしまう場面があるものです。
そんなときには、やむなく整理解雇の検討・実施をしないといけない局面も出てきます。
ただし、整理解雇が有効になるには法的な要件を満たす必要があります。
今回はリストラ(整理解雇)が有効となるための要件と適切な進め方をご説明します。
トラブルを避けて安全に整理解雇を行うため、ぜひ参考にしてください。
1.整理解雇と普通解雇の違い
整理解雇とは、企業の経営状態が悪化したときに企業が存続するためにやむを得ず実施する一斉解雇です。特段企業経営が悪化していない通常時には実施できません。
普通解雇は通常時に個別の労働者に対して行う解雇です。問題行動の多い社員、重大な経歴詐称があった場合などに適用できます。
普通解雇するには、「客観的合理的な解雇理由」と「社会的相当性」という厳しい要件が必要で、簡単には有効になりません。
また整理解雇であっても企業の都合で無秩序に実施できるわけではありません。
ただ「企業の存続に不可欠」であれば、通常時の普通解雇が認められない場合でも解雇が有効となる可能性があります。
2.整理解雇の4要件
⑴ 人員削減の必要性
企業が存続するために人員削減が必須でないと、整理解雇は認められません。
たとえば以下のような状況では人員削減が不要と判断される可能性があります。
・新規採用者の募集を継続している
・売上げが横ばいあるいは緩やかに下降しており、従業員を解雇しなくても企業を維持できる
・資産売却や不採算部門の切り捨てなどの他の方法で対処できる可能性が高い
⑵ 解雇回避努力
会社が解雇を回避するための努力したことが必要とされます。
・配置転換、出向や転籍
・残業の禁止
・一時休業の実施
・希望退職者の募集
・役員報酬削減
・非正規労働者の雇止め・解雇
上記のような工夫を行って、手を尽くしたうえでなお整理解雇が必要であれば、計画を進めましょう。
⑶ 人選の合理性
整理解雇をするためには、対象者を選定しなければなりません。このとき合理的な基準によらないと整理解雇が無効になる可能性が高くなります。
たとえば以下のような要素を考慮して選ぶとよいでしょう。
・勤続年数
・年齢
・これまでの勤務成績や会社への貢献度
・就業形態
・業務内容
・労働者に扶養されている家族がいるかどうか
「責任感が強い」「協調性がある」などの抽象的な基準や「性別」などの差別的な基準にもとづいて恣意的な人選をすると、整理解雇が無効になる可能性があるので注意してください。
⑷ 適正手続き
整理解雇を有効なものとするには、労働者側へ誠実に対応しなければなりません。労働組合や労働者の代表者と協議して、なるべく整理解雇への同意を得るよう努力しましょう。
必ずしも同意は必須ではありませんが、きちんと説明を尽くして誠意を見せたことが後に重要となってきます。
3.整理解雇の進め方
整理解雇の手順をみてみましょう。
⑴ 希望退職者を募る
整理解雇を行う前に、まずは希望退職者を募るべきです。そうしないと解雇回避努力をしていないと判断される可能性があります。
企業の存続に充分な人数の希望退職者が集まったら整理解雇に進む必要はありません。
⑵ 整理解雇の計画を立てる
どうしても整理解雇せざるを得ない状況であれば、実施前に社内において以下のようなことを取り決めて計画を立てましょう。
・対象者の人選基準
・解雇前の労働者側との協議方法
・整理解雇を実行する時期
・整理解雇の際の退職金やその他の金銭の取扱いについて
⑶ 労働者側と協議する
整理解雇が有効となるには、労働者側との誠実な協議が必要です。
労働組合や労働者の代表者へ整理解雇の必要性を示し、対象者の選定方法や解雇を最小限にとどめることなどを説明して理解を求めましょう。
⑷ 解雇予告を行う
整理解雇する場合でも解雇予告が必要です。
30日前に解雇予告できなかった場合には30日分以上の解雇予告手当を払わねばなりません。できる限り30日以上の余裕をもって解雇予告しましょう。
⑸ 解雇通知を送る
解雇予告を行ったら、解雇通知を送りましょう。
これにより整理解雇の効果が発生します。
⑹ 解雇後の事務手続き
整理解雇を実施したら、退職に伴う諸手続が必要です。
・ハローワークへ雇用保険被保険者資格喪失届を提出する
・労働者へ離職票を交付する
・年金事務所へ厚生年金・健康保険被保険者資格喪失届を提出する
・労働者へ年金手帳を返却する
労働者から希望があれば、解雇理由証明書も発行しなければなりません(労働基準法22条)。
4.整理解雇実施時の注意点
⑴ 労働者側との協議時期
整理解雇するときには、労働者と協議しなければなりません。
まだ計画が具体的になっていない段階で不確実な情報を提供すると、従業員たちにおいて「整理解雇されるらしい」という不安をかきたててしまうおそれがあります。
しっかり計画を立てて明確な説明をできる状態になってから協議を開始しましょう。
⑵ 経営資料の保管
整理解雇が有効となるには人員削減の必要性等の要件を満たさねばなりません。これを証明するには、財務諸表などの経営資料が必要です。
きちんと保管しておかないと後で裁判が起こって整理解雇の有効性が問題になったときに敗訴する可能性もあるので、必ず適正な方法で管理しましょう。
また不採算部門の売却や希望退職者の募集などの解雇回避努力のための行動をとった場合、その内容や経緯を示す資料を作成・保管しましょう。
整理解雇を有効な方法で実施するには専門家による助言やサポートが有用です。迷われているなら一度弁護士までご相談ください。
以上
オンライン会議・
チャット相談について
まずはお気軽に、お電話またはフォームよりお問い合わせください。