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公開日:2021.8.13
人事・労務長時間労働による過労死等の認定基準について
弁護士法人PROの伊藤崇です。
長時間労働は脳疾患(くも膜下出血・脳梗塞等)や心疾患(心筋梗塞・狭心症等)を引き起こす原因の一つであり,最悪の場合には死に至ります。いわゆる過労死です。
長時間労働を原因とする脳・心臓疾患の労災認定については厚生労働省策定の認定基準【脳・心臓疾患の労災認定基準】があり,労災認定実務はこの認定基準をベースに実施されています。
本年7月,厚生労働省は【脳・心臓疾患の労災認定基準】を20年ぶりに改正する見通しであることを発表しました。
そこで今回は現行の【脳・心臓疾患の労災認定基準】の中から労務管理に際して最も生じやすい長時間労働に関係する部分を取り上げるとともに改正内容(予定)についても取り上げています。
1.長時間労働による脳・心臓疾患の労災認定基準(現行)
現在の認定基準では労災の対象となる疾病(「対象疾病」といいます)が以下のとおりとされています。
⑴ 脳血管疾患
ア 脳内出血(脳出血)
イ くも膜下出血
ウ 脳梗塞
エ 高血圧性脳症
⑵ 虚血性心疾患等
ア 心筋梗塞
イ 狭心症
ウ 心停止(心臓性突然死を含む)
エ 解離性大動脈瘤
そして,上記対象疾病が,発症前の長期間にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したことに起因して発症した場合には労災認定がなされます。
難しい表現になっていますが平たく言うと長期間の過重業務に従事したこと(長時間労働に従事したこと)によって脳・心臓疾患が生じたと考えられる場合には労災認定がなされる,ということです。(長時間労働以外にも異常な出来事に遭遇した場合や短期間の過重業務に就労した場合など労災認定がなされる場合がありますが,本稿では割愛しています。)
労災認定がなされる,ということは,過労の結果生じた健康被害について会社の責任が認定される可能性が極めて高い,ということを意味します。
健康被害にあった従業員やそのご遺族(過労死の場合)が会社に損害賠償を求めてきた場合には原則として会社はこれに応じなければならず,特に過労死の場合には多額の金銭賠償が必要になることがほとんどです。
労災認定がなされる長期間の過重業務については,現在,以下のような基準が設けられています。
④ 発症前1ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって,1ヶ月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合には,業務と対象疾病の発症との関連性が弱い(=原則として労災認定はされない)
報道等で過労死基準として紹介されることがある,80時間,という時間数は上記②の基準に基づくものです。
2.長時間労働による脳・心臓疾患の労災認定基準(改正予定)
まず,対象疾病として「重篤な心不全」が追加される予定です。
次に,長時間の過重業務の基準としては前項の①~④の基準が維持されますが,現行基準に加えて新たに以下の基準が追加になる予定です。
今回の改正により追加予定の基準は現行基準の③を整理・明確化したものと位置付けることができます。
3.労務管理に与える影響
今回の認定基準の改正により,長時間労働のケースについて労災認定がなされる区分が1つ追加されることになります。
従って,長時間労働による健康被害について労災認定がなされるケースが増えることが予想されます。
今後,企業の労務管理においては,単に従業員ごとの時間外労働時間数を把握するだけでは従業員の健康(安全)配慮としては不十分ということになります。
時間外労働時間数の把握は引き続き必要かつ重要であることに変わりはありませんが,それに加えて,ⅰ休日の取得状況(連続勤務の日数)やⅱ前日の退勤時間と翌日の出勤時間の間の時間(勤務間インターバル時間の長短),ⅲ従事する業務内容等についても把握管理し従業員が過重労働に陥っていないかを配慮していく必要があります。
企業活動において労務管理の重要性はさらに増していくことになり,その内容もますます複雑化していきます。
以上
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