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公開日:2025.2.7
企業法務株主総会の議事運営
弁護士法人PROの花井宏和です。
株主総会の議事運営は、 決議取消事由とならないように瑕疵なく適法に行う必要があります。
また、議事運営は、充実した審議を行いつつ適正な時間で終了するようにコントロールする必要があります。
このコラムでは、株主総会の議事運営についてご説明します。
1.議長の権限
株主総会の議事の進行は議長が行います。
株主総会の議長に誰がなるかは、会社法に定めがなく、定款がある場合には定款によります。
多くの株式会社では、社長を議長とする旨の定款規定を設けています。
定款に議長についての定めがない場合には、
会議体の一般原則により株主総会の決議によって議長を定めます。
議長は、株主総会の秩序を維持し、議事を整理する権限を有します(法315条1項)。
議長の命令に従わない者や総会の秩序を乱す者がいる場合は、これらの者を退場させることもできます(法315条2項)。
2.株主総会の議事運営の流れ
議事運営の方式は、個別審議・上程方式と一括審議・上程方式に大別されます。
個別審議・上程方式は、議案を1つずつ審議・上程し、その都度審議して採決する方式です。
一括審議・上程方式は、全議案を一括して上程し、全議案をまとめて審議のうえ採決する方式です。
一括審議・上程方式は、株主からの質問についてまとめて一度の機会に受け付けることが可能であることから、 議事進行がしやすいというメリットがあります。
そのため、総会を適正時間内に終えるようにコントロールしやすいです。
特に、株主からの質問が多数予想される場合には、一括審議・上程方式を採用するメリットがあります。
個別審議・上程方式と一括審議・上程方式のいずれを採るかは、議事運営権を持つ議長の裁量です。
そのため、審議・上程方式について議場に諮る必要はなく、 開会宣言直後に議長が一括審議・上程方式を採る旨宣言すれば足ります。
一括審議・上程方式を採用した場合の、議事運営の一般的な流れは以下のとおりです。
3.シナリオの策定と質疑応答
株主総会の運営は、報告事項の報告、審議・上程・説明、質疑応答、採決等の議事を欠落させることなく、また、後に決議取消事由にならないように適切に行う必要があります。
戦略的なシナリオの確定が株主総会運営の鍵となります。
そのためには、事前に戦略的なシナリオを策定し、当日はできる限りシナリオに沿って議事を進行させていく必要があります。
4.報告事項
取締役は、事業報告を定時株主総会に提出・提供し、その内容を報告しなければなりません。
この報告は、プロジェクター等を使用して詳細に事業内容を説明する場合もあれば、 「お手元の資料記載のとおりです」と述べるだけでも可とされており、事業報告の重要項目のみを端的に説明して終了することも可能です。
個別審議・上程方式の場合は、事業報告が終了した時点で、株主との質疑応答に入ります。
これに対して、一括審議・上程方式の場合は、全ての議案の審議・上程・質問が終了した後に、報告事項及び全議案事項についての質問を一括して受け付けることになります。
5.議案の審議・上程・説明
株主総会に提案した議案について、
取締役は、株主からの個別の質問がなくても、その提案内容や提案理由を説明しなければなりません。
そのため、議長は、議案の内容や提案理由を説明します。
もっとも、株主総会の招集通知にこれらが記載されている場合は、招集通知に記載のとおりである旨述べれば足ります。
なお、株主提案に係る議案の内容や提案理由についての説明義務までは負いません。
総会の運営が決議取消にならないために
注意すべき点は2つあります。
1つ目は、決議の方法が法令・定款に違反しないことです。
次に、決議の方法が著しく不公正でないこと、すなわち議事運営が不公正でないことです。
(1)決議の方法が法令・定款に違反しないこと
株主総会運営について、決議の方法が法令に違反する場合の多くは説明義務違反です。
取締役等は、株主総会において株主から特定の事項について説明を求められたときは、当該事項について必要な説明をしなければなりません。
説明義務の対象は、報告事項と決議事項に分けられます。
報告事項については、株主が報告事項の内容を理解するのに必要な程度の説明をする必要があります。
決議事項については、平均な株主が、議題について合理的理解および判断をするために客観的に必要と認められる程度の説明を行う必要があります。
株主総会開催前に多数の質問事項を受けていた場合、その質問事項を整理して一括回答をしても説明義務違反とはなりません。
一括回答方式は、議長の議事整理権限(法315条)に基づく会社の自治的議事運営方法として認められています。
これに加えて、議場で株主からの質問が予想される事項については、あらかじめ一括回答手続内にて説明をし、その後一括説明と重複せずかつ説明義務のある質問事項についてのみ説明するということが考えられます。
例外的な措置という位置づけではありますが、多数の質問が予想される場合には、このような一括回答方式にて議事運営をすることも検討に値します。
一括回答は、事前質問の有無、質問株主の出席状況を問いません。
そのため、あらかじめ想定される質問事項について、事前質問がなくとも一括回答手続内にて説明することが可能です。
また、事前質問があり、質問株主が当日に欠席した場合であっても一括回答手続内にて説明が可能です。
(2)決議の方法(手続)に著しく不公正な点がないようにすること
質問の機会の付与
議事運営の公正が保たれるように、株主に発言の機会を付与する必要があります。
例えば、株主に対して一括回答をして十分な説明義務を果たしたとしても、 株主から発言の希望がある場合には発言の機会を付与し、個別質疑を受ける時間を設ける必要があります。
一括審議の際に、自由な質疑応答の時間を設けることで、議事運営を公平なものとするとよいでしょう。
もっとも、充実した審理を行いつつも適正な時間内で株主総会が終了するように、質疑応答時間は合理的な時間内にしましょう。
(3)動議に対する対応
議案の修正動議
修正動議提出権を不当に制限すると、株主総会の決議の方法が著しき不公正であるとして、決議取消事由に当たる場合があります。
動議は、修正動議(議案の修正を求める提案)と手続動議(株主総会の議事進行や運営に関する動議)の2つがあります。
修正動議の提出例としては、取締役A氏を選任するとの提出議案に対して、取締役B氏を選任するとの議案を提出すること等が挙げられます。
修正動議は、それが修正動議として許される範囲内のものである限り、必ず議場に諮る必要があります。
修正動議が提出された場合、修正動議と会社提案議案(原案)を一括して審議すれば足ります。
また、原案を先に採決することも適法です。
原案が先に採決された場合、実際上修正動議について採決する必要はなくなります。
手続動議は、必ず議場に図る必要のあるものもあれば、議長が議事整理権に基づきその採決を判断し、議場に図る必要のないものもあります。
◆議場に図る必要のあるもの
総会提出資料等調査者選任、延期・続行、会計監査人の出席要求、議長不信任決議に関する動議については必ず議場に諮る必要があります。
◆議事整理権に基づき採否を判断することができるもの(議場に諮る必要のないもの)
審議方式、採決方式に関する動議や休憩を求める動議に関しては、議長がその議事整理権に基づきその採否を判断することができ、議場に諮る必要はありません。
株主からの質問が尽きた場合は、質疑応答を終了し、採決に移ることになります。
また、株主が質問をしようとしている状況下であっても、説明義務の程度は、平均的な株主が、 議題について合理的理解および判断をするために客観的に必要と認められる程度の説明で足りるため、かかる程度の説明を果たしたといえる状況にあれば、そこで質疑応答の時間を打ち切ることが可能です。
もっとも、後に決議取消となる余地を残さないように、一方的に質疑応答を打ち切るのではなく、議事進行上の提案という形で総会に諮り、株主総会の賛意を得てから質疑応答を打ち切るのがよいでしょう。
採決方法について、 特段の定めはありません。
そのため、議長は議事整理権に基づき、採決方法を決定することができます。
投票用紙を用いた投票の他、拍手、挙手、起立など様々な方法があります。
確実に多数の賛意が得られるか、それとも賛否が拮抗するかどうか等に応じて使い分けるとよいでしょう。
一括審議・上程方式の場合は、 全ての報告事項、議案についての質疑応答が終了した後に全議案について、順次採決していきます。
これに対して、個別審議・上程方式の場合は、 各議案についての質疑応答の終了後に、都度、採決をしていきます。
議案の修正動議のある場合は、原案を先に採決し、原案が先に可決された場合は、修正動議を否決されたものと扱うことが可能です。
株主総会の目的事項が全て終了したら議長は閉会宣言をします。
閉会宣言により、株主総会は終了します。
今回は、株主総会の議事運営についてご説明しました。
株主総会の運営等についてお困りの場合には弊所にお気軽にご相談ください。
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