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公開日:2025.4.7
企業法務請負契約書の審査ポイント
弁護士法人PROの弁護士の沢津橋信二です。
請負契約は、建設業務、システム開発、製造業務など、多くの業界で利用される重要な契約形態です。
しかし、契約内容が不明確であったり、一方に過度な負担を強いる内容になっていると、トラブルの原因となります。
以下では、一般的な請負契約書の審査におけるポイントを体系的に解説した後、建設請負契約、システム開発請負契約、製造請負契約の3つを具体的に説明したいと思います。
1.請負契約の基本
請負契約とは、ある仕事を完成させることを目的とし、その成果物に対して報酬を受け取る契約形態です。
民法第632条では「請負は、当事者の一方(請負人)が仕事を完成することを約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約すること」で成立すると定められています。
例えば、建設工事、システム開発、特注品の製造など、さまざまな分野で請負契約が活用されています。
これらの契約では、注文者が求める成果物が明確に定義され、請負人はそれを完成させる義務を負います。
この点で、委任契約や業務委託契約とは異なります。
委任契約は特定の業務を遂行すること自体が目的であり、成果物の完成を保証するものではありません。
一方、請負契約では、成果物が完成しなければ報酬を受け取ることができません。
2.契約書の審査ポイント
請負契約書を審査する際には、いくつかの重要なポイントを確認する必要があります。
(1)契約当事者の特定
まず、契約当事者が正確に記載されているかを確認しましょう。
法人契約であれば、正式な企業名、代表者名、住所が間違いなく記載されているかをチェックします。
特に、権限のない担当者が契約を締結してしまうと、契約自体が無効になる可能性があるため注意が必要です。
(2)契約目的と内容の特定
次に、契約の目的や範囲が明確かどうかを確認します。
例えば、「建設工事一式」や「システム開発業務全般」といった曖昧な表現は、後のトラブルの元になります。
「思っていたものと違う」と言われても、契約書や仕様書に明確な基準が記載されていなければ、請負人が不利な立場に立たされる可能性があります。
したがって、業務内容が具体的に記載されているか、仕様書や設計図と整合性が取れているかを必ずチェックしましょう。
(3)報酬の特定
報酬に関する条項も重要なポイントです。
請負契約では、通常、仕事が完成して初めて報酬が支払われますが、中間払いの規定がある場合もあります。
特に、支払い時期、支払い方法、遅延利息の有無など、具体的な条件が明記されているか確認しましょう。
また、契約で支払期限が定められていない場合、発注者が意図的に支払いを遅らせるケースがあります。
こうした事態を防ぐためには、「納品後〇日以内に支払う」など、明確な期限を定めることが重要です。
(4)契約不適合責について
契約不適合責任についても見落としてはいけません。
請負人が種類又は品質に関して契約内容と異なるものを納品したことが後に発覚した場合、どの程度の期間、どのような対応をする義務があるのかを契約書に明記することが重要です。
修補義務の範囲や免責事項があるかどうかも確認しましょう。
修補義務の範囲については、具体的には下記4つが考えられます。
ただ、請負契約特有の注意点として、
「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合」(民法636条)である場合には、注文者は履行の追完請求、報酬の減額請求、損害賠償請求、契約解除ができないので注意が必要です。
ただし、「請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは」(民法636条但書)依然として上記4つの請求は可能です。
なお、これら4つの請求をするには、注文者は契約不適合を知った時から1年以内に請負人に通知することが必要です(民法637条)。
しかし、1年を過ぎてしまった場合でも、請負人が契約不適合の事実を知っていたか、又は、重大な過失によって知らなかった場合には依然として上記4つの請求は可能です(民法637条2項)。
3.建設請負契約の審査ポイント
建物を建てるとき、道路を造るとき、私たちは「契約」という土台の上で仕事を進めていきます。
契約がしっかりしていなければ、工事の途中でトラブルが発生したり、予期せぬ損失を被ったりすることになります。
(1)工事内容の特定
工事内容は具体的に記載されているかを確認しましょう。
契約書には、 どのような工事を行うのかを正確に記載する必要があります。
繰り返しにはなりますが「建設工事一式」「一般的な施工業務」などの曖昧な表現では、後のトラブルの原因になります。
建設工事の内容は材料・工法など複雑多岐にわたり、その分不明確であると紛争も頻発することになってしまいます。
そこで、 見積書、設計図、仕様書、現場説明書、打合せ議事録などを契約書に添付し、契約目的である建設物の詳細を明確に特定しましょう。
(2)工期の設定
工期の設定は適切か確認しましょう。
工事がスケジュールどおりに進まないと、発注者・請負人の双方にとって大きな問題となります。
工事の開始日と完了日が明確に定められているかも確認しましょう。
そして、天候や災害などの不可抗力による工期延長の条件が明記されているかも確認しましょう。
また、
遅延した場合の違約金規定は適切かも重要なチェックポイントです。
建設請負契約では工期が長くなり、屋外で工事が行われることも多いので、その分天候や災害等に影響を受けやすいといえます。
従って不可抗力の工期延長の条件や、遅延した場合の違約金規定は重要と言えます。
これらをチェックすることで、不測の事態に対応できる契約を作ることができます。
(3)請負代金の支払
建設請負契約は、工事内容が大規模になりやすく、その履行に相当の費用を要することから、建設請負契約の代金支払方法は、着工時・棚上げ時・完成引渡し時と仕事の進行に対応した分割払いや、一定時期ごとの分割払いをする旨の特約がある場合が多いことが特徴です。
したがって、これらの点が不明確だと、請負人は、注文者から分割した請負代金を受け取れないばかりか、次のステージの工事に入ることができないといった問題も発生しますので、特に注意が必要です。
また、工事途中で注文者が「やっぱりここを変更したい」と言い出すケースは少なくありません。
こうした仕様変更が口頭で行われると、追加費用の支払いを巡って揉める原因になります。
したがって、契約書に「仕様変更は書面で行い、追加費用についてその都度合意すること」と明記しておくが重要です。
他にも、注文者が「ちょっと待ってほしい」と言いながら支払いを先延ばしにすることもあります。
支払いが滞ると、施工業者は資金繰りが悪化し、工事が中断するリスクもあります。
したがって、契約書に「支払期限を過ぎた場合は遅延利息を発生させる」と明記することも重要です。
(4)特別法との関係
建設工事請負契約については、特別法として、建設業法があります。
契約審査において重要な条文として、建設業法19条があります。
建設業法19条は「建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従って、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。」と定め、書面に定めなければない事項には、工事内容や請負代金の額、工事着手の時期・工事完成の時期などを含めた16個が列挙されていますので、その確認を怠ることはできません。
今回は、一般的な請負契約書の審査におけるポイントと建設請負契約について解説しました。
次回はシステム開発請負契約、製造請負契約の2つを具体的に説明したいと思います。
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