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公開日:2025.5.9
企業法務請負契約書の審査ポイント(2)
弁護士法人PROの弁護士の沢津橋信二です。
前回では、一般的な請負契約書の審査におけるポイントと建設請負契約について解説しました。
今回はシステム開発請負契約に絞って具体的に説明したいと思います。
現代のビジネスにおいて、システム開発は不可欠な存在となっています。
しかし、システム開発プロジェクトは複雑であり、仕様の変更や納期遅延など、様々なトラブルが発生しがちです。
これらの問題を未然に防ぎ、円滑な開発を進めるためには、しっかりとした契約書を結ぶことが必要です。
本コラムでは、システム開発請負契約の基本から、契約を締結する際に確認すべきポイント、そしてトラブルを未然に防ぐための実務的な対策までを解説します。
契約書を適切に整備し、プロジェクト成功へと導くための知識を身につけましょう。
1.システム開発請負契約とは
システム開発請負契約とは、発注者がシステム開発業務を請負人(開発会社)に委託し、完成をもって報酬を支払う契約です。
民法第632条の定める「請負契約」に基づくため、請負人は成果物を完成させる義務を負います。
この契約形態の特徴は、「成果物の完成」が報酬支払いの前提となることです。
つまり、開発の途中段階で工数を費やしても、完成しなければ報酬が支払われません。
そのため、
契約時点で成果物の定義を明確にしておくことが重要です。
また、システム開発の世界では、「瑕疵(バグ)」の問題がつきものです。
契約書に契約不適合責任をどのように定めるかによって、開発会社が負うリスクは大きく変わるので注意が必要です。
2.契約書を審査するときのポイント
(1)成果物
成果物の仕様の明確性に注意を払いましょう。
システム開発では、成果物の仕様が曖昧なまま契約を結ぶと、完成後に「発注者の期待と異なる」といった問題が発生します。
また、開発途中で発注者が「やっぱりこの機能を追加してほしい」と言い出すことはよくあります。
しかし、仕様変更が適切に規定されていないと開発コストが増大し、納期にも影響を与えます。
仕様を具体的に定めるために、以下の点をチェックしましょう。
成果物の仕様を明確にするために仕様書や要件定義書を契約書に添付し、不明確な点を極力なくすことが重要です。
(2)開発スケジュールと納期
開発スケジュールと納期の設定が適切かについても注意を払いましょう。
開発の遅延は、
発注者・請負人双方に大きな影響を与えます。
スケジュールに関する契約条項には、以下のようなポイントを含めるべきです。
特に、システム開発の場合の特徴として、コンピューターを使うことになるので、パソコン機器の故障やウィルスで作業が中断することも多くあります。
深刻な場合は、それまでのデータが消えてしまう事態も起こらないとも限りません。
受注者側は納期の遅れによるペナルティが過度に厳しくならないよう、契約書の内容を慎重に検討する必要があります。
(3)支払い条件
支払い条件は適切かについても注意を払いましょう。
システム開発請負契約では、「一括払い」ではなく、「出来高払い(マイルストーン払い)」を採用するケースが多いです。
また、注文者が「予算の都合で少し待ってほしい」と言いながら支払いを遅らせるケースもあります。
これが続くと、開発会社の資金繰りに悪影響を与えるので注意が必要です。
支払い条件を確認する際は、以下の点に注意しましょう。
特に、検収完了後の支払いが遅れるリスクを回避するため、支払期限を明確に設定することが重要です。
また、システム納品後、発注者が「動作がイメージと違う」として検収を拒否することがあり、これが長引くと、開発会社は報酬を受け取れないリスクがあるので、契約書で「
検収基準を明確に定め、一定期間内に異議がなければ検収完了とする」と明記する必要もあります。
(4)契約不適合責任
契約不適合責任についても注意を払いましょう。
システム開発では、「バグがあるのは当然」と考えられがちですが、契約上、瑕疵の範囲を明確にしておかないと、開発会社が想定外の修正対応を求められることがあります。
修補義務の範囲は、具体的には4つが考えられます。
ただ、請負契約特有の注意点として、「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合」(民法636条)である場合には、注文者は履行の追完請求、報酬の減額請求、損害賠償請求、契約解除ができないので注意が必要です。
ただし、「請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは」(民法636条但書)依然として上記4つの請求は可能です。
なお、これら4つの請求をするには、注文者は契約不適合を知った時から1年以内に請負人に通知することが必要です(民法637条)。
しかし、1年を過ぎてしまった場合でも、請負人が契約不適合の事実を知っていたか、又は、重大な過失によって知らなかった場合には依然として上記4つの請求は可能です(民法637条2項)。
しかしながら、法律上の原則は上記のとおりですが、契約書で請求可能期間が修正されていることの方がむしろ通常なので,請求可能期間については特に注意を払いましょう。
今回は、システム開発請負契約について説明していきました。
次回は製造請負契約について具体的に説明したいと思います。
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