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弁護士コラム
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公開日:2025.6.13
企業法務請負契約書の審査ポイント(3)
弁護士法人PROの弁護士の沢津橋信二です。
前回では、システム開発請負契約書の審査におけるポイントについて解説しました。
今回は製造請負契約に絞って具体的に説明したいと思います。
1.はじめに
製造業において、企業が外部のメーカーに生産を委託する際には「製造請負契約」が用いられます。
この契約は、発注者と請負者の間で製品の仕様や品質、納期、瑕疵対応などを明確に取り決める重要な役割を果たします。
本コラムでは、製造請負契約の基本から、契約を締結する際に確認すべきポイント、そしてトラブルを未然に防ぐための実務的な対策までを解説します。
契約書を適切に整備し、製造業務をスムーズに進めるための知識を身につけましょう。
2.製造請負契約とは
製造請負契約とは、 発注者が特定の製品の製造を請負人(製造会社)に委託し、完成品の納品をもって報酬を支払う契約です。
民法第632条の「請負契約」に基づくため、請負人は製品を完成させる義務を負います。
この契約形態の特徴は、以下の点にあります。
こうした特徴を理解した上で、契約内容を慎重に検討することが求められます。
3.契約書を審査するときのポイント
(1)成果物
製品の仕様が曖昧なまま契約を結ぶと、納品後に「発注者の要求と異なる」といった問題が発生します。
また、発注者が「この部品を変更してほしい」と途中で依頼することはよくあります。
しかし、仕様変更が適切に管理されないと、製造コストが増大し、納期にも影響が出ます。
仕様を明確にするため、以下の点を確認しましょう。
また、仕様書や技術要件書を契約書に添付することで、後々のトラブルを防ぐことができます。
(2)製造スケジュール(試作、量産、出荷)の明記
開発スケジュールと納期の設定が適切かについても注意を払いましょう。
開発の遅延は、発注者・請負人双方に大きな影響を与えます。
スケジュールに関する契約条項には、以下のポイントに気を付けるといいでしょう。
特に、請負人側は、成果物を作成するのに多大な労力を要するので、発注者の都合で納期が変更される場合の取り決めを明確にすることが重要です。
(3)支払い条件
製造請負契約では、「前払い」「分割払い」「後払い」など、さまざまな支払い形態が考えられます。
以下の点を確認しましょう。
特に、請負人側は、検収完了後の支払いが遅れるリスクを回避するため、支払期限を契約書に明記することが重要です。
また、製品を納品した後、発注者が「品質が基準に達していない」として検収を拒否することがあります。
これが長引くと、請負人は報酬を受け取れないリスクがあるので、
契約書で検収基準を明確に定め、一定期間内に異議がなければ検収完了とするなど明記する必要もあります。
(4)瑕疵担保責任(契約不適合責任)
製造物には一定の不良率がつきものですが、契約上の瑕疵の範囲を明確にしないと、請負人が予想以上の修正対応を求められる可能性があります。
修補義務の範囲は、具体的には
の4つが考えられます。
ただ、請負契約特有の注意点として、「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合」(民法636条)である場合には、注文者は履行の追完請求、報酬の減額請求、損害賠償請求、契約解除ができないので注意が必要です。
ただし、「請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは」(民法636条但書)依然として
上記4つの請求は可能です。
なお、これら4つの請求をするには、注文者は契約不適合を知った時から1年以内に請負人に通知することが必要です(民法637条)。
しかし、1年を過ぎてしまった場合でも、請負人が契約不適合の事実を知っていたか、又は、重大な過失によって知らなかった場合には依然として上記4つの請求は可能です(民法637条2項)。
しかしながら、法律上の原則は上記のとおりですが、
契約書で請求可能期間が修正されていることの方がむしろ通常なので,請求可能期間については特に注意を払いましょう。
4.おわりに
これまで、請負契約における様々な類型について紹介してきました。
請負契約書の審査では、契約内容の明確性とリスク管理の観点から、慎重にチェックを行うことが重要です。
契約の不備が後のトラブルにつながることを防ぐため、細部まで確認し、必要に応じて弁護士などの専門家の助言を受けることも有効です。
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