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弁護士コラム
Column
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公開日:2025.8.8
企業法務プロ野球選手が弁護士を代理人にする意義と注意点
弁護士法人PROの弁護士 沢津橋信二です。
近年、プロ野球の世界でも、選手が弁護士を契約交渉やトラブル対応に活用するケースが増加しています。
球団との年俸交渉や、メディア対応、セカンドキャリア形成まで含め、プロ野球選手の活動は年々多様化しています。
こうした変化の中で、選手が専門家を「味方につける」ことの意義と注意点について、あらためて考えてみましょう。
1.弁護士や専門家を代理人にする意義
(1)複雑な契約交渉をプロの視点で整理
プロ野球選手と球団の間には、年俸、出来高、複数年契約、FA権の扱い、オプション条項など実に多岐にわたる契約交渉事項があります。
特に、年俸や出来高に関しては、例えば投手の場合、「何勝したら~」だけではなく、「2アウトの場面では~」のようなかなり細かく規定されていることも珍しくありません。
これら状況毎に細分化した契約では、条項間で矛盾や齟齬がないか、抜け漏れがないか、不利な条件になっていないかなど、見極めるのは極めて難しく、これらを自分一人で把握・交渉するのは困難です。
弁護士のサポートがあれば、選手が理解しにくい法的リスクや将来的な影響についても的確にアドバイスが受けられ、不利な契約を回避できます。
近年、NPBの代理人制度が変わり、弁護士以外でも代理人になれるようになりましたが、弁護士の強みは、まさにこの法的アドバイス受けられる点が強みです。
年俸の増額交渉などは、近年ほぼ不可能になっています。
その理由は、球団ごとの査定基準があり、これに従って年俸が定められているからです。
そうすると、契約の重要性は、設けられた条項に矛盾や齟齬がないか、抜け漏れがないか、不利な条件になっていないかが代理人を使う要となるのです。
その点では、弁護士は適任者と言えるでしょう。
(2)球団との関係を円滑に保つための「交渉クッション」
日本のプロ野球界では、選手が直接球団と交渉を行う文化が根強いですが、代理人を通じた交渉は、感情的な衝突を避ける緩衝材としても機能します。
代理人が選手の意向を冷静かつ理論的に伝えることで、選手本人が球団と対立する構図を避け、関係を良好に保ちやすくなります。
(3)メディア対応や法的リスクへの備え
近年、プロ野球選手も多くの方がSNSを利用しています。
SNS炎上やプライベートの報道、怪我の治療方針を巡るトラブルなど、選手がメディアや第三者との間で直面する法的紛争になるケースも多くみられます。
弁護士は、紛争解決と紛争予防のプロです。
弁護士が関与することで、こうした問題への迅速かつ適切な対応が可能になります。
(4)引退後を見据えた長期的なキャリア戦略
現役選手の平均寿命が短いプロ野球の世界では、
現役中から引退後のキャリア形成に備える必要があります。
プロ野球選手のセカンドキャリアとして、タレント活動、解説者、指導者、事業家などが考えられます。
これらセカンドキャリアの場面で、必ず契約が必要になってきます。
現役中から弁護士からのサポートを受けていれば、その後も法的助言や契約サポートを受けることができます。
2.弁護士や専門家を代理人にするときの注意点
(1)弁護士資格や経験の有無を確認
代理人として活動するには、NPBの「選手代理人制度」に基づく登録が必要です。
とりわけ弁護士が代理人を務める場合、
労働法やスポーツビジネスに精通しているか、プロ野球事情に精通しているかが重要な判断材料になります。
(2)成果報酬・手数料体系の明確化
代理人への報酬が「契約額の〇%」など出来高連動の場合、その金額が妥当かどうか、報酬の対象となる業務範囲が明確か、などを
契約書で定めておく必要があります。
不透明な報酬体系はトラブルのもとです。
(3)球団との関係を悪化させない対応が必要
代理人の交渉スタイルによっては、球団との信頼関係にひびが入る可能性もあります。
よくあるケースとして、選手のキャラからかけ離れているような交渉をする代理人には注意です。
あの選手はそんなこと言わないだろうと球団に思われ、交渉が破綻しています。
選手の意向を反映させながらも、必要以上に対立を煽らないような、慎重な姿勢の代理人を選ぶべきです。
(4)複数の代理人・関係者がいる場合の整理
プロ野球選手には、弁護士のほかにもマネジメント事務所、会計士、トレーナーなど、多くの関係者が存在します。
これらの者についでに契約交渉もやってもらう事になると、それぞれの役割分担を整理せずにいると、条項間で矛盾や齟齬、不利な条件に気付けないリスクがあります。
このようなリスクを軽減するためには、餅は餅屋ではないですが、やはり契約交渉の役割は弁護士に任せるのがお勧めです。
その他にも契約交渉では、 エージェントと弁護士を併用するのもお勧めです。
その場合、年俸交渉事をエージェントが交渉窓口となり具体的な希望条件を伝える一方、契約書の内容や不利な条項が含まれていないかについては弁護士が精査する、という分担が可能です。
選手は自身の意志を一元的に伝えるだけで、法的リスクと実務的利益を両立できます。
3.終わりに
プロ野球選手にとって、「野球の実力」だけでは守れない権利や将来があります。
弁護士を代理人として適切に活用することで、選手自身が本来集中すべきプレーに専念できる環境が整います。
ただし、代理人選びには慎重を要し、信頼と実績のある人物かどうかを見極める必要があります。
選手としての価値を最大化するためにも、 「法律と契約に強い味方」を持つことは、今や当然の時代です。
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