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公開日:2025.10.10
企業法務プロ野球選手とエンドースメント契約の基本と注意点
弁護士法人PROの弁護士 沢津橋信二です。
プロ野球選手の活躍は、球場の中だけにとどまりません。
バットやグローブ、シューズ、サプリメントなど、選手の使用する製品やサービスがファンに大きな影響を与えます。
こうした背景のもと、企業が選手と結ぶエンドースメント契約は、年々その重要性を増しています。
選手の知名度や影響力を活用するエンドースメント契約は、企業にとっては強力なマーケティング手段であり、選手にとっては収入の多様化につながります。
しかし、その契約には特有のリスクや留意点も存在します。
本コラムでは、プロ野球選手のエンドースメント契約の基本と注意点を整理します。
1.エンドースメント契約とは何か?
エンドースメント契約とは、プロ野球選手が自らの名前・肖像・発言を用いて特定の商品やサービスを推奨・使用することを約束し、その対価として報酬を受け取る契約です。
企業側には、商品の信頼性やブランド価値を高め、売上拡大につながるメリットがあります。
選手側には、プレー以外の収入源の確保や、自身のブランド価値の向上といったメリットがあります。
一方で、選手のスキャンダルや不祥事、大幅な成績低下は企業ブランドに直結することから、企業側としては、契約書の中で「道徳条項(morals clause)」を設け、不適切行為等があった場合に契約解除できるようにすることが重要です。
選手側としては、肖像や名前の使用範囲が広すぎると、選手の将来のマーケティング活動に支障をきたすことがあります。
このように、エンドースメント契約には注意点も多いので、以下で具体的に見ていきましょう。
2.エンドースメント契約の主な条項とチェックポイント
(1)契約目的条項
内容:選手が企業の商品・サービスを、推薦・広告することを明確にする。
チェックポイント
◆契約の趣旨(広告出演なのか、肖像使用が中心なのか)を明記しているか。
不明確だと、企業が過剰に権利を行使するリスクがあります。
(2)使用権(肖像・氏名・サイン等)
内容:選手の氏名、肖像、サイン、ユニフォーム姿などを企業が使用できる範囲。
チェックポイント
プロ野球選手は球団との契約により、以下のような形で肖像の使用を球団やNPBに許諾しているケースが一般的です。
例えば、球団の広報活動(パンフレット、SNS、グッズ等)やNPB主催の試合・イベントに関する使用、スポンサー広告での起用(チーム全体としての契約)です。
したがって、選手が個人として企業と契約するエンドースメント契約の場合、球団との契約に抵触しないようにする必要があります。
特に、これらは球団の承諾がなければ使用できない可能性が高いです。
①球団のユニフォームを着用して広告に出る場合
②球団やNPBのロゴを背景に使う場合
③他の選手の肖像や試合映像を併せて使用する場合
他にも気を付ける点として、
◆使用できる媒体(テレビCM、SNS、印刷物、ウェブサイトなど)を限定しているか。
◆使用地域(日本国内のみ/全世界)や期間(契約終了後も使用できるのか)を明確にしているか。
◆将来の他社契約を妨げない範囲に収まっているか。
といった点にも注意を払う必要があります。
(3)出演義務
内容:広告撮影やイベント出演など、選手が企業に協力する義務。
チェックポイント
◆年間で何回・何時間程度か具体的に定めているか。
◆試合や練習スケジュールと競合しないよう配慮されているか。
◆交通費・宿泊費などの負担は誰がするか明示されているか。
(4)報酬
内容:契約対価。固定報酬や成果報酬、現物提供など。
チェックポイント
◆報酬の形態(年額、分割払い、成果連動)が明確か。
◆税務上の取り扱いや源泉徴収の有無を確認しているか。
◆成果報酬(インセンティブ)がある場合、その算定方法は客観的かつ明確か。
(5)独占条項
内容:競合企業の商品・サービスに関与することを禁止する条項。
チェックポイント
◆対象となる「競合商品」の範囲が明確か(例:飲料全般なのか、スポーツドリンクに限定するのか)。
成約範囲が広すぎると、選手の活動の自由を不当に制約することになり、ひいては本業の成績にも影響を及ぼす可能性もあります。
したがって、選手の活動の自由において、問題ない範囲に収まっているかが重要です。
(6)道徳条項・解除条項
内容:選手の不祥事や社会的信用失墜時に企業が契約解除できる条項。
チェックポイント
◆「不祥事」の定義が漠然としていないか(例:刑事事件に限るのか、SNSでの不適切発言も含むのか)。
◆成績の低下を含むのか(成績の低下とはいかなる場合を指すのかの基準が明確か、成績の低下が一度でも満たせば解除できるのか等)。
◆解除権行使の条件が一方的に企業有利になりすぎていないか。
◆解除されたこと自体が世に報道されると、それ自体で選手のイメージが低下するので、その点の選手のプライバシー権保護の配慮はされているのか。
(7)知的財産権の扱い
内容:契約で制作された広告物の権利関係。
チェックポイント
◆広告写真・映像の著作権や二次利用の権利が誰に帰属するか。
◆契約終了後に使用し続けられるのか、返却・削除が必要か。
3.まとめ
エンドースメント契約は、プロ野球選手にとって競技外の第2の収入源であると同時に、イメージ形成やブランディングに大きく関わる契約でもあります。
企業にとっても、選手との契約はブランド戦略の一部です。
だからこそ、双方にとって納得のいく内容で契約を結ぶことが、長期的な信頼関係につながります。
契約書を読み解く力は個人選手だけでは限界があります。
弁護士や専門家のアドバイスを受けながら、自らの価値を適切に守る契約を目指しましょう。
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