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公開日:2026.1.9
企業法務プロ野球のコーチ契約の締結と注意点
弁護士法人PROの弁護士 沢津橋信二です。
前回はプロ野球選手の選手契約(統一契約)について解説しましたが、本コラムではコーチ契約について解説していきたいと思います。
コーチと球団との契約は、選手のような統一契約ではなく各球団が独自の雛形(球団標準契約書)を用いる実務契約が一般的です。
これは多くの球団がコーチ=球団職員的立場と捉えているため、選手契約とは別立ての契約書で締結されるのです。
以下では、コーチ契約の主要なモデル規程と注意点を解説していきます。
1.契約の目的
「指導業務の委託」か「雇用契約」かを明確にする必要があります。
もっとも、文言は「委託」「受託」とあって一見「業務委託」風の文言でありながら、実態は労働契約的なことが多いので注意が必要です。
球団としては、コーチを雇用契約に準じた扱いにしたいという思惑があります。
例えば、①指揮命令関係を極めて強くしたい(練習開始・終了時間、集合時間、遠征日程、帯同義務、どの球場・どの練習施設で指導するかは、球団が一方的に決めたい)、②代替コーチを選任されたくない(コーチ本人の人格・経験に期待して契約しているのだから、”今日は代わりに友人コーチを行かせます”では困る)などです。
もちろん委託契約と労働契約どちらであれば大丈夫という話ではないですが、規定の字面と規定内容にあまりに齟齬があると、球団とコーチ間でトラブルが生じたときに契約解釈の点で問題が生じることになるので注意が必要です。
2.契約期間
契約期間は、単年更新とされることが多いです。
また、プロ野球のコーチは、コーチングしている選手の結果が出なかったり、チームの成績が低迷しているといったことがまま起こり得ることであり、こういった職務の性質上、途中解任が発生しやすいのも事実です。
したがって、どういった場合に中途解除になるのか明確にするため、中途解除の扱いを別条で定めるべきです。
3.職務内容(指導業務)
これまでのチームの慣行から、こういう業務はコーチがやるものだという暗黙のルールのようなものがチームにあることも事実です。
それ故、契約書で定められた職務内容について不明確で広範囲な職務内容がさらっと書いてあることもままあります。
チームの指示する業務が広範すぎると、一軍・二軍の往来や異動が無制限に可能となるので注意が必要です。
また、コーチにも一軍コーチ・二軍コーチ、打撃コーチ・守備走塁コーチ・ヘッドコーチなど様々な種類があります。
シーズン途中でこれらの種類が変わることも珍しい事ではありません。
したがって、異動に伴う待遇変更(役職手当など)も明文化すべきです。
4.報酬(年俸)
コーチの報酬は年俸制であることが一般的です。
出来高(勝利数等)を採用する球団もありますが、選手ほどは一般的ではありません。
仮に、インセンティブの定めがある場合は、その算定方法も明らかであるかを確認しましょう。
社会保険等、球団職員としての処遇に近い場合もあります。
また、コーチは、シーズン途中で解任になる事もあるので、解任時の扱い(残期間報酬支払の有無)は必ず確認すべきです。
5.守秘義務
コーチは仕事柄、多くの選手を高密度に管理することになるため、選手の怪我、コンディション、癖等を把握することになります。
また、監督や他の首脳陣とも接する機会も多いためチームとしての戦略、戦術、サイン等の情報量も豊富です。
これらの情報が外部に漏れれば、チームに多大な損失を与えることは想像に難しくありません。
もっと言うと、プロ野球の運営自体の存立にも関わります。
したがって、守秘義務はただのモラルの範囲を超えて、違約規定が定められていることも多いです。
守秘義務に反したら、違約金○○円という規定もあるか確認するとともに、プロ野球の根幹にも関わる規定だという意識を持ちましょう。
選手の統一契約にも定められている模範行為規定をコーチ版に引き直したようなものです。
コーチは選手ほど露出はないので、自らの行動が社会に与える影響が選手よりも小さいかというとそういうわけではありません。
指導者には選手以上の行動規範が期待されるものです。
この規定にも、5. 守秘義務と同様に違約規定が定められていることが多いので注意しましょう。
不適任性の判断基準が曖昧だと、解任が恣意的になり得るので、できる限り明確化することが重要です。
また、解任された場合に、上記4. 報酬でも述べたように残期間報酬支払があるといくらか安心できるのでこの点も注意すべき点です。
コーチ契約は、選手の統一契約書のような決まったものがあるわけではないので、より注意深くなる必要があります。
コーチとの契約は皆これを使っていると言って球団が差し出してきたものを鵜呑みにすると、思わぬところでトラブルになる恐れがあります。
コーチ契約を正しく理解することは、自らの身を守ると同時に、気持ちよくコーチ業務を遂行する上で大切であることを覚えておきましょう。
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