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弁護士コラム
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公開日:2022.1.31
企業法務海外からの模倣品流入に対する規制強化(商標法)について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、令和3年5月14日に成立しました「特許法等の一部を改正する法律」のうち、商標法に関する「海外からの模倣品流入に対する規制強化」について取り上げます。
1.令和3年5月14日成立の「特許法等の一部を改正する法律」の概要
(1) 法改正の背景
新型コロナウイルス感染拡大を契機に、デジタル化の進展、リモート・非接触による経済活動など、社会の在り方が大きく変化しました。
このような社会の変化に対応するため、令和3年5月14日に「特許法等の一部を改正する法律」が成立し、
① 新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備
② デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
③ 知的財産制度の基盤強化
という3つを柱とした特許法等の法改正が行われました(一部を除いて、令和4年4月1日から施行されます)。
(2) 法改正の概要
① 新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備
ア 審判での口頭審理のオンライン化
これまで、特許の無効審判等の特許庁での審判手続は、審判廷に当事者が出頭して対面で審理を行うものでした。
今回の法改正により、審判長の判断でウェブ会議システムで行うことが可能となりました。
イ 印紙予納の廃止・料金支払方法の拡充
これまで、特許料等の支払は、特許印紙を購入して、特許庁の窓口で支払うことが一般的でした。
今回の改正により、特許印紙での支払いは廃止され、口座振替やクレジットカードでの支払いが可能となりました。
ウ 意匠・商標国際出願手続のデジタル化
これまで、意匠・商標の国際出願の登録査定の通知等は、郵送で行われていました。
今回の改正により、新型コロナウイルスの感染状況により停止の可能性がある郵送に代えて、国際機関を経由した電子送付が可能となりました。
エ 災害等の理由による手続期間徒過後の割増料金免除
特許料等の納付期間を徒過した場合、割増料金を支払うことで、特許権等の消滅を防ぐことができます。
今回の改正により、新型コロナウイルス感染拡大や災害等の理由によって特許料の納付期間を徒過した場合には、相応の期間内において割増料金の納付を免除されることになりました。
② デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
ア 海外からの模倣品流入に対する規制強化
詳細は、2.で述べます。
イ 訂正審判等における通常実施権者の承諾要件の見直し
これまでは、特許権者が訂正審判等によって、特許の内容を訂正する場合、ライセンスを受けた者(通常実施権者)がいるときには、ライセンスを受けた者の承諾がいるとされていました。
そのため、デジタル技術の進展により、特許権のライセンス契約の態様が複雑化し、ライセンスを受けた者が多数存在する中で、ライセンスを受けた者の承諾を得なければならないことが負担になっていました。
今回の改正により、特許の内容を訂正する場合にライセンスを受けた者の承諾は不要とされました。
ウ 特許権等の権利回復要件の緩和
これまでは、手続期間の徒過により特許権等が消滅した場合に、「正当な理由」があれば特許権等の権利を回復できることになっていました。
今回の改正により、「正当な理由」がなくとも、故意に(わざと)手続を行わなかった場合を除き、特許権等の権利を回復できるようになりました。
③ 知的財産制度の基盤強化
ア 特許権侵害訴訟における第三者意見募集制度の導入
これまでは、特許権侵害訴訟において、第三者から意見を募集するという法律上の制度はありませんでした。
今回の改正により、複雑化した特許権侵害訴訟に対応するため、裁判所が広く第三者から意見を募集できる制度が導入されました。
イ 特許料等の料金体系見直し
審査負担増大や手続のデジタル化に対応し、特許料等の料金体系等が引き上げられました。
※弁護士コラム「特許出願の概要について」の2.(4)で紹介した特許料も以下のとおり、令和4年4月1日から値上がりとなります。
ウ 弁理士制度の見直し
今回の改正により、弁理士の業務範囲に、農林水産知財業務や第三者意見募集制度の意見の内容に関する相談が追加されました。
また、弁理士業を行う法人の名称が、特許業務法人から弁理士法人に変更され、社員弁理士1名からでも設立できるようになりました。
2.海外からの模倣品流入に関する規制強化(商標法)の内容について
(1) 海外からの模倣品流入に関する規制強化(商標法)の背景
有名なブランド品の偽物を輸入した場合、商標権を侵害する違法な行為となります
(弁護士コラム「並行輸入と商標権侵害について」1.を参照)。
しかし、個人が、個人的に使用する目的で、偽ブランド品を輸入した場合は、商標権の侵害にはならないとされていました。
商標権の侵害といえるためには、「業として」偽物を輸入する必要があると考えられているからです。
そのため、「業として」輸入を行っている輸入業者が、海外事業者から偽ブランド品を輸入する行為は、商標法違反行為として、関税法に基づいて輸入を差し止めることが可能でした。
近年では、海外との電子商標取引が容易になったことで、海外事業者から日本の輸入業者を通さずに、個人が偽ブランド品を輸入することが増え、商標法違反行為として、関税法に基づいて輸入を差し止めることが困難になっていました。
また、実際には、輸入業者による偽ブランド品の輸入であるにもかかわらず、個人的に使用する目的だと嘘をついて輸入を行っているケースも生じています。
そこで、今回の改正では、巧妙化する偽ブランド品の輸入を阻止するために、海外事業者が偽ブランド品を郵送等により国内に持ち込ませる行為を「輸入」に含めることになりました。
(2) 海外からの模倣品流入に関する規制強化(商標法)の内容
では、海外事業者が偽ブランド品を郵送等により国内に持ち込ませる行為を「輸入」に含めることで、何が変わったのでしょうか。
「輸入」の本来の意味は、外国から商品等を購入する行為ですので、行為の主体は、国内の人になります。偽ブランド品を輸入するのは、国内の輸入業者や個人です。
しかし、今回の改正により、海外事業者が偽ブランド品を郵送等により国内に持ち込ませる行為を「輸入」に含めることで、海外事業者も行為の主体にした点に意味があります。
そのため、個人的に使用する目的で個人が、偽ブランド品を、本来の意味で「輸入」した場合、その個人の行為は商標権侵害にはなりませんが、海外事業者が偽ブランド品を持ち込ませた点は「輸入」に該当しますので、海外事業者の行為が商標権侵害になるのです。
知的財産に関する法律は、社会の情勢に応じて、改正されています。
最新の法改正の情報は、弁護士にお尋ねください。
以上
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