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弁護士コラム
Column
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公開日:2022.5.27
企業法務商標登録の重要性について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「商標登録の重要性」について取り上げます。
1.「ゆっくり茶番劇」を巡るニュースについて
最近のニュースで、とあるユーチューバーが「ゆっくり茶番劇」を商標登録したと発表したことが話題になっています。
「ゆっくり茶番劇」とは、「東方Project」というゲームのキャラクターと、特徴的な合成音声を組み合わせて作成する動画の制作スタイルのことです。
「ゆっくり茶番劇」は、動画のジャンル・カテゴリーを表す言葉と理解されています。
この問題を受けて、「ゆっくり茶番劇」の動画が多く配信されているニコニコ動画を運営するドワンゴ社が記者会見を開いて、「『ゆっくり茶番劇』をジャンルやカテゴリーとして使用する場合(※)には商標権侵害にはならない」と注意喚起をするなど、波紋を呼んでいます。
※ 例えば、「【ゆっくり茶番劇】+動画タイトル」というタイトルで動画を投稿する場合など
一見すると、自社の企業活動には何ら関係がないように思えるかもしれませんが、実は、どこの企業でも起こり得る問題なのです。
2.なぜ商標登録が重要なのか
では、「ゆっくり茶番劇」を巡るニュースは何が問題だったのでしょうか。
それは、全く関係のない第三者が、他者が使用しているネーミングを商標登録してしまったということです。
例えば、自社で時間と費用をかけて開発し、展開している商品・サービスについて、そのネーミングやサービスマークに関して何の対策もせずにしていると、第三者がそのネーミングを特許庁に出願して商標登録してしまい、自社の商品・サービスのネーミングやサービスマークを使用できなくなる危険性があるということです。
なぜ、そのようなことが起きるかと言いますと、日本では、最初に特許庁に出願をした方に商標権を与える制度(先願主義)を採用しているからです。
そのため、当該ネーミングやサービスマークを、自社で先に商標を使い始めたとしても、特許庁に出願して商標登録しておかないと、自社がそのネーミングやサービスマークを独占的に使用することができません。
自社で考えたネーミングやサービスマークを他社に無断使用されないためにも、自社の主力商品・サービスのネーミングやサービスマークについては、特許庁に出願して商標登録を受けておくことが重要です。
なお、商標の概要については、弁護士コラム「商標の概要について」をご参照ください。
では、自社の商品・サービスのネーミングやサービスマークを、他社が先に特許庁に出願して商標登録してしまった場合はどうすべきなのでしょうか。
この場合の主な対抗策は、以下のとおりです。
(1) 先使用権の主張
先使用権とは、特許庁への出願前から、登録された商標を使用していた場合には、当該商標を使っても商標権侵害にはならないというものです。
先使用権が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
先使用権が認められるかどうかのポイントは③の点が立証できるかどうかという点にかかっています。
「需要者間に広く認識されている」というのは、「周知性」の要件と呼ばれており、必ずしも全国的に知られている必要まではありませんが、少なくとも1都道府県内で広く知られている必要があります。
しかし、この「周知性」の立証は簡単ではありません。
そのため、商標を先に使用しているからといって、簡単に、先使用権が認められるわけではないことに注意が必要です。
また、先使用権に基づいて自社の商標を使用できる範囲は、周知性が認められる地域に限られると考えられています。
そのため、例えば、関東地方でのみ周知性が認められており、九州地方では周知性が認められていないのであれば、九州地方では先使用権に基づいて自社の商標を使用することは、商標権侵害となります。
(2) 商標登録の無効審判
商標登録の無効審判とは、登録された商標に無効理由がある場合に、特許庁に対し、商標登録を無効とすることができる制度です。
一部の無効理由については、商標登録後5年間という期間制限がありますが、それ以外の無効理由についてはいつでも無効審判を請求することができます。
無効理由としては、識別力を有しない商標(普通名称など)、先に出願された同一又は類似の商標があることが判明した場合などがあります。
(3) 不使用による商標登録の取消審判
不使用による商標登録の取消審判とは、継続して3年以上、日本で登録商標を使用していなかった場合に、商標登録が取り消される制度です。
取消審判を申し立てると、特許庁において、審判の請求の登録がなされます。
3年間の不使用は、この登録時が基準となり、それ以前の3年間に登録商標が使用されていなければ、商標登録は取消しとなります。
なお、取消審判の登録前に、登録商標が使用されたとしても、その使用が「無効審判がされることを知った後の使用」であれば、正当な理由がない限り、不使用の取扱いとなります。
(4) 不正使用による商標登録の取消審判
不正使用による商標登録の取消審判とは、商標権者がわざと、商品の品質やサービスの質を誤認させたり、他人の業務に係る商品やサービスであると混同させたりするような場合などに、商標登録が取り消される制度です。
この機会に、自社の商品・サービスのネーミングやサービスマークについて、商標登録を検討してみてはいかがでしょうか。
以上
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