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公開日:2022.6.17
人事・労務割増賃金(残業代)の仕組みについて
弁護士法人PROの弁護士の柏木太郎です。
企業の労務において重要な要素の1つが残業代です。
“残業代”の法律上の名称は「割増賃金」といいます。
割増賃金は、その発生要件や算定方法が複雑で、さらに、労務問題の中でもトラブルや訴訟に発展しやすい事項です。
このコラムでは、割増賃金の概要を解説します。
割増賃金を巡って自社の労働者とトラブルになった場合や、社内の体制に問題がないか確認したい場合は弊所までお気軽にご相談ください。
1.“残業代”が発生するパターン
残業代(割増賃金)を支払わなければならないパターンは、労働基準法(以下「法」といいます。)により以下3つが規定されています。
残業代=①とイメージされる方が多いかもしれませんが、②③も割増賃金が発生します。
法定労働時間の上限は、原則として1日8時間、1週間の合計40時間です。
なお、所定労働時間(労働契約で定められた就業時間=いわゆる“定時”)を超えても法定労働時間内であれば、法律上は割増賃金が発生しません。
2.割増率
上記の3パターンはそれぞれ割増率が異なります。
①-Bにつき、以前は中小企業に対する適用が猶予されていましたが、2018年に成立した働き方改革関連法による労基法改正(施行時期は2023年4月1日)により中小企業も5割以上の支払いが義務付けられることとなります。
なお、法律上の休日は1日です(法35条1項)。会社の制度として週休2日制をとっていても、②に該当し3割5分の割増賃金が必要なのは、2日ある休日のいずれか1日のみです。
3.“残業代”が重複するケース
上記①~③が重複すると、割増率が上昇します。
例えば、法定労働時間が8時~17時(休憩1時間)の労働者が23時まで残業していた、というケースを想定してみます。
このケースでの割増賃金は17時~22時は時間外労働(①-A)、22時~23時の労働は時間外労働+深夜労働(①-A+①-B)となります。
このように、労働に対し複数の割増賃金が重複する場合は、割増賃金の割増率が増加します。
重複した場合の割増は以下のとおりです(労働基準法規則20条1項、2項)。
4.割増賃金の算定基礎
算定基礎となるもの
割増賃金の算定のベースとなるのは「通常の労働時間又は労働日の賃金」です(法37条1項)。
つまり、所定労働時間の労働に対する賃金が算定基礎となります。
算定基礎に含まれないもの
家族手当や通勤手当など、労働時間とは無関係な手当は算定基礎に含まれません(法37条5項)。
これらは、労働者の個人的事情に左右される手当です。家族構成や通勤距離に応じて割増賃金の算定基礎が変化してしまうのは妥当ではないため、算定基礎から除外されています。
他にも、労働基準法施行規則第21条では、以下5つの手当は算定基礎に含まれないと規定されています。
注意が必要なのは、「住宅手当」です。
住宅手当とは、「住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうのであり、手当の名称の如何を問わず実質によって取り扱う」とされています(厚生労働省の通達「割増賃金の基礎となる賃金について」)。
つまり、あらかじめ定められた金額を一律に支給している場合、算定基礎から除外される「住宅手当」には該当しません。
社宅、賃貸、持家といった形態ごとに支給額を変えていたとしても、一律に定額で支給されていれば同様に除外されません。
農業、畜産、水産業に従事する者
これらの産業や事業は、天候・季節などその時々の自然条件に大きく影響され労働時間を法令で規定するのが不合理であるため、割増賃金制度の適用除外となっています。
管理監督者
管理監督者とは、労務管理を行い労働者の作業を監督する者です。管理監督者は、その大きな権限や高待遇を理由に、労働時間の規制を受けるのが不合理であるため適用除外となります。
適用除外の該当性を巡って最もトラブルになり易いのが、この管理監督者です。
“名ばかり管理職”といえば聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか。
実際には大きな権限を有さず給与等の面で良い待遇を受けていないにも関わらず、割増賃金の支払いを免れるために管理職かのような名称を与える事例が頻発しました。
仮に、自社の従業員に対しその人が管理監督者に該当するとして割増賃金を支払わない取扱いとする場合は、慎重な判断が求められます。
管理監督者の該当性を巡っては様々な問題がありますので、詳細は別コラムにて取り上げます。
監視・断続的労働従事者
守衛、ビルの警備員等がこれに該当します。
これらの業務は、常態として身体または精神的緊張が少ないため、適用除外となっています。
高度プロフェッショナル労働制
2018年6月に成立した高度プロフェッショナル労働制は、その広い裁量と高い専門度に基づき主体的で柔軟な労働時間を確保するのが望ましいため、適用除外となっています。
今回は、割増賃金の概要をご説明しました。
企業にとって、割増賃金は避けては通れぬ問題です。割増賃金をはじめ、労務でお困りのことあれば弊所へご相談ください。
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