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弁護士コラム
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公開日:2022.7.29
企業法務商標の類似性判断について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「商標の類似性判断」について取り上げます。
1.はじめに
商標の類似とは、Aという商標とBという商標を比べてみて、これら2つの商標を「同一又は類似の商品・サービスに使用すると需要者が出所を混同するおそれがあること」を言います。
商標の類似性判断は、商標の出願時に「他の登録商標と出願した商標が類似していないか」という点で、重要な意味を持ってきます。
出願した商標が、既に登録されている他の商標と類似していると判断されれば、審査で拒絶されてしまう(商標登録がなされない)からです。
そこで、商標を出願するに当たっては、出願しようとする商標が、既に登録されている他の商標と類似していないかどうか、予め確認しておくことが重要です。
2.商標の類似性判断
(1) 審査基準
特許庁が公表している商標審査基準によれば、「商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。」と記載されています。
要するに、2つの商標の①外観、②称呼、③観念を総合的に観察して、類似しているかどうかを判断するということです。
以下では、商標審査基準に基づいて、商標の類似性判断について説明します。
(2) 外観
外観とは、商標に接する需要者が、視覚を通じて認識する外形を言います。
【外観が類似している例】
両者は、語尾の「X」の大文字と小文字の違いがありますが、その差がわずかなことから、外観上全体として似ているという印象を与えます。
【外観が類似していない例】
(3) 称呼
称呼とは、商標に接する需要者が、取引上自然に認識する音を言います。
称呼が類似しているかどうかは、比較される両称呼の
・音質(母音、子音の質的きまりから生じる音の性質)
・音量(音の長短)
・音調(音の強弱及びアクセントの位置)
・音節
・その他の事情
において、共通し、近似する部分があるかどうかを比較するとともに、称呼の全体的印象が紛らわしいかどうかで判断されます。
【音質の類似性判断要素】
ア 相違する音の母音を共通しているか、母音が近似しているか
(例)ともに同音数の称呼からなり、相違する1音が母音を共通にする場合
「ダイラマックス」と「ダイナマックス」
「セレニティ」と「セレリティ」
イ 相違する音の子音を共通しているか、子音が近似しているか
(例)ともに同音数の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属する場合
「ブリロセッティ」と「ブレロセッティ」
「ビスカリン」と「ビスコリン」
(例)ともに同音数の称呼からなり、相違する1音が清音(ハ)、濁音(バ)、半濁音(パ)の差にすぎない場合
「ビュープレックス」と「ビューフレックス」
「バーテラックス」と「バーデラックス」
【音量の類似性判断要素】
相違する1音が長音(ー)の有無、促音(ッ)の有無又は長音と促音、長音と弱音(※)の差にすぎないか
※ 弱音とは、口の開き方の小さな音(イ・ウ)、口を開かずに発せられる音(ム・ン)、声帯が振動せずに発せられる音(ハ・フ・ス)等の聴覚上、明瞭でなくひびきが弱い音を言います。
(例)相違する音が長音の有無にすぎない場合
「モガレーマン」と「マガレマン」
(例)相違する音が促音の有無にすぎない場合
「コレクシット」と「コレクシト」
(例)相違する音が長音と促音の差にすぎない場合
「コロネート」と「コロネット」
「アドポーク」と「アドポック」
(例)相違する音が長音と弱音の差にすぎない場合
「タカラハト」と「タカラート」
「イースタパック」と「インスタパック」
【音調の類似性判断要素】
ア 相違する音がともに弱音であるか、弱音の有無にすぎないか、長音と促音の差にすぎないか
(例)相違する1音が弱音である場合
「ダンネル」と「ダイネル」
「シーピーエヌ」と「シーピーエム」
(例)弱音の有無の差にすぎない場合
「ブリテックス」と「ブリステックス」
「デントレックス」と「デントレック」
イ 相違する音がともに中間又は語尾に位置しているか
(例)同音数からなる比較的長い呼称で1音だけ異なる場合
「サイバトロン」と「サイモトロン」
「パラビタオミン」と「パラビタシミン」
ウ 語頭又は語尾において、共通する音が同一の強音(聴覚上、ひびきの強い音)であるか
(例)語頭において共通する音が強音の場合
「アプロトン」と「アクロトン」
「バンヴェロル」と「バンデロル」
エ アルファベット文字商標の称呼において強めのアクセントがある場合に、その位置が共通するか
(例)強めのアクセントの位置が共通する場合
「SUNRICHY」と「SUNLICKY」
(サンリッチー) (サンリッキー)
「RISCOAT」と「VISCOAT」
(リスコート) (ビスコート)
【音節の類似性判断要素】
ア 音節数(音数)(※)の比較において、ともに多数音であるか
※ 仮名文字1字が1音節をなし、拗音(キャ・シャ・ビョ)は2文字で1音節をなします。長音(ー)、促音(ッ)、撥音(ン)もそれぞれ1音節をなします。
(例)比較的長い称呼で1音だけ多い場合
「ビプレックス」と「ビタプレックス」
イ 一つのまとまった感じとしての語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落)において共通性があるか
(例)一つのまとまった感じとしての語が切れる場合
「バーコラルジャックス」と「バーコラルデックス」
【その他の事情から類似している要素】
ア 2音相違するが、上記【音質】【音量】【音調】【音節】の要素の組み合わせである場合
(例)「コレクシット」と「コレスキット」
イ 相違する1音が拗音(シャ)と直音の差にすぎない場合
(例)「シャボネット」と「サボネット」
ウ 相違する音の一方が外国語風の発音をするときであって、これと他方の母音又は子音が近似する場合
(例)「TYREX」と「TWYLEX」
(タイレックス) (トウイレックス)
「FOLIOL」と「HELIOL」
(フォリオール) (ヘリオール)
エ 相違する1音の母音又は子音が近似する場合
(例)「サリージェ」と「サリージー」
「セレラック」と「セレノック」
オ 発音上、聴覚上印象の強い部分が共通する場合
(例)「ハパヤ」と「パッパヤ」
カ 前半の音に多少の差異があるが、全体的印象が近似する場合
(例)「ホピスタン」と「ホスピタン」
(4) 観念
観念とは、商標に接する需要者が、取引上自然に想起する意味又は意味合いを言います。
商標構成中の文字や図形等から、需要者が想起する意味又は意味合いが、互いにおおむね同一であるか否かを考察して、類似かどうかを判断します。
【観念が類似している例】
【観念が類似していない例】
3.おわりに
せっかく商標を出願しても、商標登録がされなければ意味がありません。
そのため、出願しようとする商標が、既に登録されている他の商標と類似していないかどうか、外観・称呼・観念を総合的に判断して、確認しておく必要があります。
しかし、商標の類似性判断は、時に難しい判断が伴います。
当事務所には、業務提携先の特許事務所がございますので、商標の類似性判断に関し疑問がございましたら、ぜひともご連絡下さい。
以上
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