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弁護士コラム
Column
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公開日:2022.8.5
企業法務~最近の社会情勢から考える顧問弁護士の役割~
弁護士法人PROの弁護士の伊藤崇です。
たいへんに暑い毎日が続いております。
新型コロナウィルス感染症の世界的感染拡大、ロックダウン等による製造・物流の混乱、ロシアによるウクライナ侵攻、それらに起因する物価上昇・・・・
社会情勢は目まぐるしく変動を続けており,一寸先は闇,というのは正にそのとおりであると感じざるを得ません。
今回は,そうした社会情勢の変動を踏まえながら,企業活動における顧問弁護士の役割について取り上げたいと思います。
1.最低賃金の引き上げ改定
2022年度の最低賃金の目安が全国平均で時給961円になる見通しです。
前年度比の上げ幅は31円となり、これは前年上げ幅の28円を上回る過去最大の上げ幅になります。
東海3県(愛知・岐阜・三重)では,愛知県・三重県が31円,岐阜県が30円の引き上げになる見通しです。
予定通り引き上げが行われるとすると,2022年度改定後の最低賃金は愛知県が986円(現在955円),岐阜県が910円(現在880円),三重県が933円(現在902円)になります。
政府は,できる限り早期に平均1000円以上を目指す,との目標を掲げていますので,今後も最低賃金の引き上げが続くことが予想されます。
今回の最低賃金の引き上げは,かねてからの賃金引き上げの動きと相まって,今年に入ってからの物価上昇も踏まえてそのような上げ幅になったものと思います。
引き上げ後の最低賃金は例年通りであれば本年10月頃から実施される見通しです。
自社従業員の賃金が改定後の最低賃金を割り込んでいないか確認していく必要があります。
2.物価上昇 本年秋から値上げラッシュ
毎日の生活や企業活動の中で物価上昇を痛感する局面も多くあるように思います。
一部報道では,2022年秋口からさらに6000超の品目で再値上げ・再々値上げが予定されているとのことです。「再」値上げ,「再々」値上げというところが恐ろしく感じます。
値上げにも限界があるように思いますので,値上げ幅を抑制するためのコストカットを行わざるを得ず,下請企業・孫請企業や個人事業主等にしわ寄せがいってしまうのでは,と危惧も感じます。
他方で,一部の企業では,物価上昇対策として,自社従業員にインフレ特別手当を支給する動きも出ています。
企業にとって採用や離職防止の必要性・重要性は年々高まる一方です。物価上昇に関して従業員向けの対策を講じることは採用や雇用維持に好影響を生じさせることはもちろんのこと,企業のレピュテーション向上にも寄与する素晴らしい取組であると考えます。
こちらの企業では,インフレ特別手当は特別一時金(賞与)として支給され,支給金額は1ヶ月あたりの勤務時間によって決定する,とされています。
筆者からすると,支給金額を1ヶ月あたりの勤務時間によって決定している点は同一労働同一賃金を意識しているように感じられて,なるほど,と唸った点です。実務上も参考になる点が多くあるように感じます。
3.コロナ関連融資の返済開始
2020年から始まったコロナ関連融資(実質無利子・無担保融資なので「ゼロゼロ融資」とも呼ばれます。)ですが、本コラムをお読みいただいている方の中にも、返済猶予の期間が終わり既に返済を開始している、あるいは、本年中、来年から返済が始まる、という企業の方も数多くおられるであろうと思います。
コロナ関連融資が始まった2020年当時は、例えば上海の長期間ロックダウンによる混乱やロシアのウクライナ新興に端を発する物価上昇といった現在の社会情勢は予見不可でしたでしょうから、コロナ関連融資の返済に関しても、例えば金融機関単位で返済猶予の期間を延長するなどの何らかの措置が講じられるかもしれません。
とはいえ、企業の倒産件数や自主廃業件数が増加することは避けられないようにも思います。
企業においては、取引先・仕入先の倒産対応や与信管理に意識を向ける必要性が増えていくと感じます。
4.人口動態・生産年齢人口の推移
下記グラフは平成29年時点に公表された日本の将来推計人口に関する資料です。
2015年に12,709万人であった総人口が2065年には9,000万人を割り込み,総人口に占める生産年齢人口(15歳~64歳)も60.7%から51.4%にまで年々減少していくことが推計されています。
企業活動においてこれを見た場合,人材の確保は年々厳しくなっていき(語弊を恐れずに言えば,人材の奪い合い,取り合いの状況になります),後継者の確保もさらに困難になっていくことは避けられません。
企業活動そのものにおいても人口減少や人口に占める年代別(老年・生産年齢・年少)割合の推移を意識した戦略を練っていく必要があります。
最近のたいへんに厳しい社会情勢と相まって自主廃業を決断せざるを得ない企業は増加するものと予測され,中小企業間のM&Aはますます増えていくものと思います。
5.企業活動における顧問弁護士の役割
社会情勢が変動し、企業においても変化への対応が求められるわけですから、企業を支える顧問弁護士の側にも変化が求められます。
有事の時に最前線に立って対応する、という弁護士の役割自体は今後も変わることはないと考えます。
ただ、何かあってから相談を受ける、という受け身のスタイルからは変化していく必要があるでしょう。
激変する社会情勢の中、中小企業を支えるために顧問弁護士には次のような役割が求められていると考えます。
・受け身型ではなく、弁護士の側から状況確認に努めるとともに情報発信をすること
・中小企業法務に求められる広範な法領域(契約法務,会社法,民法,労働法,下請法,不正競争防止法,景表法,特商法,消費者契約法,M&Aその他)について幅広く対応していくこと
・法律の知識だけではなく社会情勢、企業活動、経営に関する知識・理解を備えていること
・信頼できる他士業と協業し、法律だけではなく、税・労務・知的財産・補助金・助成金など中小企業が必要とする士業サービスを横断的に提供できること
当事務所も顧問先企業の皆様にとって上記のような役割を提供できるよう今後も努力を重ねて参りたいと思います。
以上
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