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公開日:2022.8.31
企業法務均等論について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「均等論」について取り上げます。
1.はじめに
(1) 特許権の侵害の判断方法について
均等論という言葉は、初めて聞く方が多いと思います。
均等論とは、特許権の侵害に関する考え方ですので、先に、どのような場合に特許権の侵害になるのかを説明します。
ある製品(これを「対象製品」といいます。)が特許権を侵害するといえるためには、それが「特許発明の技術的範囲」に属するといえなければなりません。
「特許発明の技術的範囲」に属するというのは、要するに、対象製品が、特許発明と同一の発明(=技術的思想)を用いているということです。
しかし、発明は目に見えるものではありません。
そこで、「特許発明の技術的範囲」は、特許公報に掲載されている「特許請求の範囲」の記載(発明を文字で表現している部分)を見て判断します。
具体的には、「特許請求の範囲」を構成要件に分説して、対象製品の構成と対比して、全ての構成要件を充足するかどうかで判断されます。
【特許発明】 【対象製品】
1 構成要件A 1 構成a
2 構成要件B 2 構成b
3 構成要件C 3 構成c
4 構成要件D 4 構成d
5 構成要件E 5 構成e
特許発明と対象製品が、上記のように分説できるとして、これらを比較して、
構成要件A=構成a
構成要件B=構成b
構成要件C=構成c
構成要件D=構成d
構成要件E=構成e
であれば、対象製品は、特許発明と同じ技術的思想を用いていることになりますので、「特許発明の技術的範囲」に属することになります。
対象製品が「特許発明の技術的範囲」に属する場合、特許権侵害となります(この場合を文言侵害といいます)。
しかし、
構成要件A=構成a
構成要件B=構成b
構成要件C≠構成c
構成要件D=構成d
構成要件E=構成e
というように、1つでも構成要件を充足しない場合には、対象製品は、「特許発明の技術的範囲」に属しないことになります。
(2) 均等論とは
上記のとおり、対象商品が特許発明の構成要件を1つでも充足しない場合には、特許権侵害とならないのが原則です。
しかし、この原則を貫くと、不都合が生じることがあります。
発明を出願する際に、あらゆる侵害形態を想定して、特許請求の範囲を記載することは不可能です。
例えば、天然ゴムしかなかった時代に、人工ゴムを記載することは不可能です。
また、透明な部材としてガラスしかなかった時代に、透明な部材としてプラスチックを記載することは不可能です。
しかし、その後、人工ゴムやプラスチックが開発されると、天然ゴムを人工ゴムに、ガラスをプラスチックに置き換えることが簡単にできるようになります。
そうすると、発明の作用効果は変わらないのに、天然ゴム≠人工ゴム、ガラス≠プラスチックだからといって、構成要件を充足しないと考えると、特許権侵害が簡単に回避されてしまう結果となりますが、これは明らかに不当です。
そこで、ある製品が、特許発明の構成要件を充足しない場合であっても、その充足しない部分が、一定の要件を満たす場合に、特許権侵害を認める考え方が裁判例で認められるようになりました。
これが、均等論という考え方です。
では、どのような場合に、均等論が認められて、特許権の侵害となるのでしょうか。
2.均等論の要件
以下の(1)~(5)の要件を全て満たす場合に、均等論が認められて、特許権の侵害となります。
(1) 非本質性
構成要件が異なる部分(上記の例で言えば、構成要件C≠構成c)が特許発明の本質的部分ではないこと
そもそも、特許発明の本質的部分に相違があるのであれば、発明によって課題を解決する方法が異なることを意味しますので、同じ発明とは評価できないからです。
(2) 置換可能性
構成要件が異なる部分(上記の例で言えば、構成要件C≠構成c)について、構成要件Cを構成cに置き換えたとしても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果(※)を有すること
同じ発明と評価できるのであれば、特許発明と対象製品は同一の作用効果を有しているはずです。
ですので、同一の作用効果を有していないということは、同じ発明とは評価できないからです。
※ 同一の作用効果とは、同じ課題に対して、同じ解決方法を用いて解決することをいいます。作用効果は、特許請求の範囲ではなく、特許明細書の記載に基づいて判断します。
(3) 容易想到性
(2)のように置き換えることについて、当業者(※)が、対象製品の製造の時点で容易に想到する(思いつく)ことができたものであること
容易に思いつくことができないものであれば、それを思いついたことを評価すべきですので、同じ発明と評価できないからです。
※ 当業者とは、発明の属する分野における通常の知識を持っている人のことです。
(4) 公知技術の除外
対象製品が、特許発明の出願時における公知技術(※)と同一でないこと、かつ、当業者が公知技術(※)から出願時に容易に推考できたもの(思いつくことができるもの)でないこと
対象製品が、公知技術と同一であったり、公知技術から簡単に考えつくものであれば、そもそも特許権が与えられないので、特許を与えられた特許発明と同一とは評価できないからです。
※ 公知技術とは、出願の時点で既に公に知られている技術のことです。
(5) 意識的除外をしていない
対象製品が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたもの等でないこと
特許発明の出願手続において、対象製品を特許請求の範囲から意識的に除外していた場合、特許権侵害を主張する段階で、対象製品が特許発明の技術的範囲に属すると主張することは、前に言ったことと矛盾する主張になるからです。
3.おわりに
せっかく特許権の有無を調査して、特許権を侵害しないように発明を行ったとしても、均等論を理由に特許権侵害となってしまった場合、製品の販売停止を求められたり、多額の損害賠償を請求される可能性があり、企業活動に大きな影響が出てしまいます。
そのため、発明を行うに当たっては、単に、特許発明の構成要件と対象製品の構成を比較して、異なる部分があるだけは十分ではなく、均等論の要件を満たすかどうかも確認しておく必要があります。
しかし、均等論の要件を満たすかどうかの判断は、難しいものです。
均等論の判断を含む特許権の侵害に関し疑問がございましたら、弊事務所までご相談ください。
以上
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