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弁護士コラム
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公開日:2022.10.14
企業法務下請法を活用した取引価格の改定(値上げ)について
弁護士法人PROの弁護士の伊藤崇です。
原材料費やエネルギーコスト、労務費の上昇、円安の影響等によってコストの上昇が続いています。
コスト上昇分を取引価格に反映させる、つまりは値上げを検討したい、そうした中小企業は数多くおられるものと思います。
今回は、下請法を活用した取引価格の改定(値上げ)について取り上げたいと思います。
1.下請法(下請代金支払遅延等防止法)の基本
本稿が取り上げる取引価格の改定は下請法を活用したものです。
そこで、まず、下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法 以下「下請法」)の基本についてご紹介します。
⑴下請法の適用範囲
下請法は、取引の内容(物品製造、修理、情報成果物(ソフトウェアなど)の作成、役務(サービス)提供)と親事業者・下請事業者の資本金の金額によって適用範囲が定められています。
それを図示すると、以下の通りになります。
まずは、取引価格の改定を求めようとする取引先との取引が上記図表に当てはまるか否か、つまりは、自社が下請法上の下請事業者に該当するか否か、を確認する必要があります。
⑵買いたたきの禁止・報復措置の禁止
下請法では、親事業者に複数の義務や禁止行為を規定しています。
取引価格の改定と特に関係が深いものは以下の2つです。
①買いたたきの禁止
通常支払われる対価に比べ著しく低い下請代金の額を不当に定めること、が禁止されています。
②報復措置の禁止
中小企業庁又は公正取引委員会に対し、禁止行為を行ったことを知らせたとして、取引を停止するなど不利益な取扱いをすること、が禁止されています。
親事業者には、買いたたき行為が禁止されています。
次項で詳しく取り上げますが、原材料費やエネルギーコスト、労務費といったコストが上昇しているのに、値上げをせず、従来どおりの取引価格に据え置くことは、下請法で禁止されている【買いたたき】に該当する場合があります。
2.原材料費、エネルギーコスト、労務費等のコスト上昇と買いたたき
買いたたきとは、通常支払われる対価に比べ著しく低い下請代金の額を不当に定めること、を言います。
そして、買いたたきに該当するか否かは、
を総合考慮して判断されます。
従前と同じ品質・数量の商品・サービスの提供をするために、原材料費やエネルギーコスト、労務費等のコスト部分が上昇した場合、そのコスト部分を価格に転嫁することを正当に拒否するためには、親事業者側にも相応の根拠や説明が求められます。
公正取引委員会が定める下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準(以下「運用基準」)においても、以下の基準が示されています。
第4 親事業者の禁止行為
5 買いたたき
⑵ 次のような方法で下請代金の額を定めることは、買いたたきに該当するおそれがある。
ウ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
エ 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、下請事業者が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面,電子メール等で下請事業者に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと。
※上記運用基準は、『労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあること』を明確化するために改正が行われたものです。
また、運用基準の下請法違反の違反行為事例でも以下の事例が示されています。
運用基準に明記されているように、下請事業者の原材料費、エネルギーコスト、労務費等のコストが上昇しており、そのコスト上昇分の取引価格への反映(つまりは値上げ)を、親事業者に申し入れた場合、親事業者が、下請事業者と協議をすることなく、あるいは、値上げをしない理由を書面等で回答せずに、一方的に取引価格を据え置くことは、下請法が禁止する買いたたきに該当する可能性が高いです。
また、原油価格の高騰や電気料金の高騰によるコスト上昇、最低賃金の引き上げ等による労務費の上昇についても、運用基準が定める「労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇」に含まれます。
下請事業者としては、下請法や運用基準における取扱いをバックボーンとして、取引価格の改定(値上げ)の必要性と根拠(主にはコスト上昇の状況説明が中心になろうかと思います。)を整理し、その上で、まずは、親事業者に対し、取引価格の改定(値上げ)の申し入れを行うところから始めていただくのが適切と考えます。
ただ、下請事業者が求めた取引価格の改定(値上げ)に対して親事業者が満額回答しなければならないかというとそこまでではありません。親事業者側の事情もあるところであり、下請法も満額回答までを親事業者に義務づけているわけではないのです。
まずは下請事業者から取引価格の改定(値上げ)の必要性と根拠を親事業者に伝えて、取引価格改定の協議の場を持ち、その中で取引価格の改定を実現していくことが求められます。
3.親事業者の下請法違反の通報制度
親事業者には下請法上の義務や禁止行為が課せられているところです。
とはいえ、親事業者の中には下請法を遵守しない事業者も一定数存在するところと思われます。
下請事業者が親事業者の下請法違反を行政に通知することは相当勇気と覚悟のいる行為です。下請法で禁止されているとは言えども、やはり親事業者からの報復措置を恐れ、具体的な行動に出れずに自社が我慢してしまう、ということも多いように思います。
国もそうした事情も考慮して、下請事業者が、中小企業庁・公正取引委員会に対して、匿名で、「買いたたき」などの下請法違反行為を行っていると疑われる親事業者の情報提供ができる制度(中小企業庁:「違反行為情報提供フォーム」)も準備されています。
上記に加えて、大手企業による価格転嫁拒否の悪質事例については企業名を公表する制度の準備が進められています。
国は下請事業者への価格転嫁(値上げ)の円滑化を国策として推進しています。
発注側企業においてもさらに注意を要する社会情勢になっているのです。
以上
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