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公開日:2022.12.16
企業法務【M&A】どの方法で実行する?中小企業のM&Aのやり方(ストラクチャー)の種類と選び方
弁護士法人PROの弁護士の柏木太郎です。
このコラムでは、M&Aを行うための手法(ストラクチャー)の種類や選び方、各ストラクチャーを実行する上での注意点をご紹介します。
特に中小企業では、後継者不足の影響から生存戦略としてのM&Aが増加しています。
ストラクチャーの選択や実行方法を誤ると、せっかくのM&Aが無効になったり、訴訟を提起されたりするリスクが発生します。
M&Aを検討している場合、ぜひ弊所へお気軽にご相談ください。
1.主なストラクチャー
M&Aのストラクチャーには様々な種類があります。
上場企業であれば金融商品取引法に則った株式公開買付(TOB)で一定数の株式を取得した後、残存株主を株式交換や株主等売渡請求により排除する(スクイーズ・アウト)手法がとられるケースが多いです。
上場していない中小企業においては、①株式譲渡 ②事業譲渡(譲受) ③会社分割が主なストラクチャーとなりますので、以下ではこの3つについてご紹介していきます。
①株式譲渡とは、買主と売主(対象会社の既存株主)の間で株式譲渡契約を締結し、それに従い譲渡対価と引き換えに株式が譲渡されるものです。
会社全体の支配権を取得することが目的となります。中小企業のM&Aでは選択されることの多いストラクチャーです。
②事業譲渡(譲受)とは、有形資産、人材、特許等の知的財産権、ブランド、顧客リストなど有機的一体となって機能する事業そのものを移転することをいいます。
会社全体ではなく、特定の事業のみが移転することとなります。
③会社分割は、ある事業に関して有する権利義務を既存の他の会社に承継させる吸収分割と、新たな会社に承継させる新設分割の2種類があります(分割対価を受け取るのが分割会社なのか分割会社の株主なのかによってさらに2種類に分かれます。手続の詳細は別記事でご紹介します)。
グループ会社間のM&Aでは、包括承継によりまとめて権利義務を移転できること、簿外債務の承継リスクがあるもののグループ会社なのでデューデリジェンスが容易であることから、会社分割が選択されることが多いです。
2.各ストラクチャーの比較
①株式譲渡
M&Aの対価 |
金銭等 |
株主総会 |
不要(例外あり)※ |
債権者保護手続 |
不要 |
反対株主の株式買取請求権 |
なし |
許認可 |
影響なし |
債務承継リスク |
あり |
※中小企業の多くは株式に譲渡制限をかけています。この場合、株式を譲渡するためには株主総会の決議等が必要になります。
②事業譲渡
M&Aの対価 |
金銭等 |
株主総会 |
必要(例外あり) |
債権者保護手続 |
不要 |
反対株主の株式買取請求権 |
あり |
許認可 |
再取得が必要 |
債務承継リスク |
なし |
③会社分割
M&Aの対価 |
株式(金銭も可) |
株主総会 |
必要(例外あり) |
債権者保護手続 |
必要 |
反対株主の株式買取請求権 |
あり |
許認可 |
影響なし(例外あり) |
債務承継リスク |
低減可能 |
3.ストラクチャーの選び方
手続の簡単さを重視するなら、株式譲渡が最もおすすめです。
会社分割のような債権者保護手続は(原則として)不要ですし、事業譲渡のように移転する事業の選定も不要です。株式を取得するだけの対価を用意できれば実行は容易でしょう。
会社全体の支配権の移転ではなく、特定の事業(ブランド)のみの移転を目的とし、かつ、簿外債務の承継リスクを排除したいならば、事業譲渡(譲受)がおすすめです。
移転対象の事業はM&Aの当事者が自由に選定でき、従業員の雇用条件も事情に応じて設定可能ですから、より自由度の高いオーダーメイドのM&Aが実現できます。
事業を移転しても法人格に影響はありません(会社はそれまでどおりの社名で存続する)から、仮に簿外債務が存在してもそれを引き継ぐことはありません。
もっとも、事業に含まれる資産(ex不動産、自動車)の一つひとつに譲渡手続と対抗要件(ex登記)を行う必要があるため、手続全体のボリュームは3つのストラクチャーの中で最も大きくなりやすいです。
特定の事業の移転を目的とし、かつ、対象会社が許認可を要する事業を営んでいる場合は、会社分割がおすすめです。
会社分割によれば、特定の事業に関する一切の権利義務や法的地位が移転(包括承継)しますから、M&Aの後に改めて許認可を取得する必要がありません(例外あり)。
事業譲渡のような資産ごとの手続も不要ですから、短期間でM&Aを完了できる点もメリットです。
なお、従業員の引継ぎにおいては「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に基づき、所定の手続が必要になります。
包括承継のため、分割対象を限定したとしても簿外債務の承継リスクを完全に排除できない点は注意が必要です。
4.まとめ
今回は、中小企業におけるM&Aの主なストラクチャーと、その選び方のポイントをご紹介しました。
ストラクチャーの選択を誤ると、その後のM&Aの手続がうまく進まなかったり、最悪の場合はM&Aが途中で頓挫してしまう可能性もあります。
企業価値向上や後継者確保のため、自社に適したストラクチャーを見定めなければなりません。
M&Aを検討している方は、お気軽に弊所へご相談ください。
⇒【M&Aの全体的な流れはこちら】
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