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弁護士コラム
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公開日:2023.2.3
企業法務2023年に施行される主な改正法について
弁護士法人PROの弁護士の伊藤崇です。
今回は、2023年に施行される改正法のうち、企業活動や私たちの生活に関係の深い主要なものをご紹介します。
企業活動に関する改正法には、就業規則や契約書・規約の変更、見直しを要する改正事項が多数あります。是非ご確認ください。
1.労働基準法関係
⑴ 月60時間超の時間外労働の割増賃金率の引き上げ
2010年4月に施行された改正労働基準法により、大企業は月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%以上から50%以上へと引き上げられました。
中小企業については、割増賃金率の引き上げの適用が猶予されていましたが、
2023年4月1日より、中小企業も月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が25%以上から50%以上へと引き上げられます。
引用元:【中小企業の皆様へ】周知パンフレット(PDF) [厚生労働省ホームページ]
割増賃金引き上げの対象になるのは、2023年4月1日から労働させた時間についてです。
・月60時間超の時間外労働を深夜(22時~5時)の時間帯に行わせた場合、割増率は75%=深夜割増率25%+時間外割増率50%
また、法定休日に行った労働時間は月60時間の時間外労働時間の算定には含みませんが、法定外休日(多くは土曜日)に行った労働時間は月60時間の時間外労働時間に含みます。
今回の割増賃金率引き上げにより、就業規則や賃金規程の時間外労働に対する割増賃金率を「月60時間超の場合は50%以上」に修正する必要があります。
賃金に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項となりますので、必ず変更を行い、所轄の労働基準監督署長宛てに届け出なければなりません。
⑵ 給与のデジタル払い
現在は、現金・銀行口座振込のみが給与支払方法として認められていますが、2023年4月よりデジタル払いを方法の一つとして追加することが可能になります。
但し、デジタル払いには対象となる労働者の範囲やデジタル払いに利用する業者(●●Pay等)の範囲等を記載した労使協定を締結する必要があります。
また、使用者は引き続き従来通りの銀行口座振込による支払方法を選択することも可能です。
デジタル払いで使用できる口座は1円単位で現金化できる口座のみが対象となり、現金化できないポイント・仮想通貨(暗号資産)での支払は認められていない他、デジタル払いには限度額が定められており、上限100万円を超えた部分は銀行口座に振込む必要があります。
2.女性活躍推進法、育児・介護休業法関係
⑴ 男女間賃金格差の開示義務
2022年7月から、従業員数301人以上の企業を対象に男女の賃金の差異の把握と外部公表が義務化されました。
義務化の対象となる企業は、直前の事業年度の取得率を毎年公表していくことになります。
例:事業年度が4月~3月の場合
2022年4月~2023年3月の男女の賃金の差異の実績を、おおむね2023年6月末までに公表。
⑵ 男性育休取得率の公表
2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2023年4月より常時雇用する労働者が1,001人以上の企業に対し、「男性の育児休業取得率等の公表」が義務化されます。
公表する内容は、「①男性の育児休業等の取得率」または「②男性の育児休業等と育児目的休暇の取得率」のいずれかで、義務化の対象となる企業は『男女間賃金格差の開示義務』と同様に、直前の事業年度の取得率を毎年公表していくことになります。
改正育児・介護休業法に関するコラムはこちら
2022年2月10日公開 弁護士コラム「改正育児・介護休業法の施行について」
3.消費者契約法関係
⑴ 新たな契約取消権の追加
消費者契約法は、事業者と消費者の契約に適用される法律です。
事業者が消費者を誤った情報で誤認させたり(誤認惹起型)、居座り等で消費者を困惑させる(困惑型)ような不当な「勧誘」をした場合、消費者は結んだ契約を取り消すことができます。これを『取消権』と言います。
消費者契約法の改正が2023年6月1日施行され、取消権のうち困惑型に該当する行為が追加になります。
<従来の該当行為>
・不退去
・退去妨害
・不安をあおる告知
・恋愛感情等の好意の不当な利用
・加齢等による判断力低下の不当な利用
・霊感等による知見を用いた告知
・契約締結前の債務内容の実施等(契約前なのに目的物を用意して代金を請求する等)
<追加項目>
・勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘
・威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害
・契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にする
⑵ 解約料の説明の努力義務
改正前の消費者契約法には、解約時の解除料や解約料の説明に関する規定がなく、消費者は請求された解約料が不当なのか判断することができませんでした。
今回の改正により『事業者は、消費者から求められた場合、これらの解除料等の算定の根拠を説明すべき』と規定されました。
事業者側としては、解除料の算定にあたって、説明の準備として算定根拠の整理等を行っておく必要があります。
⑶ 免責の範囲が不明確な条項の無効
利用規約の中に、下記のような条項を目にしたことはないでしょうか?
・ 『法令に反しない限り、●万円を上限として賠償します』
・『当社の責めに帰すべき事由により損害が生じた場合、当社は●万円を上限として賠償します』
・『当社は、本サービスに関してユーザーが被った損害につき、当該ユーザーが当社に支払った対価の累計額を超えて賠償する責任を負いません』
このような条項を記載し、消費者に対して免責を主張する方法は、企業の事業リスクを最小化するための常套手段となっています。
しかし、今回改正された消費者契約法により消費者契約法8条3項が新設され、免責範囲を明確にしない条項は無効になりました。
WEBサービスやアプリサービスを取扱う企業は、自社の利用規約を見直し、「当社の損害賠償責任は、当社に故意又は重大な過失がある場合を除き、顧客が支払った本サービスの手数料の累計額を上限とする」等、具体的な規約に変更する必要があります。
⑷ 事業者の努力義務の拡充
契約締結時だけでなく、契約解除時の解除権について、解除権行使に必要な情報提供や解約料の算定根拠の概要説明を行う努力義務が課されました。
また勧誘時の情報提供について、改正前は「消費者の知識及び経験を考慮した上で」と規定されていましたが、消費者の年齢や心身の状態も理解度に大きくかかわってくることから、「事業者が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で」と変更されました。
さらに、定型約款(※)の表示請求権に関する情報提供も努力義務として事業者に課されることとなりました。
※約款とは、不特定多数を相手方として契約するために作成された定型的な内容の取引条項をいい、契約書と異なり個別の交渉は行われません。約款のうち、民法上の要件を満たしたものを「定型約款」と言います。またこの努力義務は、書面による交付が行われている等、定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を取っている場合には課されません。
4.不動産登記制度、土地・建物の利用に関する民法関係
所有者不明土地(※)等の発生予防と利用の円滑化のため、民法が改正されました。
※「所有者不明土地」とは……
ⅰ不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
ⅱ所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地
⑴ 不動産登記制度の見直し(発生予防)
相続により不動産を取得した場合、そのことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務化され、正当な理由のない申請漏れは10万円以下の過料の対象となります。(2024年4月1日施行)
⑵ 土地を手放すための制度創設(発生予防)
相続土地国庫帰属制度の創設により、相続で取得した土地を手放して国庫に帰属させることが可能になります。(2023年4月27日施行)
但し、モラルハザード事案への対処のため、一定の要件が設定され、法務大臣が要件について審査を実施します。
<要件>
・通常の管理または処分をするに当たり過分の費用または労力を要する土地
・建物や工作物等がある土地
・土壌汚染や地中埋設物がある土地
・危険な崖がある土地
・権利関係に争いがある土地
・担保権等が設定されている土地
・通路など他人によって使用される土地
⑶ 土地・建物の利用に関する民法の見直し(利用の円滑化)
所有者不明土地問題を契機に、現行民法が現代の社会経済情勢にそぐわないことが明らかになってきました。
調査をしても土地の所有者が特定できない又は所在が不明な場合には、土地の円滑な利用や管理が困難になるため、下記の通り制度の見直し・創設をおこないました。(2023年4月1日施行)
以上、2023年に施行される主な改正法についてご紹介しました。
当事務所では、改正法の施行に伴う各種ドキュメント類(規程・マニュアル・フロー)の整備や、相談窓口の立ち上げ、研修業務、外部相談窓口業務の対応など、幅広い業務に対応しております。
法改正の対応でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
以上
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