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公開日:2023.5.26
企業法務【名古屋/インターネット問題】特定発信者情報の開示について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、「特定発信者情報の開示」について取り上げます。
1.はじめに
インターネット上で、自社の名誉を傷つけるような事実無根の書き込みなど、自社の権利が侵害されるような投稿がなされた場合、投稿者を特定して損害賠償請求を行うことが考えられます。
そして、投稿者を特定するためには、以下の2つの情報を取得する必要があります。
① サイト管理者や運営会社から投稿記事に関するIPアドレスやタイムスタンプ(投稿の日時)の通信記録を取得する。
② ①の情報からIPアドレスの割り当てを受けているプロバイダ会社を特定して、プロバイダ会社からプロバイダ契約の契約者の住所、氏名等の発信者情報を取得する。
これらの取得手続を1つの手続の中で行うことができるようになったことは、弁護士コラム「【令和4年10月1日施行】プロバイダ責任制限法の改正について」でお伝えした通りです。
しかし、例えば、Twitter、Facebook、Instagramなどのログイン型のSNSの場合は、投稿記事に関するIPアドレス(①)が記録・保存されていないことがあります。
投稿記事に関するIPアドレス(①)が特定できなければ、当該IPアドレスの割り当てを受けているプロバイダ会社(②)も特定できません。
そのような場合であっても、投稿記事を投稿するに当たってSNSにログインした際のIPアドレスは保存されています。
そして、SNSにログインした際のIPアドレスから、プロバイダ会社の契約者の住所、氏名が判明すれば、その者が投稿記事を投稿した者と特定することができます。
そのため、投稿記事そのものに関する通信記録ではないものの、投稿者の特定のために、SNSにログインした際のIPアドレス(ログイン時IPアドレス)等についても開示を認める必要性がありました。
そこで、令和4年10月1日に施行されたプロバイダ責任制限法の改正によって、ログイン時IPアドレス等についても「特定発信者情報」として開示が認められる要件が定められました。
2.特定発信者情報の開示について
(1) 特定発信者情報とは
特定発信者情報とは、侵害関連通信(※1)の発信者情報(※2)のことを言います。
要するに、特定発信者情報とは、利用者がSNS等のアカウントログイン時等の通信やSMS等による認証通信に用いられたIPアドレスやタイムスタンプのことです。
特定発信者情報は、投稿記事の投稿者と同一人物の情報である可能性が高いことから、開示自体は認められます。
しかし、投稿記事そのものに関する情報ではないため、投稿記事に関する発信者情報を求める場合に比べて、開示の要件が加重されています。
※1 侵害関連通信とは
① 利用者がSNS等のアカウント作成時の通信やアカウント作成の際のSMS等による認証通信(投稿記事よりも前に行われたもの)
② 利用者がSNS等のアカウントにログインする際の通信やアカウントにログインする際のSMS等による認証通信(ただし、投稿記事と最も時間的に近接するもの)
③ 利用者がSNS等のアカウントからログアウトする際の通信(ただし、投稿記事と最も時間的に近接するもの)
④ 利用者がSNS等のアカウントを削除した際の通信(投稿記事よりも後に行われたもの)
のことを言います。
※2 発信者情報(特定発信者情報に関するもの)とは
① 侵害関連通信のIPアドレスとそのIPアドレスと組み合わされたポート番号
② 侵害関連通信の移動端末設備からのインターネット接続サービス利用者識別符号(携帯電話事業者がその利用者に割り当てている識別符号)
③ 侵害関連通信のSIM識別番号(SIMカード等に割り当てられている固有番号)
④ 侵害関連通信のSMS電話番号(SMS認証のためのSMS通信に用いられた電話番号)
⑤ 上記①~④のタイムスタンプ
のことを言います。
(2) 特定発信者情報開示の要件について
① 通常の発信者情報は
ア 権利侵害の明白性
イ 開示を受ける正当な理由
が開示の要件とされています。
権利侵害の明白性や開示を受ける正当な理由については、別の機会に詳しく説明したいと思います。
② 特定発信者情報は
ア 権利侵害の明白性
イ 開示を受ける正当な理由
ウ 以下のどれかの要件を満たす場合
・サイト管理者や運営会社が投稿記事に関する通常の発信者情報を持っていないとき
・サイト管理者や運営会社が投稿記事に関し、住所のみ、氏名・名称のみ、電話番号のみ、メールアドレスのみ、タイムスタンプのみを保有しているとき
・サイト管理者や運営会社から投稿記事に関する通常の発信者情報の開示を受けたが、発信者が特定できないとき
が開示の要件とされています。
通常の発信者情報に比べて、特定発信者情報は、ウの要件が加重されていますので、注意が必要です。
(3) 特定発信者情報の開示を受けた後の手続について
特定発信者情報(例えば、ログイン時の通信に関するIPアドレスとタイムスタンプ)の開示を受けた後は、開示されたIPアドレスとタイムスタンプを元に、プロバイダ会社を特定して、プロバイダ会社の保有する契約者の情報の開示を求めることになります。
この場合に、プロバイダ会社が保有する契約者の情報の開示を求めるための要件は、通常の発信者情報の開示の要件と同じです(権利侵害の明白性と開示を受ける正当な理由の2つです)。
3.おわりに
自社の名誉を傷つけるような事実無根の書き込みなど、自社の権利が侵害されるような投稿を誰が行ったか特定するためには、通常の発信者情報の場合と特定発信者情報の場合とで開示の要件が異なるなど、専門的な知識が必要となります。
もし、自社の権利を侵害する投稿記事の投稿者を特定したい場合には、弁護士までご相談ください。
以上
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