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公開日:2023.6.30
企業法務【令和5年6月1日施行】消費者契約法の改正について
弁護士法人PROの弁護士の松永圭太です。
今回は、令和5年6月1日に施行された「消費者契約法の改正」について取り上げます。
1.はじめに
消費者契約法とは、消費者契約(事業者と消費者との間の契約)についてのルール(契約の取消や無効な条項)を定めた法律です。
消費者契約法は、消費者と事業者との間に存在する情報力や交渉力の大きな格差を是正することによって、消費者を保護することを目的としています。
企業と消費者との間の契約(労働契約は除きます)には、消費者契約法が適用されますので、消費者と取引を行う企業にとっては、今回の改正の内容を把握しておくことが重要です。
改正された消費者契約法は、令和5年6月1日から施行されています。
今回の改正の主なポイントは、以下のとおりです。
1 契約の取消権の追加
2 解約料の説明の努力義務
3 免責の範囲が不明確な条項の無効
4 事業者の努力義務の拡充
2.契約の取消権の追加について
(1)改正前の取消権について
改正前においては、以下の場合に、消費者が契約を取り消すことができるとされていました。
① 不実告知
事業者が、契約締結の勧誘の際に、消費者契約の重要事項(※)について事実と異なることを告げた場合です。
例えば、実際には築年数が10年である建物について、「築年数が5年である」と説明した上で、消費者に建物を購入させた場合などです。
② 断定的判断の提供
事業者が、契約締結の勧誘の際に、価格や消費者が受け取るべき金額など将来における変動が不確実な事項について、確実だと断定的な判断を提供した場合です。
例えば、投資信託などの元本割れの可能性がある取引において、「値上がり確実」「元本割れはしない」などの断定的な情報を提供する場合などです。
③ 不利益事実の不告知
事業者が、契約締結の勧誘の際に、消費者に対して、ある重要事項(※)又はその関連事項について、消費者の利益となる旨を告げながら、当該重要事項について消費者の不利益となる事実をわざと告げなかった場合です。
例えば、事業者がリゾートマンションの景観の良さを消費者に宣伝しながら、その数か月後にはその景観を台無しにするような建物の建設計画があることを知っていたのに、この建設計画を告げなかった場合などです。
④ 不退去
事業者が、契約締結の勧誘の際に、消費者からその住居や仕事場から退去すべき旨を告げられたにもかかわらず、退去せず、それによって困惑した消費者が契約をした場合です。
例えば、事業者が、消費者の自宅を訪れて商品購入の勧誘をした際に、消費者から「もう帰ってください」と言われたにもかかわらず、長時間居座って帰らないので、仕方なく消費者が商品購入の契約をした場合などです。
⑤ 退去妨害
事業者が、契約締結の勧誘の際に、消費者がその場から退去しようとしたにもかかわらず、退去をさせず、それによって困惑した消費者が契約をした場合です。
例えば、事業者が、商品の展示会場で商品購入の勧誘をした際に、消費者から「もう帰ります」と言われたにもかかわらず、長時間にわたり消費者を帰らせず、仕方なく消費者が商品購入の契約をした場合などです。
⑥ 不安をあおる告知
事業者が、契約締結の勧誘の際に、消費者の社会経験の乏しさから、進学・就職・結婚・生計・容姿・体型等について、不安を抱いている消費者に対し、その不安をあおって、正当な理由なく、願望の実現のため契約が必要である旨告げる場合です。
例えば、事業者が、就活中の学生の不安をあおって、「このままでは一生成功しない、この就職セミナーが必要」と告げて契約を勧誘する場合などです。
⑦ 恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用
事業者が、契約締結の勧誘の際に、消費者の社会経験の乏しさから、勧誘者に恋愛感情等の好意を抱き、勧誘者も同様の感情を抱いていると誤信している消費者に対し、契約しないと関係が破綻することになる旨を告げる場合です。
例えば、事業者が、消費者の恋愛感情を知りつつ、「契約してくれないと関係を続けない」と告げて契約を勧誘する場合などです。
⑧ 加齢等による判断力低下の不当な利用
事業者が、契約締結の勧誘の際に、加齢等により判断能力が著しく低下しており、生計・健康・その他の事項について、不安を抱いている消費者に対し、その不安をあおって、正当な理由なく、契約をしないと生活の維持が困難になる旨を告げる場合です。
例えば、事業者が、認知症で判断力が著しく低下した消費者の不安を知りつつ、「この商品を買って食べなければ、今の健康は維持できない」と告げて契約を勧誘する場合などです。
⑨ 霊感等による知見を用いた告知
事業者が、契約締結の勧誘の際に、霊感等による知見として、その消費者や親族の生命・身体・財産等に生じ得る重大な不利益に対する不安をあおって、重大な不利益を回避するためには契約の締結が必要不可欠である旨を告げる場合です。
例えば、事業者が、「私には霊が見える。あなたには悪霊が憑いておりそのままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る」と告げて契約を勧誘する場合などです。
⑩ 契約締結前の債務内容の実施等
事業者が、契約締結前に、契約内容である義務の全部又は一部を実施して、原状回復を著しく困難にする場合です。
例えば、事業者が、注文を受ける前に、消費者が必要な寸法にさお竹を切断し、代金を請求する場合などです。
※ 消費者契約の目的となるものの質・用途・その他の内容・対価・その他の取引条件で、消費者契約を締結するか否かについての判断を通常影響及ぼす事項
※ 消費者契約の目的となるものがその消費者の生命・身体・財産・その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要と判断される事情
(2)改正後に追加された取消権について
改正後においては、①~⑩に加えて、以下の場合にも、消費者が契約を取り消すことができるとされました。
消費者と取引を行う企業は、契約の勧誘方法に関する消費者契約法のルールを把握しておかないと、契約が後から取り消されてしまうリスクがあります。
⑪ 勧誘することを告げずに、退去困難な場所へ同行し勧誘
事業者が、契約を勧誘する際に、契約の勧誘をすることを告げず、消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、その場所に消費者を同行し、その場所で契約締結を勧誘した場合です。
例えば、事業者が、旅行に行こうと告げて消費者を山奥の別荘に連れて行って商品を販売する場合などです。
⑫ 威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害
事業者が、契約を勧誘する際に、勧誘を受けている場所において、消費者が契約を締結するか否かについて相談を行うために別の人と電話等で連絡したい旨告げたにもかかわらず、威迫する言動を交えて、その連絡を妨げた場合です。
例えば、事業者が自宅でウォーターサーバーの購入を勧めてきたので、消費者が「電話で親に相談したい」と言ったにもかかわらず、「自分で決めないとだめだ」と強い口調で言われて、連絡ができなかった場合などです。
⑬ 契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にする行為
⑩では、事業者が、契約内容である義務の全部又は一部を実施して、原状回復を著しく困難にする場合に限られていましたが、目的物の現状を変更する場合が追加されました。
例えば、貴金属の買取りの際に指輪に付いていた宝石を鑑定のために取り外し、元に戻すことを著しく困難にして契約を勧誘する場合などです。
3.解約料の説明の努力義務
事業者は、消費者契約を解除する際の解約料を消費者に請求する場合に、消費者から説明を求められた場合には、解約料の算定根拠の概要を説明するように努めなければなりません。
消費者契約法では、消費者契約を解除する際の解約料について、消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的損害を超える額は請求できないことになっています。
しかし、消費者には、事業者に生ずべき平均的損害についての情報がないため、事業者に解約料の算定根拠の概要を説明させることで、消費者が解約料の妥当性について判断できるように、改正が行われました。
そのため、事業者としては、解約料の算定根拠について説明できるように準備しておく必要があります。
4.免責の範囲が不明確な条項の無効
事業者が、消費者と契約を結ぶ際に、消費者が事業者に対して行う損害賠償請求について、免責条項(損害賠償責任が免除される条項)を入れておくことが一般的です。
しかし、免責の範囲が不明確だと、消費者が事業者に対して損害賠償請求をためらってしまう懸念がありました。
そこで、改正によって、「軽過失による行為にのみ免責条項が適用されることを明らかにすること」が、免責条項が有効となる条件とされました。
例えば、「軽過失の場合は、●万円を上限として賠償します」という免責条項は有効ですが、「法令に違反しない限り、●万円を上限として賠償します」という免責条項は無効とされます。
そのため、自社で作成している契約条項や利用規約について、「軽過失による行為のみ免責条項が適用されること」に対応していないものは、修正が必要となります。
5.事業者の努力義務の拡充
改正によって事業者の努力義務が拡充されました。
改正の結果、事業者には、以下の努力義務が課されています。
① 契約の勧誘の際に、事業者が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で、消費者契約の内容について必要な情報を提供すること
② 消費者からの求めに応じて、消費者契約に定められた解除権の行使に関して必要な情報を提供すること
③ 解約料の算定根拠の概要の説明(上記3参照)
④ 定型約款(※)の内容の表示に関し、必要な情報を提供すること(ただし、約款の内容を容易に知り得る状態に置いているときは提供不要)
※ 約款とは、不特定多数を相手方として契約するために作成された定型的な内容の取引条項をいい、契約書と異なり個別の交渉は行われません。約款のうち、民法の要件を満たしたものを「定型約款」と言います。
企業と消費者との間の契約(労働契約は除きます)には、消費者契約法が適用されますので、消費者と取引を行う企業にとっては、契約の勧誘方法や消費者との契約内容が消費者契約法に違反しないように注意しなければなりません。
自社の契約の勧誘方法や消費者との契約内容について、消費者契約法に則っているかどうか不安な方は、弁護士までご相談ください。
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