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弁護士コラム
Column
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公開日:2020.11.27
人事・労務新型コロナウィルスの労災補償
弁護士の伊藤崇です。
自社の従業員が新型コロナウィルスに感染した場合に労災はどうなるのか。この問題に直面することがないに越したことはありませんが、備えあれば憂いなしです。
新型コロナウィルスの労災補償の取り扱いについては厚労省から通達(令和2年4月28日基補発0428第1号)が出されていますので、今回はその内容を中心に取り上げています。
本稿は令和2年11月時点の状況を踏まえ、個人的な見解も交えて述べているものです。
この点をご理解いただきまして実務対応の一助としていただきましたら幸いです。
1.労災補償の基本的な考え方
⑴ 新型コロナウィルスの労災補償の場合も基本的な枠組み自体は通常の労災補償と同様です。
業務起因性(その前提としての業務遂行性)が認められる労働基準法施行規則別表第1の2第6号1又は5に該当するものについて、労災保険給付の対象になります。
労働基準法施行規則別表第1の2
第6号 細菌、ウイルス等の病原体による次に掲げる疾病
1 患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務による伝染性疾患
5 1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病
⑵ 労災補償の基本的な枠組みは、以下の①業務遂行性と②業務起因性を充足するかどうかで判断されます。
この2つの要件を満たした傷病等が労災補償の対象になります。
2.新型コロナウィルスの労災補償における特殊性
新型コロナウィルス感染の労災補償の場合でも、新型コロナウィルス感染(これが「疾病」・「傷病等」に該当します)と使用者における業務との間に因果関係が存在することが必要です。
そして、従来の業務起因性の考え方を厳格に当てはめると、新型コロナウィルスの場合であっても感染経路の特定が必要になります。感染経路が特定されて初めて、使用者における業務遂行→新型コロナウィルス発症原因(例えば新型コロナウィルス患者との接触)→新型コロナウィルス感染という因果関係が成立し、業務起因性が認定されるからです。
ですが、新型コロナウィルスについては、いわゆる無症状病原体保有者が多数いることもわかっており、症状がなくとも感染を拡大させるリスクがあるという特性が存在します。
そのため、当分の間、新型コロナウィルスについては、調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、労災保険給付の対象とすることとされています。
3.具体的な取扱い(国内)
⑴ 医療従事者等
患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災となり、労災保険給付の対象になります。
感染経路が不明な場合も労災保険給付の対象になるということです。
⑵ 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの
感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災となり、労災保険給付の対象になります。
⑶ 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が不明なもの
調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次の①、②のいずれかの労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断する、とされています。
また、その際には、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断されることになります。
①の「2人以上(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務」については業種は限定されていません。
ですから、どのような業種であっても同一事業場から2人以上の新型コロナウィルス感染者が出た場合には労災認定がなされる可能性がある、ということになります。また、ここでいう2人以上には従業員だけに限らず施設利用者も含まれます。
但し、同一事業場内で複数の従業員の感染があっても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は、上記①には該当しない、とされています。
また、①や②に該当しない場合であっても、感染リスクが高いと考えられる労働環境下の業務に従事していた場合には、 潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、個別に業務起因性を判断して労災に該当するかどうかが判断されます。
4.具体的な取扱い(海外)
海外出張従業員については、出張先国が多数の新型コロナウィルス感染症の発生国であるとして、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合には、出張業務に内在する危険が具現化したものか否かを個々の事案に即して判断する、とされています。
以上
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