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公開日:2020.12.4
人事・労務企業法務・人事労務における年次有給休暇の取扱について
弁護士の伊藤崇です。
新型コロナウィルスの第3波が到来しています。
感染拡大防止のために年末年始休暇の分散取得のために有給休暇の取得を推奨する企業も出てきています。
そこで、今回は年次有給休暇(以下「有給休暇」)について取り上げたいと思います。
1.有給休暇の概要
⑴ そもそも有給休暇とは
有給休暇とは、一定の期間継続勤務をした労働者に対して、所定休日以外に賃金が支払われる有給の休暇を付与する制度のことです。
休暇を取ることでストレス解消や心身のリフレッシュをし私生活の充実を図ることや作業効率の向上、アイディアの創出など仕事の面においても好影響が生じることが期待されます。
⑵ 有給休暇取得時に支払うべき賃金
①所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、
②労働基準法で定める平均賃金、
③健康保険法に定める標準報酬月額の30分の1に相当する金額
のいずれかを支払う必要があり、いずれを選択するかについては、就業規則などに明確に規定しておく必要があります。
なお、③による場合は、労使協定を締結する必要があります。
2.有給休暇の発生要件と付与日数
⑴ 発生要件
以下の2つの要件を満たすことで有給休暇が発生します。
① 雇入日から6か月間の継続勤務
② 全労働日の8割以上の出勤
②の出勤率の算定に当たっては、
に注意が必要です。
2020年はコロナ禍により会社都合の休業期間を設けた企業も少なからずあるところですから、次年度以降の出勤率算定に当たっては特に注意が必要です。
⑵ 付与日数
⑴の発生要件を満たせば、雇用形態が正社員に限らず契約社員、パートタイム労働者等であっても有給休暇は発生します。
但し、付与日数が異なります。
ⅰ 原則となる付与日数
ⅱ 週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数
3.有給休暇の取得時季と時季変更
⑴ 原則的な取得時季
有給休暇は、労働者が具体的な月日を指定した場合には、その日に年次有給休暇を与える必要があるのが原則です。
後述しますが、労働者が有給休暇を取得したことを理由として使用者が不利益な取扱をすることは禁止されています。
⑵ 使用者の時季変更権
使用者は、労働者から有給休暇を請求された時季に、有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合(同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合等)には、他の時季に有給休暇の時季を変更することができます。
4.有給休暇の取得義務
⑴ 概要
2019年4月から有給休暇が10日以上付与される労働者について、年5日の有給休暇を取得させることが使用者に義務付けられています。罰則の定めもありますので注意が必要です。
これまでは有給休暇の取得は労働者の裁量に委ねられていましたが、それが原因で有給休暇の取得率が低いままになっていたため、法改正がなされ、使用者側が労働者に対して年5日の有給休暇を取得させることが義務化されました。
なお、本制度の対象となる労働者に少なくとも年5日の有給休暇を取得させることが制度の目的ですから、既に5日以上の有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による有給休暇の取得義務はありません。
⑵ 対象となる労働者
有給休暇が10日以上付与される労働者が対象になります。
正社員・契約社員・パートタイム社員などの雇用形態に関わらず対象者に含まれます。実際の対象労働者については2⑵付与日数の表ⅰ、表ⅱをご確認ください。
また、労働基準法上の管理監督者に該当する方も対象に含まれます。
⑶ 実際に有給休暇を取得させる時季の指定について
使用者が有給休暇の取得時季を指定するにあたっては、従業員の意見を聴取する必要があります。そして、できる限り従業員の希望に沿った取得時季になるように従業員から聴取した意見を尊重するよう努める必要があります。
5.年次有給休暇管理簿と就業規則
⑴ 年次有給休暇管理簿の作成・保存義務
労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する義務が新設されました。
この年次有給休暇管理簿には、年休取得日付、取得日数及び基準日を記載する必要があります。
⑵ 就業規則への規定義務
時季指定の対象となる従業員の範囲と時季指定の方法等について、就業規則に記載することが義務づけられました。
6.計画的付与・時間単位年休
⑴ 有給休暇の計画的付与
労使協定を結ぶことにより、有給休暇の付与日数のうち、5日を超える部分については、計画的に休暇取得日を割り振ることができます。
例えば所定休日が土日で夏期休暇が3日間である場合、夏期休暇とあわせて有給休暇を2日間計画付与することにより連続して9日間の長期休暇にしたり、土日と祝日の間に平日が1日挟まっているような場合にその平日1日について有給休暇を計画付与する、といった活用方法が考えられます。
⑵ 時間単位年休
有給休暇は、1日単位で与えることが原則ですが、労使協定を結べば、1時間単位で与えることができます(上限は1年で5日分まで)。
働き方やライフスタイルが多様化していますので、午前中のみ仕事をして午後からは有給休暇を取得して趣味や家族との時間にあてる、といった柔軟な働き方を可能にする制度です。
7.有給休暇の繰り越しと退職後の取得の可否
⑴ 有給休暇の繰り越し
有給休暇の時効は2年です。前年度に取得されなかった年次有給休暇は翌年度に繰り越されます。
従って、最長で40日間の有給休暇が生じることになります。
退職時に未消化の有給休暇を一気に消化する事例がありますが、ほぼ2か月間、出勤せずに賃金を支払うことになります。
権利ですからこれは当然のことですが、退職する労働者にリフレッシュの機会を与えても自社に好影響が返ってくるわけでもなく、使用者側からすると負担感は重いように思います。
ですから、有給休暇は分散して取得させる方が使用者側にとっても適切と言えます。
⑵ 有給休暇の退職後の取得の可否
いったん退職すると、たとえ未消化の有給休暇が残っていたとしても有給休暇を消化することはもちろん、未消化分の有給休暇日数の買い上げを請求することもできません、
8.不利益取扱の禁止
使用者は、労働者が有給休暇を取得したことを理由として、その労働者に対して不利益な取扱をすることが禁じられています。
不利益な取扱いには、賃金の減額など、年次有給休暇の取得を抑制するような全ての取扱いが含まれます。
以上
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